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(4)

で、大体そんなのんべんだらりと、火中にあるにも関わらず、考古学だのファッションだのの話を繰り広げる三人であったが、時雨、突如、足を止める。


 「どうした」


 エヴィルの声色に真剣味が混じる。返ってくる答えが、ある程度予想がついていても。


 「第六感。ピンときた」


 それだけ聞けば「アテにならねー」と普通の人なら言うであろう。


 だがこちらは人斬りお嬢、千人切りはダテじゃない(だからそっと胸に……)。


 化物みたいに動物的感覚、身体感覚を研ぎ澄ませた人間の言う言葉なのだ。


 どんなセンサーよりも頼りになる。


 時雨、腰の刀に手をかけて、慎重に足を踏み出していく。


 時雨が立ち止まった所は、大きく広けた場所に出る直前の、恐らく「居る」であろう相手からしたら、影となり見えなくなる場所だ。


 そんな岩影に姿を寄せ(三人とも)、ひそひそと声を交わす。


 「一気に出るか?」


 「だね」


 「あの、この場に及んでおいてなんですけど、私、お二人みたいに異常に強くはないんですけど」


 「大丈夫、そこは私達がフォローするから、アークは『被害者』の救助に当たって……もっとも、生きていれば、の話だけど」


 「そうだな。生きていれば……な。アレはどっちなんだ?」


 室内は異様な空間であった。


 壁に幾十人もの人間が張り付いて、ガリガリとナイフやらコテやらを持って、何かを発掘しているようにも見える。


 魔法ランタンはエヴィルの裾に隠している。相手に悟られるわけにはいかない。


 が、時雨の闇目は、彼らの表情をしっかりと見ていた。


 その場に居る人間には、精気というものがなく、まるで操られているが如く、ただただひたすらに壁を削っていた。


 発掘、というと、現代の感覚では、「カーンカーン、ドガガガガ、ズガガガガッ!」と、重機でもって大音量でやるものと想像しがちなのだが、この場で行われているものは、それよりずっとずっとひっそりとしている。


 耳かき以上、土建未満、みたいな音量。


 その目には光がなく、ただただ削り取るみたいに壁を掘っていた。


 あるいは、それは壁画を描いているのにも似ていたかもしれない。


 が、手にしているのは依然としてナイフでありコテである。やっぱり掘っているのである。


 男女混合で、若い人間もいれば、壮年の人間もいる。年寄りに至っているほどのはいない。


 いずれも冒険者・探検者らしく、頑健な肉体をしている。


 服装は簡易で動きやすく、帯剣している者も少なくない。


 発掘しているのに帯剣?


 あらゆる意味で疑問が尽きない。


 が、ここで手をこまねいていても事態は打開するはずもないので、時雨とエヴィルとアークは、一気に広場に出向くことにした。


 しかし、その群衆は、三人に全く反応しなかった。気づきもしなかった。


 代わりに、部屋の奥で陣頭指揮を取っているらしい人物が、こちらの侵入に気づいた――音もたてず、まるで浮遊しているかのように、するりと三人の方へ移動して。


 「『刀使い』時雨・紙折かみおり・シュトフィール、『黒魔術師』・エヴィル・レッド、『何でも屋』アーク・フォガット、の、三人、ね」


 「……バレている?」


 エヴィル、この反応には予想をしていなかった。


 まるで、この三人がここに来るのをあらかじめ知っていたかのような。


 「白黒、黒白、青青」


 無表情・無感情でその人物は三人のイメージカラーを言う。


 「んじゃ、お前はボロきれだろうが」


 「失礼ね」


 「人のこと言えた義理かっつーの」


 その人物は、恐らく見かけだけで言えば、歳がそれほど経っていない女性だろう。


 よくよく顔を眺めてみれば、結構な童顔である。少女、と言っても差支えない。


 だが、そのボロきれ――汚れに汚れて、ボロボロになった白いローブ――を着ていて、フードを被り、それに隠れた血色が悪い顔つきは、その童顔性から少女性をだいぶ奪っていた。


 時雨とそのあたり対比させてみればよくわかる。


 蝶と蛾の違いというか。(そこまで言う)


 決して顔つきは悪くはないのだが……。それにしても、目付きが無表情である。加えて、冷静さ、酷薄さが漂っている顔つきである。


 通常の人間だったら関わりあいになりたくない人間の典型である。


 が、こちらも関わり合いになりたくない度で言ったら負けていない。全然褒めていないが、無理にでも褒めているニュアンスを受け取ってほしい筆者心である。


 というわけで、傲岸不遜にエヴィルは受け答えする。


 「黒幕はお前か、なあ、屍霊術師ネクロマンサー


 「「……何故わかった(んですか)?」」


 アーク、そして女性(あるいは少女)は、無表情ながらも、いくらかの戸惑いを覚え、同時に声を発する。一瞬で自分の素性を看破されてしまったことに。


 「俺様が黒衣を纏うのと同じように、屍霊術師はいくら汚れてもいいようにそういった姿をしがちなんだよ。作業着だ。俺様も屍霊術には長じているからよくわかる」


 「え、貴方、屍霊術使うの?」


 突然、急に声色が喜色めいた。キャラが唐突に変わったぞ。


 「あ……貴方は私のことを気色悪がったりしないの?」


 「面白いじゃないか、屍霊術。自分の意のままに肉体を操り、かつ肉体に改造を加えることが出来る。実に面白い」


 やはりエヴィル、健全なラノベの主人公としていささか問題がある。


 ところで視線を屍霊術師に向けると、時雨たちの方からはほとんど見えないが、うっすら涙をにじませている。キャラ崩壊!


 「そんなことを言う人は貴方くらいよ……屍霊術師の一般的扱いなんて、みじめなモノだわ。まあ、自分で選んだ生き方だから、不満はないけれど。ぐすっ」


 「面白いのになぁ、屍霊術」


 大きく分けると、屍霊術は黒魔術の一環である。


 先にも述べた黒魔術の定義――破壊を通して真理に迫る――から言ったら、ある意味で、人間の道に外れていようとも、屍霊術もまた、黒魔術のひとつの道でもあるのだ。


 ただ、そのおぞましさから、一般的には忌避されるのは、これまた道理である。


 目の前の屍霊術師は、そのあたりの事情を骨身にしみてわかっているから、このような場所で思いもかけず出会えた理解者に、涙さえ浮かべるのであった。


 ただ、それと、事件の黒幕だという事実とは、話が別である。


 「何かお前、それほど悪い奴じゃなさそうだが、何でこんなことしてんだ? 一応、越境行為というか、シマ荒らしだろう。ネクロマンシーの道義はともかく置くとして、職業人の道義は守るってのが筋じゃねえのか?」


 それに対し、屍霊術師は淡々と答える。敵意は今のところない、ように見える。


 「それにはまず、アーク・フォガット……貴女が、私のことを覚えているか、ということを確認せねばならないわね」


 ん? と時雨とエヴィルは思った。


 「アーク、貴女、この人と知り合いなの?」


 「というか、『繋がって』いるのか? それは問題ではないのか?」


 矢継ぎ早に言葉を浴びせる。


 それに対し、アークはきょとんとしている。


 「全然この人知らないであります。はじめて逢ったばかりであります。ホントですよ?」


 首をこきゅっと傾けて、不思議そうな顔つきをしている。そこに嘘というものは見受けられない。


 少なくとも、そういった小器用な真似がこのアホ少女に出来るとは思えない。酷い言い分だが。


 「そう……やっぱり、『ふっ飛ばして』『忘れて』『力を使った』のね、また、いつものように……悲しい人」


 何やら、物知り顔の屍霊術師である。


 ボロきれのローブから垣間見える顔――ほとんど死相すら見えている血色の悪い――には、哀れ、というか、物悲しい、みたいな表情を見せた。


 「また、やってしまったのね」


 「と言われても、私は仰るように、いつものように忘れてしまったようでして……なんとも言えないです。おさっさんや、皆から、後追い後追いで事情を聞いているわけですし」


 「……貴女は、その生き方に疑問はないの?」


 「ない、です。もう、それ以外に生き方はないですから」


 時雨とエヴィル、この二人の、どうやら旧知らしいが、その認識の片方がポッカリ空いている、という不思議な関係の不思議な会話を聞く。


 何か事情があるらしいというのは分かる。


 「おい屍霊術師、お前らの関係は何だ」


 ごく当然の質問をエヴィルはする。


 仮にもこの二人が裏で手を組んでいたら目も当てられない。完全に嵌められた形となる。まあ、それは十中八九あり得ないだろう、と踏んではいたが。


 「かつて、私は彼女の敵であり……私は彼女に討たれるべき存在だった……正確には、大ボスの右腕、ってところかしらね」


 「で、今は俺様たち三人に討たれるべき存在だと」


 「ああ、話が早いというのは助かるわ。ここいらの連中だと、そういった機智に富んだウィットなんてありはしない。……だからこそ、付け目もあるのだけれど」


 「悪党だね」


 時雨がぼそっと言う。


 「貴女たちには言われたくないけれど」


 一応この話の主人公なのだから、筆者的には義理でも弁護しておかねばならないのだろうが、どうにも億劫である。確かに悪党的要素は多分に含んでいるし。

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