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(3)

このアホ少女に付き合っていたら、話がどんどん脇道に逸れていって、まともな人生に復帰することが難しくなりそうなので、二人はこの少女の妄言を適当にあしらいつつ楽しむことにした。


 一応、剣呑な事態とはいえ、まだアクションが出ていない段階である。


 それゆえに不気味とも言えたが、ともかくもダンジョンを探索しないことにははじまらない。


 アークの知っているルートから、はじめは探索をしていくことにした。


 このドーム状の広場から、各方面に繋がっている通路は、まるで竪穴式住居のようで、そこで生活することが可能なレベルのものである。


 奥に奥に、と、突き進んでいくことが可能だ。


 魔窟。


 ある通路が、またある通路と繋がっていたりして、きちんと頭の中でマッピングをしていないと迷うこと必死である。


 コミケのカタログを眺めて三日間のマッピングをするのとは話が違う。命がかかっているのだ。あ、あれも命がかかっているか……どうでもいいが。


 そういえばアキバ探索にもちょっと似ているかも。


 ところでこの洞穴、祭礼の儀式に使われていたそうだ、アーク曰く。


 何しろ神様・精霊などの異種混合格闘技の様相を呈している地なので、そういった高位存在のバランスをとるため、あるいは自分たちの生活があまりに不安定なゆえに(かたや砂漠、かたや森、かたや草原、というように、極端極まりない)、五穀豊穣を願い、生活の安定を願う。その祈りの行事は命がけなものがあった。らしい。


 が、もっとコトを昔々に遡れば、この洞窟――というか、この一帯は、大きな湖の底だったらしい。


 アーク、自分が道筋を知っているルートを幾つか教え、その中から「血度」が高く見えるルートの洞穴を突き進んでいく三人であった。


 「湖の底?」


 「もっと言えば、魔湖、だったらしいです。人が住めるどころではなく、汚濁していて、いろんな化物の住み家になってたそうで」


 時雨とエヴィル、この辺りの古代史についてアークに質問を浴びせかける――「何もかもを忘れてしまう少女」であることを忘れてしまうかのように。


 「もうそれは、どろんどろんで、ぐちゃんぐちゃんだったそうですよ。水というより泥、というか腐った泥の溜まり場で、そんな場所に人間が住めるはずもなく、それに耐えうる強さを持った魔獣や、あるいは、そういった泥をあえて好む魔獣、あるいは――」


 「あるいは?」好奇心をもって時雨が聞く。


 「そんなものを屁ともしない高位存在、です。そんな化物たちの人外魔境になっていたのがこの土地でした。が、やがて、そういった高位存在、上級モンスター、精霊たちとの間で小競り合いがはじまり、ドンパチやらかしたわけです。戦争ですね」


 「随分剣呑な話だな」


 「周囲に住んでいる人……まあ、かろうじて住めるところに居た人たち……は、それはもうガクブルだったそうです。で、やがて決着がつき、今の地形になりまして、今の勢力図になりました」


 「ちょい待ち。話が飛躍しすぎだっつの――まあ、いくつか飛ばしたのはこちらで補おう。要するに、ドンパチが余りに激しすぎて、『泥』の大地を激変させるほどのエネルギーの爆発があったってわけだ」


 「そうですそうです」


 「なんか、それを聞いてると神話の世界だね」


 「壁画の年代から言って、これが描かれたころは、まだその『神話時代』がリアルを持ってたんだろうな。で、結果として、覇権を握ったのは、砂漠の主と、草原の主、それから、森の主。概ねこの三者が拮抗する形となった……といえば、このあたりの地理のメチャクチャさが納得出来る。その三者が自分のテリトリーを開拓し、居心地がいいようにして、砂漠・草原・森、と隣接する極端さになったということだ」


 「立石たていしにウォーターってやつですねー……私の説明でそこまですらすらと。エヴィルさん、考古学者ですか?」

 

「黒魔術師だ。まあ、考古学をやるときもあるし、物理学をやるときもあるが、基本は黒魔術だ」


 青年、そこには拘りがあるようである。


 自分は何者か、と問われて悩む人間は多かろうが、その中でも、「適当に答える人種」と、「問われて、ふと、考え込んでしまう人種」と、二通りに分かれる。


 エヴィルは後者に属する。


 あまりに自分の扱っている学問分野が広すぎるため、自分は「何学者・何魔術師」と定義することが難しいのだ。


 が、エヴィルは「黒魔術師」と歴然と答える。


 それを選んでいるのは、誇りもあるからだろうし、それを通じてこそ――魔術体系の中でも、破壊実験を繰り返して世界法則の理に辿りつこうとする分野、黒魔術、それにこそ、自分が最大限の熱意を注げると確信しているから、エヴィルはこう断言するのだ。


 「その黒い服はダテじゃないのですね!」


 どこかのラノベの書名について、ふっと勘が働いた貴方は、そっとその疑問を胸にしまいこんでほしい。いろいろ筆者が危険だから。


 「まあな。この黒衣こそ、俺様が『黒魔』であることの証」


 「普通、ローブって感じですけど」


 この時代では珍しい、ロングコートであることに疑問を抱くアーク。


 「俺様は天才で特別だからな。黒魔的でありつつ、誰もが着ているわけではない、というところにミソがあるのだよ」


 「変わった人ですねー」


 「お前に言われたくない」

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