猟奇 (ぶっちょ)
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拝啓 佐久間家の方々へ
単刀直入に申し上げると、汝らの娘を頂きたい。
残忍な事件に遭遇し、五体不満足と化したことは重々承知している。しかし小生は、その彼女に胸焦がす思いを抱くような生理的欲求を保有している。
彼女、即ち過剰に奇抜で我が逸脱した欲求を満たしうる最上の存在を、どうして無視できようか。心の奥底から際限なく湧き出るこの衝動を、どうして抑えられようか。それはあまりにも酷ではないか。
思考能力が著しく低い、教条主義的な人権擁護を常々叫ぶ輩の意見は考慮の対象としてほしくない。彼ら偽善者らの主張する事柄は拍手喝采立派なものであるが、所詮そこにあるのは進歩的な自己への愛のみである。
私は違う。彼女の事を真に想い、尊敬し、憧れすらいだいている。
よって私は、件の少女を所望す。
返答求む。
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「こんな手紙、お嬢様には見せられません」
弁護士バッジを胸につけた男が、頭を振った。手に持っていた手紙を机に無造作に置くその様を見届けてから、向かいに座る初老の男性が口を開く。
「やはり、君もそう思うか……権利尊重に熱心な君に尋ねるのも、愚問ではあるが」
「お嬢様は凄惨な事件に巻き込まれ心身を衰弱していらっしゃいます。これ以上の心理的負担は避けましょう」
「……しかし今や、ああなってしまった我が娘に近づこうとしてくれるのはこいつだけだ、もしかしたら、娘も……」
「ご主人、お気を確かに。こ奴はお嬢様をどう扱うか分かったものではありません。佐久間家に対する挑戦です。人権侵害甚だしい。早速周囲の警備を厳重にしましょう」
「……そうだな、そうするか」
「では私はこれで」お嬢様にも挨拶しますよと言いながら立ち上がり、「お嬢様」がいる小さな部屋へと向かう。
そこにいるのは四肢が欠損し、目元にすら包帯が巻かれた少女。椅子に座って、ただただ息を潜めるように呼吸をしている。
弁護士はわざとらしく足音をたて、少女に近づいた。
そして、優しく肩に手を置き、そっと言った。
「お嬢様。あなたは一人ぼっちです。これからも、ずっとね」
少女が華奢な胴体を震わせる。
弁護士が賤しい笑みを浮かべる。
椅子のきしむ音が、少女の部屋に響いた。
批評会用超短編小説。
目標は気持ち悪いものを書く。
ゼミ課題の流用をする屑野郎とは己が身の事