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(3)

「……大体言いたいことは分かったぞ。お前、また記憶を『飛ばす』つもりだな?」

 「はい」

 「……大概にせいよ」

 もう、何度目だろう、この言葉も。

 けど、そこに込められた意味は違う。

 「……今度は、何を飛ばすつもりだ?」

 「かなり、大きなモノを飛ばすことになると思います。今記憶しているモノの中でも、そうとう強烈で、インパクトの大きい記憶を」

 「同じ意味だがな……ってどうでもいいわ。けど、お前、それ以上その類の記憶を飛ばしていったら、いずれ廃人だろうが」

 「その辺の見極めはするでありますよ」

 どうだか、と見るエヴィルであった。

 恐らく、自己破壊、自己犠牲一直線のコースを選ぶであろう、この少女は。

 だからこそ、今こうして、また、ためらいもなく、記憶を消す方法を選んだではないか。

 「……一応教えてみろや。何を飛ばすか」

 「……あんまり言いたくないです」

 「そりゃ分かるがな。俺様たちの身にもなってみろよ」

 「……」

 しばしの、逡巡。

 やがて、

 「この数日の記憶を根こそぎ消すです」

 アークは言った。

 「それは……」

 「ああ、そういうことか」

 時雨とエヴィルと、二人と出会って、行動を共にして、あれやこれやの冒険をしてきたということ――それは少なからず少女にとって価値転換であった――を、きれいさっぱり消す、ということ。

 「本当は、お二人とこうしてお知り合いになれたことを消す、この方法、とりたくないであります。私をまっとうに頼ってくださったのは、多分お二人くらいなものですから」

 「……それ、どういう意味?」

 「私のような忘却性を持った人間は、使いやすいって、皆が言ってたのを聞いたことがあ……」

 「もういい。言うな」

 エヴィルはその言葉を遮った。

 「楽しかったですよ、へえ、人間ここまで出来るんだ、みたいに驚いたり、自分のアホな言葉にも付き合ってくれたり。それに……自分が救おうとしてくれた人を、可能な限り無傷で返してくれようとしてくれたこと。お二人のなさったこと、さんざっぱら村やギルドの人からは言われてたみたいにおさっさんから聞きましたが、私にとってはお二人ともいい人でした」

 「過去形で語るな」

 だが。

 もしこの計画をアークの力でもって成し遂げることが出来たら。

 確かに、起死回生の一手だ。

 そして、確実性の高い一手だ。

 だが、アークは、二人のことを忘れてしまう。

 少なからず、この三人の間には、ある種の友情が芽生えていた。

 たった数日ではあったけれど、身を寄せ合って、死線をも潜り抜けた、間柄。

 そして多分、少女にとって、自分の能力を正当に評価してくれた二人。

 それも、消してしまう。

 そうでなければ現状は打破できないし、何しろ少女は、「皆」を救いたがっている。

 やがて。

 エヴィル、口を放つ。

 「俺様としては、後悔が残る。時雨君は?」

 「同じ」

 「……が、やるからには、やる。完璧にやりきって見せる。最善の策をな。お前はそのころ事態一式を覚えていないだろうが……それでいいか?」

 「充分すぎるでありますよ」

 笑っていた。少女は笑っていた。

 何もかもを失い続け、それでも少女は笑う。

 飛び続けてなければ死んでしまう鳥のような。

 「……術式を教える。」

 アーク、またもや、自分の頭に銃口を向けて、閃光を放つ。

 時雨は、とても、とても悲しそうな顔をした。

 「草原の主の系譜図をベースとし、『木』(もく)に菩提樹、『火』(か)に砂漠、吸い上げる生命の源として湖から無限大、全体の流れとしては、sin20度のカーブを予測しろ、基本的に幾何学的にプロットして考えるんだ、さあ、カオスの門を開けて、まず火精サラマンダーの暴力的加護で『飛ばし』……」

 例の「あまりに無茶なプラン」をアークに伝授していくエヴィル。

 時雨にとってはワケワカメである。

 が、アークは、通常では理解出来てはいないのだろうが、エヴィルの言う通りに、今は術式を展開していっている。

 光が辺りを満たしていく。

 悲しい思いとは裏腹に、無闇やたらと、その光は優しかった。

 

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