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第四話 様をつけろ様を!

 

 次の日、俺達は魔王が予約したピザを作っていた。

 注文されたピザの枚数は、たったの一枚。

 魔王からの注文だから、パーティとかで大口の注文かと期待したけど、そんなことはなかった。

 予約時間は、十二時。

 魔王がいる魔王城は、調べたら、ここから十分くらいの場所。

 今は十一時半だし、余裕で間に合うな。


「アアア、アサノさん、ままま、間に合いますか!?」

「大丈夫だよ、他に注文もないし」


 魔王から注文が入ったからって、リコが昨日から緊張しまくってるな。

 まぁでも、普通はするか。

 俺も元の世界だったら、緊張するだろうしな。


「リコ、落ち着け」

「わわわ、私、ままま、魔王城なんて、行ったことないです!」


 心配するな、俺もねーから。


「そういえば、ロニ。その魔王本人から、注文があったのか?」

「いえ、なんか茶髪でふわふわお団子ヘア、目の色が緑色の女性の方でしたニャ」

「えええええええ!? ロニちゃん、それイオール・リオーブさんだよ!」


 誰だそれ?


「ニャ?」

「魔王様が専属魔力士をやられている、飛竜族のエリートだよ!」

「おおー、あのお方でしたかニャ!」


 よく分かんないけど、魔王の飛竜なのね。


 それからリコに、いろいろと聞いた。

 魔王もリコと同じく、両親を幼い頃に亡くし、俺と同い年の十七歳で王になったと。

 魔王城は、普通の魔族の方々じゃ、基本行けないところだと。

 そして、そのイオールさんは、二十歳で魔王に仕えた、飛竜族にとって超憧れの存在だと。

 リコが緊張する気持ちが、ちょっと分かった気がするわ。


「んじゃ、留守番頼むぜロニ」

「いってらっしゃいませニャ!」


 ピザを持ち、リコと共に魔王城に向かう。


「ううっ……緊張します……」

「大丈夫だって」

「のどが……カラカラです……」

「……まったく」


 しばらくすると、魔王城が見えてきた。

 おおっ、まさしくRPGの魔王城って感じだな。

 岩山に囲まれた、まさしくお城って感じの場所ですわ。

 とりあえず、門前に降りちゃっていいのかな?

 んっ? 門番ってやつか?

 スケルトンが、二匹程ほど近寄ってきたぞ。


「なんだお前ら!?」

「あっ、魔王にピザを届けにきました! ドラゴン・ピザです!」

「魔王? 様をつけろ様を!」

「すっ、すみません」

「噂のピザ屋か、通っていいぞ」

「ありがとうございます!」


 ちゃんと門番に、連絡がいってるみたいだな。

 よかったよかった。

 てか、人型に戻ったリコ、オドオドしすぎだろ。

 逆に怪しいわ。


「リコ、大丈夫だって」

「……はいぃ」


 お城の中に入った俺達は、ご丁寧に別のスケルトンが案内してくれて、二階の玉座の間に来た。


 えっ? あれっ? なんか玉座に女の子が座ってるんだけど?

 魔王って、女なの?

 てか、普通に人型なんだね。

 赤い髪色でロングヘア、目の色は紫色。

 黒のローブを羽織って、見た目はまさしく魔王って感じだな。

 しかし、魔王って筋肉ムキムキの男をイメージしてたから、ビックリだわ。


「よく来たな、ピザ屋……か? わらわが、魔王マリナ・ラーだ」

「お待たせしました! ドラゴン・ピザです!」

「貴様! 王の御前だぞ! あまり声を荒げるな!」


 おっ、薄い黒のワンピースを着ているあの人が、飛竜族のエリート、イオールさんか。

 あんたのほうが、声でかいがな。

 てか、貴様って言う人、初めて見たわ。


「魔族領で最近噂になっていた、ピザとやらを食したくなってな。お主らを呼んだわけだ」

「ありがとうございます」

「どれ、さっそく食べてみるか」

「はい」


 魔王に、ピザを差し出してっと。

 うわー、イオールさん、めっちゃ睨んでるよー。

 こえー。


「……ほう、凄く美味だな!」

「ありがとうございます」


 さすがピザ。

 魔王さえも、うならせるとはね。


「気に入ったぞ、ピザ屋。お主、名はなんという?」

浅野聖司(あさのせいじ)です」

「ふむ、アサノか。お主、今日からわらわの専属調理師になれ」


 えっ?

 おいおい、いきなり何言ってるのこの人。

 超展開すぎだろ。


「いえ、俺はピザ屋の仕事が忙しいので……」

「貴様! 魔王様の命令に、背くつもりか!?」


 ほらー、絶対怒ると思ったよ、イオールさん。

 めんどくさいことになったな。

 リコは涙目で、固まってるし。

 ……よし。


「じゃあ、俺と勝負してください」

「むっ? わらわと勝負だと?」

「はい。魔王様が勝ったら、なんでも言う事を聞きます」

「……ほう」

「その代わり、俺が勝ったら、なんでも言う事を聞いてください」

「貴様! ふざけてるのか!?」


 これまた怒ると思ったけど、イオールさん、ふざけてなんかいませんよ。

 これくらい無茶苦茶な内容じゃないと、魔王が聞いてくれなさそうだしな。

 一か八かですわ。


「……いいだろう。その勝負、のった」

「まっ、魔王様!?」


 きたあああああああ!!


「約束ですよ?」

「うむ。で、どのような勝負をするのだ?」

「そうですね、お互い専属の飛竜がいますし、鬼ごっことかどうでしょうか?」

「鬼……ごっこ?」

「はい。飛んでいる魔王様を、五分以内に俺がタッチできなきゃ、魔王様の勝ちって事で」


 魔王の魔力がどれくらい凄いか知らないけど、俺の魔力なら、たぶん大丈夫だろ。

 国王軍のエースも、たいしたことなかったしな。


「ハハハハハハハ!! いいだろう、わらわも舐められたものだ」

「そのようですね、魔王様」


 あれ? あちらさん方、なんか余裕そうだぞ?

 もしかして、やばかった?


「アアア、アサノさん! ままま、魔王様は、アサノさんよりも強い魔力をお持ちですよ!」


 おおっ、久しぶりに話したね、リコ。

 そして悲しい説明を、どうもありがとう。

 勝負方法、ミスったかな……?


 おっ、イオールさんが変身したな。

 かっけぇ、黒竜じゃん。


「では、アサノ。ここから外に出られる」

「あっ、はい」

「五分以内に、わらわを捕まえてみるがよい」


 うほっ、ベランダっぽいとこから、飛んでった飛んでった。


「いつものアサノさんより……早いですよ……」

「……だなぁ」

「わっ、私! アサノさんと、もっとピザ配達したいです!」

「……リコ」

「はいっ」

「心配しなくていいぞ、なんとかなりそうだ」

「……えっ?」

「いつもの俺、本気出してねーしな」


 確かに俺は、いつもリコに乗る時、全然魔力を強めていない。

 あんまり強めて速くすると、リコが驚くだろうしな。

 あれが魔王の本気じゃなきゃ、なんとかなりそうだわ。


「よし! リコ、変身してくれ」

「はっ、はい!」


 自分から言い出した勝負だ。

 とりあえず、がんばってみっか。

 んじゃ、飛んでっと。

 ちょいと魔力高めるぜ、リコ。


「まっ、魔王様!」

「どうしたイオ……なにっ!?」

「こんちわー」


 あれ、簡単に追いついちまったぞ。


「ほっ、ほう……。なかなかやるようだな」

「どういたしまして」

「なら、絶望の底に突き落としてやろう。七十%の力だ!」


 うおっ、速くなった。

 でもまぁ、まだまだ余裕で追いつけますけどねっと!


「まっ、魔王様!!」

「なっ、なにぃ!?」

「こんちわー」


 あれ? また簡単に追いついちまったぞ。


「ほっ、ほう……。本当に、なかなかやるようだな」

「どういたしまして」

「なら、見せてやろう。勇者相手にしか見せた事のない、わらわの百%の力を!!」


 勇者? やっぱ勇者もいるんですね、この世界。

 てか、また速くなったな。

 でもまぁ、相手が悪かったですね、魔王様っと!


「ハハハハハハハ!! 後ろにやつの姿が見えなくなったわ!!」

「……まっ、魔王様」

「どうした? イオール」

「やつは……前におります」

「こんちわー」

「なっ、なにいいいいいいい!?」

「ほい、タッチ」


 魔王に、タッチかんりょー。

 よかった、勝てた勝てた。


「……アサノさん、やっぱり凄い」

「だろ?」

「魔王様に……勝っちゃうなんて」

「リコ、怖くなかったか?」

「はいっ!」


 さすがだね、リコ。

 俺と毎日一緒に飛んでるから、もう速さには慣れっこになってきたんでしょうね。


「ばっ、馬鹿な……わらわが、負けるだと……?」

「約束は守ってもらいますよ、魔王様」

「ふっ、ふざけるな! あんな約束など!」

「……よい、イオール」

「えっ? しっ、しかし、魔王様!」

「よい、玉座に戻れ」

「……はっ」


 さすが、魔王。

 いさぎがいいね。

 とりあえず、一件落着っと。




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