●2.村で情報を集めよう(1)
新しい話です。
あんまりアクション描写はありません。
どんな話か? うーん、RPGにおける町とかキャンプ描写というか。
それから、「バカ散財」。
時雨とエヴィルは、林を抜けていったところにある「ラルド村」という、小さな、辺鄙な村に辿りついた。
宿をとり、それから、隣接する食堂で、ゆったりと食事をしている。ちなみにカウンター席。
「まあ、三流の賊とはいえ、当座の宿代にはなるだけのもんは持ってたのか」
エヴィルが手元の、丸太をぶった切りにして作ったテーブルに、硬貨の入った革袋を置いて、指先でつんつんしたり、手で持って弄んだりしながら言う。
あの外道極まりない人体実験をした挙句、その後エヴィルと時雨は、六人の盗賊の身ぐるみを引っぺがし、更には催眠魔法をかけ、アジトの場所や、同業(裏稼業、犯罪者)の情報を根ほり葉ほり聞き出し、財宝と情報をたんまり仕入れ、それらを村の賞金稼ぎギルドに売り払い、こうして代価を得たわけである。
一応は連中も賞金首で、この辺りの厄介者となっていたので、時雨とエヴィルの二人は、さっそく村の人々に感謝された。
あれだけの人道無視を働いておきながら感謝されるというのだから、世の中結局はやったもん勝ちというか、強者こそが正義というか。
無論、悪行のカードを最初から切りはじめていたのは盗賊の連中なのだから、かける情けはないのだが、それにしても程度というものがあるのではないだろうか。
しかしそんなことを気にしていたらこの二人には到底付き合っていられないので、付いていけない読者の方はこの辺りでこの本を投げ捨ててしまうのが賢明と思われる。
え? 何? もう捨てた? これは失礼。
さてさて、そんな艱難辛苦(そこまで言う)を乗り越えて、本書を読み進めようとする読者のご厚意には応えなければならない。
つまりはさっさと話を進めることである。そんなこと言ってるんだったらさっさとしろよ。
「それにしても程度が低かったね」
時雨は言う。
「あれでも賞金首だってんだからなー、ザコすぎ……。なんだろ、まず狙いやすい相手を両方から囲んで、いたぶって。ちょっと手こずりそうだったりする場合はあの宝玉を使うんだろうな」
「え、一回きりのじゃないの? 宝『玉』でしょ? 叩き割ろうとしてたよ?」
「ちょいと調べたけどな、ある程度の連続使用は可能なようだ。何度割っても元通り、まではいかんが、一日程度放っておけば元通り。それもまあ、十回もいかんだろうが」
「便利……だけど、中途半端かな」
「それがあの賊の程度、器ってことだよ」
それを聞いていた、カウンターの中に居る店主(脂ぎったボンレスハムのような体形である。頭も薄い)は二人に声をかけ、同時に料理を出す。
「あれでも、ここいらでは結構荒らしていたもんなんだがな……あんたら
、馬鹿みたいに腕が立つんだな」
出された料理は、まず、鼻先にかっと火花が散るような香ばしさの黒コショウがふんだんにまぶされたポテト。
竜の鱗のように刺々しい衣を持つ肉料理は、油がジュウジュウと魅惑的な音を立てている。この衣の独特の「固さ」はそれだけで特筆に値する。
青々とした菜っ葉を湯通しし、パプリカなどと合えてビネガーでさっと味付けする、田舎風煮びたし。
もうひとつの副菜として、瑞々しいトマトには、甘めの白いソースがかかっている。
パン(バケット)はこんもりとある。
エヴィルの要望で、酒は出されなかった。
好きなだけ呑んでいけ、と店主や客からは言われたのだが、「俺様、酒は呑めんのだ」と言われたので、代わりにオレンジジュースが出されている。
「呑めない」というのはこの世界においても(いやむしろ、この中世時代だからこそ)、いささかの嘲笑の対象となるのだが、しかし青年の恐ろしさ(残虐性と能力の高さ)を皆知っているので、それがこっちに向かってはたまらない、というまっとうな判断力を有しているがゆえに、スルーされた。
近隣に自然が豊富にあるということで、実に素材の生きがいい。時雨とエヴィルは、素朴ながらも力強いその味に舌づつみを打つ。
で、青年、店主の言に、さらりとこう言って返す。
「まあな、俺様、天才だからな」
店主、それを聞いて苦笑い。
「タダモンじゃないってのはわかるよ」
あまりにさらっと自己の天才性を認め、あたかもトマトは赤いのが当たり前だろう、みたいな自然さを臆面もなく言うので、もはや苦笑いするしかない。
店主、自分は天才だと抜かす連中を、こういう客商売を長年してきているから、幾人も見てきているのだから、またこの手合いか、と思っている。
が、エヴィルの認識としては、違う。
「天才」の定義がエヴィルの中では違うのだ。
例えるなら、テストで100点を取るのは、天才ではない。秀才である。
本当の天才というのは、そのテストの設問の問題自体が間違っていることを教師に指摘し、さらには「この設問は間違っているが、思考を働かせてみれば、これから別の理論体系を導き出せなくもない」みたいに、テストそっちのけで自己の思索にふけってしまう、という、好き勝手でフリーダムな、しかしどこまでも純粋で、過激な頭脳を爆発させるのが「天才」である。
それでいて、テストの最初の方にある基礎問題(計算とか)で、つまらないミスをしてしまって、秀才の100点に及ばなかった、というアホな間抜けさも持っているものである。
が、天才はそんなテストなどという小さな枠組みには収まらない。
少なくとも筆者の、そしてエヴィルの「天才」の認識はこういったものである。
「それは人間の所業ではない」と言われる向きもあるかもしれない。
そう、人間離れしている。「化物」と形容する方がいい。
ならば、秀才とは、畢竟「人間」の範疇に収まっているのである。
ここまでの文章をお読みになられた方にはお分かりかと存ずるが、この時雨とエヴィルという二人、上の定義に従えば、化物、という意味合いでの天才、であることが推察出来ると思う。
もはや人間ではない。そういえばそんな歌あったな。どうでもええわ。
エヴィルはそのあたりを充分に自己認識している。だからさらりと店主に受け答えしたのだ。
説明が長くなった。
が、ここでこの物語の最大のネタバレをしてしまえば、この「時雨とエヴィル」という物語は、とどのつまり、基本的に時雨とエヴィルの天才性を追求していく類の物語であるからして、そういったものが肌に合わない、という御仁は巻を投げ捨て(以下略。それにしても読者を引きとめる努力というのをしないのか)。
話を二人の会話に戻す。
「まあ何はともあれ当座の路銀にはなった、ってとこだ」
革袋を小突きまわしながらエヴィルは言う。やはり先立つものは金である。
「さて……ちょいとこの村で休むにして、次どこ行くか」
「第一この辺りの地理すら把握してないじゃない。前買った地図は、この村が限界だったし」
それくらいこの村は辺境なのである。さぞや偏狭な人間も多かろう。誰が駄洒落を言えと言った。
それは偏見にしても(が、長い旅を続けている二人、あながちそれが間違いとも言い切れず、とも思っている)、それなりに居心地がいいこの場所をベースキャンプにして、この先の道程(童貞ではない)を定め、長いスパンでの旅計画を練ろう、というのが、二人の統一した見解であった。
というわけで、情報収集である。
そういったことをするには、まず酒場、食堂から、というのが旅人の定石である。人間どんなに善行を積む旅をしようが、悪行を積み重ねる旅をしようが、何はともあれ腹が減り、酒が飲みたくなるものである。
必然的に、酒場、食堂というものが情報源となる。
インターネットが生まれるのは、はるか千数百年後のことであるし、ガイドブックなるものも、活版印刷が普及しきっていない現状、生まれるべくもないのだ。第一文字が読めない。
というわけで、情報収集である。(二回目)
「詳細な地図は後で買うとして、だ。なあ店主、ここいらを抜けた先ってどうなっとるのだ?」
エヴィルは料理をつまみながら、ビア樽体形の店主に聞く。
低い声で店主は答える。
「あの南からの道から通ってきた、ということは、トルベ町の方からか。まああそこ辺りの地図では、ここいらは確かに辺境だわな。また新たに地図を買い直す必要がある。それはギルドなり商人なりに任せるとして、だ。ざっと簡単に言えば、この先はバラエティに富んではいるが、人は少ない」
「ほう?」
「んーん?」
旅人らしく、未開の地には興味津々の二人であった。
「ここいらは少々特殊な地形をしていてな。すぐ傍に湖があるのだが、その先は荒野だ。かと思えば、それとは別の道を行けば、延々と草原が続く。遺跡も多い」
「結構バラバラなんだね」
時雨が素直な感想を漏らす。
「陸地の……あんた、魔術師っぽいから、詳しいだろう? 幾種もの精霊の領地が交わる場所なんだよ、ここは」
土地には、神が、精霊が宿る。
その加護によって、その土地の性質が決まる。
例えば、年中荒れた海とか、穏やかさに包まれた森とか。
物理的条件ももちろんあるが、そもそもその物理的条件を定めているのが神であり、精霊なのだ。
「具体的な種類を教えてくれ」
エヴィル、魔術師として聞く。
「『熱砂の炎』という砂漠・荒野の主。ヘール中原を統べる大地神『バ・ディア』。……あと、吸血鬼もいるには、いるな」
「吸血鬼?」
時雨が、剣呑な名前を聞く。
「近くの城……もはや遺跡なんだが、そこを陣取って、わりに悠々自適な生活を送っている。この村とは多少離れてはいるが、まあ不気味ではある。あいつらの魔力によって、多少この辺りの風土も変化したもんだ」
「それなりに力の強い奴ってことか」
青年、それなりに、と言ったが、普通そのくらいのレベルの吸血鬼となったら、人間が立ち向かえないほどのものなのである。
それを、それなり、と言いきってしまう辺り、やはりエヴィル、自己の天才性を自覚していると言わざるを得ない。
「まさか倒すつもりか?」
店主は聞く。
「ヴァンパイア・ハンターじゃないしね」時雨は言う。「邪魔するようなら斬るけど、そうでなかったら通り過ぎていくまでかな」
まるで「木が倒れていたらそれを乗り越えて行く」みたいなものの言い方である。ここにも自己の天才性を以下略。
「ん? そういえば、あの宝玉、吸血鬼製って言ってたな。てことは、ここいらの荒くれと繋がってるのか?」
「いや、それはない……はずだ。この地を簒奪するような暴君ではない、あの吸血鬼は。あくまで、自分が作ったものを、従者を介してこの村に売りに来させたんだな。この町には、その手のマジックアイテムがそれなりにある。だからこそ、交易も成り立つ」
「なるほど。楽しそうだ」
あ、こりゃ明日以降、村の商店を物色するな、と、時雨は相棒の魂胆を見抜いた。
大体こういったウキウキ感から、「あ、こいつ趣味に金を使いそう」という風に恋人や奥さんやカーチャンにはバレるので、リア充、もとい趣味に没頭する男性諸君は気を付けるべきである。
ちなみに時雨はエヴィルの恋人でも奥さんでもない。「相棒」である。
そこは強調しておきたい。ロマンスを期待してはいけない。昨今のラノベの常識を逸脱しているが、売れ線にならない逸脱というのに意味はあるのでしょうか、お父さん、お母さん。