第一話 ガオー!
「……あっ、気がつきましたか?」
倒れている俺の目の前に、見た目中学生くらいの女の子がいる。
水色の髪色で、ショートボブ。
レイヤーか?
目の色が緑だし、翼と尻尾付けてるぞ。
しかもこのクソ寒い中、白の薄いワンピース一枚って……。
……あれ? 寒くないな。
てか、明るいぞ。
クリスマスの夜……だったよな?
俺は起き上がって、辺りを見渡した。
どこだここ? なんか綺麗な湖のほとりにいるぞ。
まさか、天国か?
「あの……大丈夫ですか? 倒れていましたけど」
この子は、天使ってやつなのか?
翼あるし。
とりあえず無視して、状況を確認せねば。
ピザ屋のバイクが、転がってるな。
って事は、あれからそんなに時間は経っていない。
で、俺は確かトラックと正面衝突したはず。
でも、体は無傷だな。
とりあえず立ち上がって、もう一度辺りを見渡す。
大きな山に囲まれた、綺麗な湖のほとり。
とりあえず、無視してごめん。
この女の子に、聞いてみよう。
「……あのー、ここどこですかね?」
「はっ、はい。ここは、魔族領のオリジンって場所です」
ちょっとまて。
今この子、魔族領って言わなかったか?
……あー、そうか。
あれか、今流行りの、異世界に来てしまったか。
なんか、仲村いずみに振られてから人生どうでもよくなったせいか、今の俺じゃあんまり驚かないな。
生きてただけで、ラッキーですわ。
これが小説なら、今ここで読者様は、完全にブラバってやつだろうね。
ありきたりすぎるもん。
しかし、本当にあるもんなんだな。
まさか自分が、異世界に来てしまうとは。
あっ、なるほど。
だからこの女の子、翼と尻尾があるのね。
魔族? ってやつかな?
聞いてみるか。
「……あのー、翼と尻尾、あるんですね」
「はい、飛竜族ですし。……えっ?」
「はい?」
「にっ……人間!?」
「はい」
「きゃあああああああ!!」
あっ、人間って認めちゃやばかった?
魔族領って事は、人間はいちゃだめなパターンですか?
「近寄るなあああああああ!!」
いやいや、あなたが俺に近寄ってたんじゃないですか。
んっ、あれっ? 眩しっ。
なんか女の子が、変身? したんですけど。
白い竜? ドラゴン? ってやつになったんですけど。
そういえばさっき、飛竜族って言ってたな。
「うわあああああああ!!」
くそっ、思わず叫んでしまったじゃないか。
そりゃ、普通の人なら驚くわ。
女の子が、いきなり軽自動車くらいの竜に変身するんだもん。
「ガ、ガオー!」
「……ひっ」
このまま食べられて、結局死ぬのかな?
「……ガオー!」
「ひっ!」
なんか吼えるだけで、襲ってはこないな。
「ムフフ、ガオー!」
「……はぁ」
よく見ると、竜っていっても女の子のままのつぶらな瞳だし、あんまり怖くないな。
なんかだんだんと、イライラしてきたぞ。
後ろに回って、ちょっとヘッドロックでもしてやるか。
「きゃあああああああ!!」
「このやろう! 脅かしやがって!」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
女の子の背中に乗って、ヘッドロックを決めたのはいいけど、何だこれ?
なんか俺の手が、紫色に光り輝いてるんだけど。
「……えっ? 魔力!?」
「えっ?」
「なんで人間のあなたが、魔力を持っているんですか!?」
「……さぁ?」
「しかも、かなり強い魔力……」
「そうなの?」
「魔力は、魔族だけが生まれながらに持ち、人間に対しての絶望や憎悪が大きくなるほど、強くなる力なのに!」
あー、説明ありがとうございます。
めっちゃ、心当たりあります。
仲村いずみに振られて、絶望しました。
で、その子がイケメンと歩いているのを見て、憎悪抱きました。
それくらいで魔力持っちゃうなんて、俺も器の小さい男ですわ。
もちろん俺は人間ですが、たぶんクズすぎて魔族に堕ちたって事でしょうね。
「……あのー、空、飛んでみません?」
「はい?」
いきなり、何言ってるんだこの子?
「私達飛竜族は、自分だけでも飛べますが、後ろに乗せた方の魔力を元に大きく性能が変わるんです」
「……はぁ」
「かなり大きな魔力ですし、一回だけ!」
あれか、後ろに乗せたやつの魔力が高いほど、いい性能の竜になるのか。
この子も、俺が魔力を持っているのを見て安心したのか、警戒しなくなったな。
しかし空を飛ぶ……面白そうだ。
「いいけど、どうすればいいのかな?」
「そのまま私に、魔力を注ぎ込むようなイメージをしてください」
「はい」
「注ぎ込むイメージが強ければ強いほど、私に大きな魔力が注ぎ込まれます」
この子に触れている手から、紫色の光を注ぎ込むイメージ。
よく分からないが、こんな感じだろうか?
「それです! その感じです!」
「……はぁ。で、この後は?」
「魔力を注いでいる間は、私は自分の意思では飛べません」
「えっ?」
「えっと、あなたが……」
「俺の名前は、浅野聖司だよ」
「あっ、私はリコ・バージです。魔力を注いでる間は、アサノさんがイメージした通りに飛べます」
竜を操縦ね。
ピザ屋でエースドライバーだった俺の、血が騒ぎますわ。
よし、空を飛ぶイメージをしてと。
リコの翼を、羽ばたかせるイメージ。
おおっ、翼が動いた。
おおおおっ、浮いた!
「こいつ……動くぞ!」
「そりゃ、動きますよ」
「……一回言ってみたかっただけだよ」
しかし、本当に浮いてる。
けっこうな高さまできたけど、大丈夫かこれ?
「……落ちたりしたら、助けてね」
「大丈夫ですよ。魔力を注いでいる間は、どんなに暴れても落ちませんから」
「そうなんだ。よしっ、じゃあ行くぞ!」
「はいっ!」
魔力を調節して、前方に向かうイメージをっと。
あっ、飛んだ。
「きゃあああああああ!!」
「うっひょー! はえー!」
「アッ、アッ、アサノさあああああああん!!」
やばい、空を飛ぶのって、気持ちよすぎだろ。
てか、なんかリコ、ビビってる?
まぁいいや、次は落ちないのなら、旋回するイメージをっと。
「いやあああああああ!!」
「なんで飛竜なのに、さっきから驚いてるんだよ!」
「はっ、はっ、速すぎますううううううう!!」
あれか、リコはこんな速く飛んだ事がないのか。
俺の魔力、かなり高いって言ってたもんな。
しょうがない、魔力を弱めるイメージをっと。
「……ううっ、グスッ」
「ほら、これぐらいの速さなら怖くないだろ? なにも泣く事ないじゃないか」
「いえ……最初は怖かったですけど……」
「えっ?」
「飛竜族は、凄い性能で飛べる事が、名誉な事なんです」
「……へぇ」
ようするに、いいパイロットを乗せて飛ぶ事が、飛竜族にとっては嬉しいんだね。
俺の魔力って、そんなに凄いのか。
好きな人に振られた事で、持った魔力。
なんか、複雑な気分だな。
俺は湖の傍に建つ、一軒の家にリコと降りた。
木造で平屋の、小さな家。
見た目は、ログハウスって感じだな。
「ここって、もしかしてリコの家?」
「はい、ここで一人暮らしをしています」
「なるほどね」
リコは俺が背中から降りると同時に、人型の姿に戻った。
さて、俺は今からどうしようか。
元の世界に戻る方法も分からないし、こっちの世界に住む家もないし。
あれ? なんかリコがモジモジしているぞ。
どうしたんだ?
「……あの、アサノさん」
「んっ?」
「よっ、よかったら、私の専属魔力士になってくれませんか?」
専属魔力士?
あー、操縦士、専属のパイロットになってくれって事か。
名案、閃きました。
「いいよ。その代わりなんだけど、少しの間だけ家に泊めてくれないかな?」
「えっ……? はっ、はい! そんな事でよければ!」
「ありがと! よろしくね、リコ!」
「こっ、こちらこそ、よろしくお願いします!」
助かった。
でも、本当にいいのか?
魔族っていっても、リコは人型なら、見た目は普通の女の子。
男の俺を、いきなり家に泊まらせるなんて……。
俺は別にいいんだけど、回りから変な目で見られたりとかしないのかな?
一応、聞いとくか。
「あのさ、リコ、本当にいいの?」
「えっ? そりゃまぁ、最初は人間のアサノさんを見て驚きましたけど……」
「えっ?」
「魔力を持ってましたし、安心できます!」
なんか違うけど、まぁいいか。
てか、魔力を持っちゃうくらいの、悪い人間なんですけどね。