第二話 ドラゴン・ピザ
リコの家に泊まってから、三日が経った。
その間分かった事が、色々ある。
まず、この異世界、元の世界とあんまり変わらない。
電気もガスも水道も、ちゃんとある。
リコと何度か近くの町に行ったけど、中世ヨーロッパ風の雰囲気なだけで、食材は肉や野菜などが普通に売っていた。
ただちょっと、食文化は違った気がするな。
リコと話せるように、言葉も通じるし、文字も読める。
ただ、見たこともない文字だったけどな。
何という、親切な異世界だろうか。
だからなんか、異世界じゃなくて外国に来たって感じがする。
まぁこれが、俺にとってはめっちゃでかい、でかすぎる。
もし電気とかがない異世界だったら、現代人の俺は発狂してただろうからな。
魔族領っていっても、リコみたいな人型の魔族もたくさんいるし、特に違和感もない。
ゴブリンやオークを初めて見た時は、さすがにちょっと驚いたけど。
まぁこれも、リコの竜の姿も見た後だし、すぐに慣れた。
俺が人間ってのも、魔力持っちゃてるから、ばれないだろうし。
しかし、一つだけ問題がある。
リコ、めっちゃ貧乏ですわ。
リコは十四歳で、幼い頃に両親を亡くし、現在あの家で一人暮らし。
この世界には学校はなく、リコはいわゆるフリーター。
週二、三日、町の飲食店でウェイトレスのアルバイトをしてるみたいだが、非常に質素な生活をしている。
たまに、山の木の実や、湖で魚を捕ったりしてるから……。
貧乏なのは、まぁいい。
そこに俺が、居候しているから気になる。
ぶっちゃけ今の俺、ただのニートだからな。
そこで、俺は考えた。
どうにかして、この世界で働いてお金を稼ごうと。
リコに、うまいものくらい食わしてやりたいと。
で、そんな俺は今、リコの背中に乗り空を飛んでいる。
今日の夕食の、買い出しの帰り。
リコも速さになれたのか、俺が無茶な操縦をしても、もう叫ばなくなっている。
「……なぁリコ、家に石窯あったよな?」
「はい、それが何か?」
「あれ、使えるよな?」
「使えますよ。たまにパイとか、作ってますし」
「……ピザって、知ってるか?」
「何ですか? それ」
空を飛んで、ピザ配達。
これ、売れるんじゃね?
空の上じゃ、交通渋滞もないしな。
元ピザ屋の俺は、そんな事を考えていた。
実は俺、久々にピザを食べたくなって、リコにピザ生地の材料とモッツァレラチーズ、後バジルとトマトソースを買ってもらっていた。
後、無理言って、ピザピールを自作する為の材料も。
ごめんね、リコ。
でも、美味しいもの食べさせてあげるからね!
リコの家に帰り、俺はさっそくピザ作りを開始した。
俺は配達専門だったが、もちろんピザも大好き。
だからピザ屋にいたといっても、過言ではない。
なので、手作りピザも経験済みですわ。
時刻はお昼過ぎくらいか。
夕方までには、ピザを作れそうだな。
「リコ、石窯の準備しといて」
「はーい」
作るのは、マルゲリータ。
生地の発酵とかで時間掛かったけど、ようやく最後の焼きまできた。
ピザピールも、同時進行で制作済み。
なんとかなるもんだ。
「んじゃ、焼くぞー」
「はいっ!」
リコも、見たことがない食べ物だからか、ウキウキしてるな。
なんか、地味に嬉しいぜ。
待つ事三分、マルゲリータが出来上がった。
「じゃーん! これがピザ、マルゲリータだ!」
「おおーっ!」
「ピザカッターがないから、ナイフで切るか」
「なるほどなるほど」
「ほい。リコ、食べてみ」
「はいっ! いただきます!」
リコが、ピザを食べ始める。
なんかちょっと、緊張してきたな。
「……どうだ?」
「……すっ」
「すっ?」
「すっごく、おいしいです!」
よかった。
さすがピザ、異世界でもやってくれるぜ。
「こんなに美味しいものが、この世にあるなんて……アサノさん、さすがです!」
「だろ?」
まぁ、俺が発明したものじゃないけどな。
さて、本題ですわ。
はたして、リコは力を貸してくれるだろうか?
「でさ、リコ。俺、このピザってやつを売りたいと思っててさ」
「えっ?」
「俺さ、元々ピザを配達する仕事してたのよ」
「へー、そうなんですか」
「ピザを、他の魔族のみんなにも味わってもらいたいんだよね」
「ふむふむ」
「リコが働いてない日、配達手伝ってくれないかな?」
「いいですよ!」
あれっ? なんか思ってたより、あっさり承諾してくれたな。
これが、専属魔力士の力か。
ありがとう、リコ。
んじゃ、さっそく準備だな。
まずこの世界、電話はあるのか?
これまたリコに、聞いてみよう。
「魔力通信の事ですか?」
おおっ、異世界っぽいね。
魔力と水晶玉で、テレビ電話みたいに話せるみたい。
よし、まず電話ゲット。
次は従業員か。
さすがに俺とリコ二人じゃ、店は回らない。
ここはリコの友達でも……と思っていたが、またまたリコから嬉しい言葉が。
「使い魔を、召喚すればいいんじゃないですか?」
いいね、それこそ、ザ・異世界っぽいね。
俺くらいの魔力があれば、使い魔を召喚できるらしい。
リコにやり方を教えてもらい、いざ挑戦。
使い魔っていえば、やっぱ黒猫か?
リコが書いてくれた魔法陣の上に手を載せて、召喚するイメージをっと。
あ、出た。
「私の名前はロニ・ペッパーですニャ! よろしくお願いしますニャ! ご主人様!」
すげー、黒猫が立ってしゃべってる。
猫っていっても、人間の子供くらいの大きさだな。
聞くところ、魔力は持ってるみたいだから、魔力通信は大丈夫そう。
よし、問題の調理だ。
二枚目のピザ、ロニに作らせてみるか。
手順を教えてっと。
ちゃんと、手を洗ってからしろよ。
「できましたニャ! ご主人様!」
完璧。
やるじゃないか、ロニ。
下手なバイト雇うより、全然いいな。
人件費も、一切かからないし。
「すごいねー、ロニちゃん」
「フフフ、楽勝ですニャ! リコ先輩!」
リコとロニも、すぐに仲良くなったな。
てか、リコ先輩って。
おいロニ、リコは使い魔じゃないぞ。
さて、次はピザの値段と宣伝だ。
この世界の通貨の名前は、リック。
大体一枚三百リックで作れるから、最初はサービス価格で千リックくらいにしとくか。
人件費もガソリン代もかからないし、儲け七百リック!
宣伝は、とりあえず口コミ作戦かな。
ここはリコに、活躍してもらうか。
「リコ、次のウェイトレスの仕事の時、このピザの話題を振りまいてくれ!」
「分かりました!」
「もちろん、ピザ配達の仕事としてだぞ!?」
「分かってますよ!」
「そんでもってこのピザを売って、一緒にうまいもんでも食べようぜ!」
「はいっ!」
なんて、健気でいい子なんだ。
異世界に来た俺に住む所をくれたリコに、マジでがんばろうと思ったぜ。
おっと、忘れてた。
最後に、このピザ屋の名前だな。
なるべく、インパクトのある名前をつけなきゃな。
うーん……飛竜で配達……ドラゴン……。
ドラゴン・ピザ。
よし、これでいこう!
シンプルすぎ?
いやいや、そのシンプルさが逆にインパクトあるみたいな?
たぶん! 大丈夫!
――三日後。
ドラゴン・ピザを一応開店した俺は、今日も変わらずリコの家にいる。
注文、一度もこねー……。
ちょっとは、期待してたんだけどな。
リコもがんばってくれたみたいだけど、やっぱ口コミだけじゃきついか。
ですよねー。
世の中そんな、甘くはないですよねー。
「あっ」
んっ……? どうしたリコ?
あれ? 水晶玉が光ってるぞ。
まさか、魔力通信!?
おいロニ! 通信にでるんだ!
お客様を、待たせちゃいかん!
「通信ありがとうございますニャ! ドラゴン・ピザですニャ!」
「こんにちはー。リコの友達のルームでーす」
「あっ、ルームちゃん! こんにちは!」
なんだ……リコの友達か。
注文がきたのかと、焦っちまったぜ。
「ピザってやつ? お願いしようと思ってさ」
注文きたあああああああ!!