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「ふうん、吸血鬼と組んでいるのか」


 「いいパトロンよ。私が実験し終わった『検体』を提供すれば、相応の見返りと、魔術的知見が得られるし。自分の身の安全も保障される……守ってもらってる、とは少し違うわね。あの吸血鬼貴族は、この界隈において不可侵の領域だから、私のような存在が隠れやすいわけ。屍霊術師は妬みやっかみ恐れの対象だから」


 「人体実験するのも大変だよなー」


 「ええ、全く」


 さあこれからドンパチか、と思われた読者諸君の気を削ぐ勢いで大変申し訳ないのだが、エヴィルと屍霊術師、何だか妙に和気あいあいと話しこんでいる。立ち話だが。


 多分エヴィルが酒を呑めたら、ここに持ち込んでいる可能性すら高い。それくらい。


 「で、こいつらは何だ? 無辜の冒険者をひっ捕まえて、自分の傀儡にしたってか」


 「無辜、という言葉には引っかかるわね。どうせこの連中も、一山あげようとして、この遺跡の発掘、ないし盗掘を狙ってきた連中なのだし。弱肉強食、弱い者はより強い者に利用される。異存は?」


 「ない。だが、そういった連中を助けようとする仲間もいて、俺様たちのような強者を雇う。俺様たち強者は対価を得るために『仕事』をする。これにも異存は?」


 「ないわね」


 ここまで人道とか正義とか一切出てこない。


 この二人、自分が面白ければそれでいい、という性質を同じにしているが故に、会話の理解度が速い速い。


 その勢いをもって、エヴィルはこの屍霊術師が何を考え、何を実行に移そうとしているのかを、一応聞きだそうとしている。


 屍霊術師も屍霊術師で、結構ぺらぺらと自分の目的や所属を答えてくれるので、話が速いといえば速い。


 事実確認は済んだ。


 つまるところ、食堂の店主が言っていた「領主になりうるかもしれない存在」吸血鬼の貴族の片腕として、この屍霊術師は働いている。


 遺跡に探索しにきた連中を相手にして、殺したらその骸を自分の操り人形にし、殺すまでもいかなくても、半死半生にまで追い込んだら、脱魂――肉体から、意志を、魂を抜きとって、やはり自分の操り人形にする。


 屍霊術師であり、人形遣い、傀儡師であるといったところか。事実上、操る魔法・術式の在り方で、双方は相通ずるものがある。


 が、事はそう単純に言うものの、歴戦の冒険者をひとりでことごとく壊滅させ、半死半生でも意志がある人間を操り人形に出来る、という時点で、この魔術師の第一級さが知れるものだ。


 ましてや、高位存在である吸血鬼貴族の「片腕」と称されるほどの存在であるならば。


 そういった事実が露見せずに、今にいたるまでこの遺跡が彼女の魔窟と化してきたのは、ひとえに彼女の力の制御が完璧だったがゆえである。


 だから。


 「まあ、話が合うのはいいんだがな。俺様たちも仕事なわけだ」


 「でしょうね。そして、私もこの『検体』たちを手放すつもりはない」


 「ところで、お前、ここで何探してるんだ? ぶっ潰す前に教えろ」


 「物凄い言い分ね」


 「交渉の余地がハナからないだけ、取引するのも無駄だろ? まあ、潰してから吐かせるのもアリだが、せっかくこうして話が上手い事展開してるんだから、いいじゃないか」


 後か先かの問題じゃないか、という暴論である。


 「まあ、それもそうね」


 それを平然と受け入れる屍霊術師も、いささか常識を逸してはいるが。あるいは自分の実力に対する自信か。


 「この遺跡が『古きもの』だというのには、そこの忘却少女から聞いたかしら?」


 「まあな」


 「古い、古い……神話時代にまで遡ることが出来る古さ。単に私は、その時代に生きた化物たちの化石を発掘しているだけよ。貴方も魔術師ならわかるでしょう? それだけの高位の魔獣の化石に宿った魔力……それが時を経て、この辺りの地形の変化もあって、磁場の影響を受け、さらに魔力の純度は上がっている。私はそれを欲しいのよ。が、それをするには、この土地の人間は、そういった化石……魔石に対する知見が薄すぎる。だから説明するのがうっとおしかったわけ」


 「まっとうに発掘人を募るつもりは最初からなかったんじゃないか?」


 「……そうね。どうせ、操るつもりだったし」


 「で、その結果、発掘した魔石で遊んで、吸血鬼に渡して、さらに対価を得て、ってか。いい身分だな」


 「結構楽よ? 貴方も同類っぽいからわかるでしょ?」


 「同類だというのなら分かるな? お互いの立場がハナからすれ違う場合、お互いの利益に基づいて潰す」


 「吸血鬼に斡旋してもいいのよ?」


 「あいにくだが、人に飼われることは好みじゃない。そこがお前と俺様たちとの違いだ」


 ピリッ、と、二人の間で視線が閃光を放った。


 交渉決裂。


 それは同時に、戦闘開始の時の声でもあった。

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