(12)
「ちょ、ちょっと貴女、何考えてるの?」
「『力』を使うであります。自殺ではありません」
「……『力』?」
そういえば、アークと術師は、そのような会話のやりとりをしていた。
「貴女、またアレを使うつもりなのね」
その声は屍霊術師のものであった……遥かに、憐れみをたたえた声であった。
「その人生、その生き方、まるで、ことごとく失い続けているのをよしとするかのよう……それでも貴女はいいの?」
「前も言ったであります。あるいは……何回も言ってきたような気がするであります」
淡々と、アークは言う。
「自分は、これ以外の生き方が出来ないでありますから」
瞬間、引き金は引かれ、カッと閃光がアークを包んだ。
が、アークは倒れなかった。
「時雨さん、エヴィルさんをお願いするであります。あの眷族を、一回ダウンさせますから、その間に逃げましょう」
「ダウンさせるって……え!?」
時雨が回答しきる間もなく、アークは尋常ならざる速度でもって駆けだし、弾丸のように地面を跳躍、そして。
蹴り、一発。
今まで一介の少女に過ぎないと思われていた彼女のあまりの変貌ぶり。筆者たちの世界で言うところの変身ヒーローであるが、実際そこまでの変貌を一瞬でやられると、むしろ引く。そこまでの変貌ぶりであった。
そして、突然の一撃に、怪物、アークが言ったように、その場に派手にズドンとダウンした。鳴り響く地響き、まるで洞窟が崩壊する序兆のような。
「逃げるであります!」
アークはそれ以上の追撃をせず、時雨のもとにまた急スピードで旋回してきて、出口に向かって駆けていく。
走ること、高速で走ることは、時雨のお家芸だ。本気で走ったら、誰も追いつけない。
しかし今のアークは、その時雨についていけるほどのトップスピードをはじき出している。
時雨はエヴィルを担いで、その凄まじい速度に追いつくべく、一瞬でギアを上げ、初速でもって逃げきる。
入ってきた細い通路。そこにアークと時雨(に担がれたエヴィル)は辿りつく。
「退路を潰すであります!」
そう言って、アーク、両方の壁にそれぞれ何発もの打撃を入れる。どかどかどかどか。
そうしたら、壁面にヒビが入り、ガラガラと音を盛大に立てて、崩れていった。
見事、彼女が言ったように、退路は――怪物と屍霊術師が支配する空間への通路は塞がれた。
が、二人とも安心はしていない。あの怪物と、あの術師にかかれば、この程度の障壁などすぐに取り除かれよう。
「私に付いてきてください! 多分湖に辿りつくです!」
「た……多分ってなに?」
「いつも私がこの力を使ったら、大抵そこにいつの間にか辿りついているであります。そんな場所です。何でかはわかりません。走ってたらそこに辿りつくです。理屈はわかんないであります! 全部『忘れちゃう』んですから!」
出た、「忘れる」。
時雨はその言葉に不可解なものを抱えながらも、とにかく今はアークの言うとおりにすることにした。
かくして。
時雨、エヴィル、アークのパーティは、鎧袖一触で片付くものかと思いきや、あいやいやいや意外なことに、無残な敗走と相成ることとなったのであった。
これに第三章終わりです。
次回から、反撃がはじまります。




