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(2)

話の流れは淀むことなく進む、とは誰もが会話で望むことであり、さぞや頭の回転の速い連中の会話は如何、と期待するのが我々凡夫庶民であるが、何、実際のところ、頭の回る秀才・天才とて、話の内容がグダグダになって煮凝ることしばしばである。


 むしろそれは知的センスの欠乏というよりは、言辞を正しく用いよう、相手に正しく理解してもらおう、という願望の、より良き全き形、と言い換えよう。


 簡単に言えば、相手にちゃんと理解してほしいし、こっちも相手の言い分をちゃんと理解したい、というだけのことなのである。


 だからある種の頭の回る人々を、理屈っぽいとか言って、能書きばかりたれるとか言って、非難しないでほしい、というのが、「彼ら」の言い分である。


 ただ、まあ、そのような必死の懇願とは別に、言葉を転がすことを楽しみとする余裕のある連中は、そのグダグダの中に楽しみを見出そうとするのだから、まあ始末に負えない。


 この物語の主人公、時雨とエヴィルもそういった「頭は回るがロクでもない」という類の人種であるからして、


 「ところで、唐突に『忘れる・忘れない』の話を持ち出したのはどういうことだ?」


 美しくも不遜な青年は、律儀に話を戻す。


 もちろんその傍らの少女は、その青年などより余程律儀なので、ちゃんと言葉を返す。


 「私ね、魔獣ペンギンの交尾って、実は手先よりも足先を使ったテクニカルなものだっていう、ロクでもない記憶を消し去りたくて困ってるんだけど」


 青年、それを聞いて口を曲げる。どことなくシュール。


 「忘れろそんなもん」


 「でもね、専門家が言うには、魔獣ペンギン、年かさを重ねるごとに、足先のテクが上昇していって、ついには自分の挿入兵器よりも足先の方がデリケートな性感帯になっていくっていう、なんか非常にバカみたいな……」


 「可憐な乙女が挿入兵器言うな」


 「あれ? 私って可憐な乙女だったの?」


 「そのルックスはそうだろう」


 「てへ」


 「……ちっ、なまじそんなんだから、堂に入ってるじゃないか、その『てへ』も」


 ちなみに魔獣ペンギンとは、 極北の大陸に存するモンスターの一種で、その雄々しさと可愛らしさを合い持ったルックスは、孤高のハードボイルドさと愛くるしさという両極を兼ね備えていて、早い話、珍品オークションに出せば売れる。


 そこで欲にまみれる者どもも、このペンギンを見習えばいいとは思うが、言っても無駄なので言わない。


 ところで、それほど時雨の風体は、あまりに少女然としていて、それを布を纏うが如く自然に振舞っているため、「堂に入っている」のである。


 長い黒髪は自然と風をはらみ、着こなしている少女趣味的服装には、一切の汚れなく。


 さりとて、媚びてない。無理をしていない。


 それがいや増して、少女の少女性を高くしている。そう、魔獣ペンギンのように。


 というならば、かの気高き魔獣ペンギンは、時雨という少女を体現しているメタフォリカルな存在と言えるのかもしれない、というのは筆者の完全なこじつけである。単に話が上手いことまとまっただけのことである。かように文筆とは先の見えないものであり、そこがまた堪えられない渋みと味を持っているのだ……(誰に向かって言っているのだ?)。


 また脱線しているが、どうせ本編の会話も脱線しているので、気にしないでいただきたい。


 本格ファンタジーファンからは「構成が甘すぎる」「テンションを張り詰めろ」との声が聞こえてきそうだが、軽やかに無視することとして、筆者はカメラを回そう。


 さてそんな可憐な少女、時雨。お目目はぱっちり見開いて、それはやや緑がかっている……宵の黒にさっと、昼の残り香の光が宿るような。


 それはまさに好奇心の証。この世の何でも見てやろう、という証。


 頬はつるりと卵のように彫刻され、すっと顎先まで通っていく顔つきの小ささ、愛らしさは一級品である。


 だがそうは言ってもそんな彼女が魔獣ペンギンのどうしようもない性生活について言及しだしたのでは台無しである。


 立てば芍薬座れば牡丹と言うが、実際の所牡丹鍋を囲んでそれを肴に一杯やるときのネタに近い。誰が上手いこと言えと。


 青年エヴィル、そのあたりのどうしようもなさを鑑みて、「忘れろ」と言うたのである。さもありなん。


 話を元に戻す。


 「……元? 元の話なんてあったか?」という声が聞こえてきそうだが、またもや軽やかに無視することにする。筆者がそれでいいのか。


 「まあどうしたって忘れられないものはあるわけだ」


 エヴィルは言う。


 「人間、全てを記憶出来るわけではない」


 「あれ? エヴィル君くらいだと、全部記憶しているようなもんじゃないの?」


 「通常人よりはな。天才だからな。とは言うものの、ほら、夢ってあるだろ?」


 「うん」


 「アレは、学説によれば、休息と同時に、忘却の役割を果たしているそうだ。つまるところ、人間の脳が収めておける要領など知れたもので、適度に抜いていく必要があるのだな」


 「あれ? 知識はあればあるだけあった方がいいんじゃないの?」


 「道具と一緒さ。使う時にだけ手元……頭の中にあればいい。そんなもんじゃないか?」


 「とは言うもののさ、やっぱり覚えておかなきゃいけないことってのは……」


 「そりゃ、当該分野の基礎知識は叩きこんどきゃならないが、それは道具の使い方を覚えるようなもんだからな、『知識』以前の問題だと思う。知識をいくら詰め込んでも、それを有用に使えなくては意味があるまい? 問題は哲学の有無なのだ。そこここに『スクール(学園)』と呼ばれる形の学校があったろう? アレなんか詰め込み型教育&ノー哲学の典型だな。アレは学徒を育成しているのではない。命令に従順に従う奴隷を育成しているのだ」


 「でもないよりはあった方が……『スクール』、嫌いだけどね」


 自由を何よりも愛する時雨はそう言う。しかしそれにしても学園物全否定である。苦情がこないだろうか、学園物大国ジャッパーンでは。


 「読み書き算術くらいは、村の賢人が教えられたら、それでよしだろう。この世界では、それさえもまだ出来ていないところが多々ある。そしてそれは何に繋がるかというと、人間の奴隷化だ。まあ、そういう冷酷な事実を教えないで、体の好い奴隷を育成するわけだな、領主は」


 「そんなに奴隷って欲しいもんなの?」


 「欲しいさ。これから、もっともっと奴隷の数は多くなってくるぜ。もっとも、名称は変わるかもな。市民、生活者、労働者……だが、とどのつまりは、奴隷である事実は変わりはない。誰かに飼われている、という」


 「暗い未来予想図だね」


 「人間なんてそんなものだ」


 ほら、また脱線した。


 この連中に話を合わせていると、かように脱線脱線ばかりが続くので、当初のさも重大な疑問風だった「忘却」云々が、また別の路線へ流れていく。

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