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(2)

「一番妥当な方法としては、アークに別ルートを教えてもらって、私が強襲、ってとこかな。この際、ある程度の死人は覚悟してもらう必要があるけど」


「あの……私、こんなこと言うのも凄い失礼なんですけど、あの冒険者の人たちの中にも、私がお世話になった人がいるっぽいんですよね……けど……」


 「救ってあげたい。ただ、今の私たちの状況を考えてみよう。出来ることを考えてみよう。最後に……残された時間を考えてみよう」


 「時間、ですか?」


 「そう、時間」


 時雨は苦虫を噛み潰した顔をする。エヴィルがそれを引き継ぐ。


 「あの化物だ。このままだと、あの術師、アレを引きつれて、大々的な破壊工作、ないし、殲滅に出るんじゃないのか? ここいらの」


 アークが息を呑んだ。


 「あいつがアレを持ってた、って時点で、どの道遅かれ早かれ、あの眷族は起動されてただろうよ。情報提供者としては……もちろん、あいつの研究もあってのことだろうが、グランドプランを共同で立てたのは、吸血鬼だろう。何、あの貴族だ? 穏健派のワリして、しっかり根回ししてるんじゃねえか……そして、今、村は手薄だ」


 「あ」


 「そうか」


 アークと時雨が、思い至った。


 「タイミングとしては、絶好なんだよ……ゲホゲホ……だから、潰すのも、あるいは潰されるのも、今しかない」


 「今の会話の主語は?」


 時雨が問う。


 「御随意に」


 あえて典雅にエヴィルは返す。もちろん皮肉を混じらせて。


 「だとしたら、俺様たちは、潰す側で、相変わらずありたい」


 「この状況でもですか」


 「ああ。俺様たちの辞書に、戦略的撤退の言葉はあっても、敗北の二文字はない」


 「で、どうするかだよね」


 「……クソッ、身体が動けば……ほとんど寝込んでる状態だからな……いくつかの薬を飲んだが、まだ効果は出ない。こうなったら、劇薬系のをいくか、あるいは……」


 「あるいは? なんか怖い事考えてるの?」


 「この俺様の容体を完全に直し、かつ魔力も完全復活、さらには時雨君の怪我も治す、というグランドプランが俺様の頭の中にはある」


 「けどそれをしないってことは……難しい?」


 「……御明察。いつもの俺様でも少々手間取る類のモノだ。じゃ村に居る魔術師に援護を頼むか? いや、ないね。このレベルの術式は、そう出来るもんじゃねえ」


 エヴィルの描いているプランは、果たして、相当に難しいシナリオというか、プログラムの術式であった。


 それを初心者が、あるいは毛の生えたばかりの自称魔術師が行うには、余りに難しすぎる。


 ちょうど鉄道模型初心者が、いきなりLhBレイテッシュ・バーン完全再現レイアウトを組むようなものだ(外国型鉄道模型マニアにしか分からない比喩)。


 ところで、模型をする人は本を読まず、本を読む人は模型をしない、という偏見が筆者、あるのだが、それに従うと、上の比喩は、全然比喩として成り立っていない。誰にも通じない比喩に意味などあるのでしょうか。お父さん、お母さん。僕は途方に暮れてしまいます。


 じゃラノベ購入層に向けたわかりやすさで、この難しさを表現するとなると、夏コミ三日間で、


 翡翠亭→てぃんかーべる→Bolze.→Cut a dush!→Digital Lover→上海アリス幻樂団→企業ブース有名どころ(例えばぱれっとやういんどみるとか)(日時、順序は問わず)


 といったルートを組むくらい無謀で無茶な術式をエヴィルはやろうとしているのだ。


 適当に並べただけの説明だが、人の群れ群れ群れ、蒸れに蒸れた群れが思い浮かぶようではないか。誰が駄洒落を言えと。


 これでも配慮しているのである。男性向けに限り、かつ「なのは」を抜いているのである(「こうどなじょうほうせん」に付き合ってられっか)。東方やまどかやゆるゆりの二次創作も抜いている。女性向け、あるいは評論系もプラスしたら、死んでしまうわ。それに何だ? コスプレ広場に行けってか? 死んでしまうわ!


 ここで怒ってもまるで仕方がないのだが(当然)、それくらい、エヴィルにとっては、その辺の連中に任せられない、といった心意気が伝わってきただろうか。


 今のエヴィルに、これくらいの魔術を行う、というのは不可能である。


 だが。


 だが。


 だが、もし可能であったら――想像してみてほしい、今さっきあげたルートで、全部新刊・新譜が買えたとしたら――それは、まさしく、勝利宣言である。


 エヴィルが賭けたくなる気持ちも、そこにある。


 あえて、無理をして、蛮勇に蛮勇を重ねて――それこそアークの自己破壊並みだ――自分に回復魔法をかけ、万全の態勢で、事に望む。


 そんな夢想。


 しかし今のたうちまわるエヴィルには、それは遠い。


 そこで。


 そこでこの忘却少女・アークは、唐突に提案してきた。


 「私にその魔法、使えないでしょうか?」

 

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