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(2)

あけましておめでとうございます。

本年度もこのような腐った&狂った文体で参ります。

宜しくお願いします

宿に戻って、荷物を整理する時雨とエヴィル。未だにあのワイルドな料理の余韻が残っている。

 

「あの荒っぽさもまた味なんだな。またあそこの店には行こう」

 

「お肉、美味しかったね。野菜も、流石って感じ」


 「これだから、辺境の料理屋は見過ごせないのだ」


 「普通見過ごされてるの?」


 「よく居るだろ、『わらわ、庶民の田舎料理など食べる気になれませんわ!』とか抜かす貴族、つーか馬鹿」


 「今、その声真似、すごく面白かった」


 風貌も相まって、非常に高慢な感じが、妙に時雨のツボに入った。


 効果音は「おーっほっほっほ」である。金髪ツインテ、もしくは縦ロールだったらさらに言うことはない。何の話をしているのか。


 「ところで、そのお嬢様ネタを引っ張るけど」


 少女(外見的に正反対である)、意外にもそのネタに食いついてくる。


 「んあ? 何だ?」


 すっとぼけた反応をする美貌の青年。


 「ここいらの領主って誰にあたるんだろうね? あるいは有力者」


 「さっき話に出てただろ? 神であり精霊であり吸血鬼」


 「あ、まあ、それはそうなんだけど、一応人が住んでるからには、何らかの国の領土であるわけじゃない」


 「そういうことか。ふむ……そういえば、トルベ町で買った地図は、ここ以上の地理が書かれていなかった。即ち、国境である可能性が高い、そういうことだな?」


 「うん」


 「でも、それそんなに現時点で気にすることか? と俺様は思う」


 「その心は?」


 「あの店主が言っていたように、ここは様々な高位存在の寄り合い場所……混合地帯となってる。そこを一人の領主が取りまとめる、ってのがそもそも厄介なコトを持ち込む要因なんだ。で、俺様、吸血鬼のことを聞いたが――それに該当しそうなのがそいつのような奴だからな。が、その吸血鬼はそうでもないらしい。で、ここがどこかの国に当たるにしても、どの道辺境であるには変わらない。そもそも、そういった面子を気にする奴がいたら、あんな三流の賊を野放しにしてるか? って話で」


 「ん……だね。私も考え不足だった」


 「気にするのも分かるがな。どうも俺様たち、そのあたりの機微を無視しがちだから、いらんトラブルを各地で引き起こしがちだったから」


 要するに、荒い言葉(素直にヤックーザ・ランゲェジと呼ぼう)で言えば「何ワシらのシマ荒らしくさってくれるんじゃぁ!」的因縁をつけられることが多いのが、二人の旅であった。


 天才とはかような俗世の鎖に縛られることがないため、必然的に土着の恨みを買いやすい。自由は憧れるが(とくに筆者)、それもそれで、辛い物もあるのである。


 「まあ、一応この村……とくに賞金稼ぎギルドには恩を売っといたからな。こういった村……交易拠点的な村では、何はともあれ、ギルドの力が大きい。俺様の見立てでは、『名目上の領主』よりも大きかろうよ。だから、結論としては、しばらく平穏に過ごせるんじゃないか、ってこと」


 「んー、じゃあ、ゆっくりしていく?」


 「というより、『今はゆっくりしていかざるを得ない』といったところか」


 「何か、不承不承、といった感じがあるね」


 「この先のことだ。一方は荒野や砂漠が広がり、一方はどこまで行っても大草原。害はなさそうとはいえ、相手にしたら厄介そうな吸血鬼の城……この村以降、どこかの街道に出るまで、それなりに厳しいルートを通らなくてはならない」


 「それは私も思った。だけど、どの道先に進まなければならないわけで……エヴィル君、この村で最後を迎えるつもりなんて……」


 ブフォッ! とエヴィルはむせた。何かがツボに入ったらしい。ちなみに、ナッツが気管支に入ったときも同じ反応をするが、その時は非常に危険なので、的確な対処が求められる。たまには役に立つことも書いておかねば。(手遅れの気もするが)


 「ふっはははははは! 何て冗談だ! この俺様が? こんなうだつの上がらない村で? 俺様、それを想像しただけで憤死してしまいそうだぞ」


 「駄目じゃん」


 「いやー、ツボに入った。99%ありえないが、面白い視点を見させてもらった」


 「あ、1%はあるんだ」


 「そりゃ、人生何があるか分からないからな。今俺様の脳がプチっと切れてお陀仏、みたいなことだって、『原理的』にはありうる」


 人生なんてそんなものである。


 ちなみに筆者、夜中自分が……というより家族がこうなってしまうのではないか、と考えると、とたんにガクブルしてくるので考えないように努めているのだが、そうすると余計考えてしまうので、困ったものである。


 いつまでもあると思うな親と金。親孝行したいときには親はなし。


 「だから俺様は悔いの残る生き方はしない。もがいてもがいて、少なくともこんな村で死んだりはしない。そのためなら――」


 「神でも殺す」


 「言うねえ。しかし、気持ちは一緒だ」


 そんな話を、する。


 確認する、といった感じではないが、あくまで単なる世間話の範疇にすぎないが、それでも。


 「ま、ともかく情報収集だ。この先、また長い旅になる。それまで小休止と、長出の準備だ。幸い、ここは交易の拠点。しすぎるだけしといて損はない」


 「ん、それには完全同意。……と、こうして話しているうちに夜も更けてきたし、寝るかな?」


 窓の外はとっぷりと、まるで漆黒という形容がふさわしいように更けている。


 手を伸ばせばその色に染められてしまうような。


 あるいは人を省察させるような。


 そんな静かな夜だった。

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