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(9)

 そこに現れたのは、異形の巨大な怪物であった。


 頭は虎、しかしてサーベルタイガーのように、長い長い牙が生えている。


 およそほとんど洞穴の天井に至るまで至る巨塊の皮膚は、固い鱗におおわれている。あるいは、赤く爛れているようにも見える。


 真紅の、化物であった。


 両腕は地面に付くほど長く、足は逆に短い。


 尾は二本、背びれ的な要素を持っているのか、背中は山脈のように刺々しく隆起し。


 胴はどっぷりと巨大で、硬く、装甲のようだ。


 人間のサイズを越えた――あえて例えるなら、大型の象。


 だが、この眼前に居るモノに宿っているのは、まぎれもない殺気。怖気。闇の中から生まれ出たモノが有する、得体の知れないグロテスクさ。


 それでいて、自身の力を裏付けするような、泰然とした様相すら有しているものだから、そのしゅうしゅう言う、獰猛な息遣いも、威嚇するといったものではなく、「これから暴れ出す」静かな喜びを感じさせるのだから余計恐ろしい。


 「幾代も前の『熱砂の王』の眷族、だそうよ。己が力の最も強大なもののひとつ、と記されてあったわね。それがこの遺跡には封じられていたわけ……さて、これが私の切り札。貴方たちに勝ち目は?」


 「時雨君! 立てるか?」


 放り投げられた時雨、よろよろと立ちあがる。刀を杖にして。それまでの暴風雨さながらの挙動とは打って変わって、弱々しい。


 時雨の弱点がこれであった。


 端的に言えば、「一撃を喰らったらかなりキツい」、つまり、装甲の薄さ。


 当然である。剣士が通常身につけるであろう「鎧」の類を、一切付けずに、少女趣味然とした服装しかしていないのだから。


 そのフリフリヒラヒラは別に何らかの魔力で守られているだけでなく、ただ単に時雨の趣味だというだけである。確かに鎧とはミスマッチだが、そこまでしてそれを着たいか。


 そうツッコミたくなるくらいに、時雨の装甲は薄い。いくら美学とはいえ。


 もちろんこれは狙ってのことである。とにかく装甲を薄くすることによって、速さ――機動力を徹底的にまで研ぎ澄ます。蝶のように舞い、蜂のように刺す。


 だから時雨は鎧を付けない。それだったら、己の機動力でもって避ける。


 が。


 だからこそ、「喰らったら」通常の剣士よりも、ダメージはでかいのだ。


 苦虫を噛み潰したような顔をして、何とか立ちあがる時雨。


 ふうー……、と息を静かに、長く吐く。


 「まいった……ね。やれ……やれ……だよ」


 それでも戦意は失われていない。


 時雨の脳内には、負けへと走る道筋など、微塵もマッピングされていないのだ。それが、剣聖としての生き方。誇り、あるいは矜持。


 だがそれにしても、太古の魔獣の剛腕による一撃は、相応に辛いものがある。

 

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