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忘却少女・アーク登場です。なお、第二話はこの回で終了です

こいつ登場以降、さらにこの小説、迷走していきます。

ギルドは村の中心部にある。

 

市場とは別の、役所的な建物(と言っても実に田舎風な建物)が集中して配置されている区画に存在する。


 大体ギルドというものは、こうして町組織の中心にあるものだ。


 そうでないと指令が発しにくいし、様々な業種・様々な人間を担いきれない。


 途上にある市場――活気に満ち溢れ、いささかのダーティ・ワード(これを買わねばてめえはマザコンの乳吸い、みたいな)さえ発せられる、まさに民衆のむんむんとした熱気、人の物欲と好奇心と生存本能とがミックスされ、独特のクリーム的な熱を帯びた市場を二人は行く。


 そこに居る時雨とエヴィルは、往来をひょいひょいと避けながら、村の中心部へと向かう。


 ちなみにその際、幾人ものスリがエヴィルが抱えたいくつもの本に手を伸ばそうとしてきたので、時雨が手を払ったり、エヴィルが魔法でスリの足元に何本もの光の針を魔法で打ち付けたりして追い払った。


 後者のスリはぎゃあ! と叫び、ぴょんこぴょんこと跳ねてのたうちまわっている。ひどい。


 やがて、湖から流れ出てくる、村を両断する、勢いのよい川が見えてくる。


 それまでの土の大地から、丸太で作られた(とにかく木だけは豊富にあるので、さっさと土建するには丸太が適当なのである)頑丈な掛け橋を渡り、村の中心部に辿りつく。


 そこは市場とはまた別の活気があった。


 というか、人の往来の、少々の緊張感というか。


 仕事を追い求める人の緊張(もう数日はメシを喰ってない目付き)、


 借金で首が回らなくなっている人の絶望(あと二日後には子供を売らねばならなくなりそう)、


 地方の役所からの出向役人(どことなく胃が痛そうで神経質っぽい)、


 と、バラエティに富んでいる。嫌なバラエティだな。


 「それなりに仕事がありそうだね」


 時雨はその(嫌な)活気を見て言う。


 「何かあったのかな」


 「時雨君、我々がここに来るときにやってきたことを思い出そう」


 「あー」


 すっかり忘れていたよ、という少女。


 豪気もここまでくれば蛮勇である。


 「要するにだ。俺様たちが、奴らにゲロ吐かせたここいらの裏事情により、裏稼業の撲滅を図ろうとしてるんだな」


 「なるほどね。これがいい機会ってわけ。数で勝負、みたいな?」


 「この村の連中も出先を窺ってたんだろうが、まさかこういう形でブレイクスルーが出来るとは思ってなかっただろうよ」


 で、そのブレイクスルーのきっかけとなった化物二人(二匹)、賞金稼ぎギルドに入って行く。


 木の看板には、剣と斧が交差する紋章が焼き印されていた。


 「黄昏の門」と、その看板の下には書かれている。ギルド名だ。


 時雨とエヴィルは開き戸を開けて入って行く。


 ギルドの中に居る面々――誰しもが屈強な戦士だ――は、二人の姿を見て、一様にビクッとした。ギョロッ、とした視線を投げかけた。


 無理もない。


 ここいらを荒らし回っていた非人道的な賊に、それを遥かに越える非人道的な仕打ちをして撃退した二人なのだから。


 そんな視線を意にも介さず、二人はカウンターへと赴いた。


 「今回は世話になりやして」


 髭面の虎のような、恐ろしい顔をした大柄な男――ギルド長――が二人に礼を言う。


 普段ならば素っ気なく、あるいは暴力的に、このような若造相手などしてられない、みたいな態度を取りそうなものだが、相手が相手だ。


 「堅苦しい挨拶は抜きで」


 時雨がそれをたしなめる。


 「早速だが、仕事はないか?」


 エヴィルが単刀直入に聞く。


 ブッ! と吹き出す者がいた。


 時雨がその方向を見ると、ひょろっとした男がむせている。


 視線に気がつくと、ひょろ~、と、吹けない口笛でごまかしている。


 「あんたら、さんざっぱら稼いだだろが」


 この場に居る全員の声を代表してギルド長が言う。


 「それがこのビブリオマニアが使っちゃってね」


 時雨が、やれやれ、みたいな面持ちで言う。ほんとにやれやれである。


 青年、それを見てバツの悪そうな顔をし、


 「先立つモノがなければ旅は出来ない、という訳だ。欲しかったのだから仕方がない」


 意味不明なことをほざいている。


 長は苦笑し、


 「仕事自体なら山とあるんだよ、あんたらが『持ってきた』様々の情報から、ここいらの賊を一掃する計画が練られている。が……」


 「が?」


 「これ以上俺たちの取り分を取らないでくれや」


 正直な感想であった。


 「正直、面子の問題もある。俺たちがなんやかやで手こずってたここいらの賊共を、なんだ、いきなり現れた旅人に一掃されたんじゃ、俺たちの立つ瀬がない」


 「あんなザコ相手……もごご」


 エヴィルが余計なことを言って場をこじらせようとしたので、時雨、手でエヴィルの口をふさぐ。


 「わかりました。それじゃ、賊関連はそちらに任せるとして、何か他の仕事ないかな?」


 「もごもごもご」


 青年の顔色が悪くなってきている。酸素が送られていないようだ。


 「そうさな……他ならぬあんたらの頼みだ。また、こうして面子を立ててくれたこともあるし、その上、また俺たちに手の余ることがまだまだこの地域には山積みなのだ」


 「ふむふむ」


 「もご……」


 「吸血鬼とは現在、小競り合いみたいなものもなく、物資の交流もあったりするくらいだ。……まあ、それが盗賊どもに渡ったりするのが情けない話なんだが。が、そっち――吸血鬼方面では、さしたる問題もない。いつあいつらが気変わりして襲ってくるか分からんが、とりあえずは協定結んでるからな。問題はそれより……ここいらにある遺跡に、冒険者、探検家が迷い込んでいってな。そいつらの捜索を手伝ってくれたら助かる」


 「あれ? それは冒険者ギルドの範疇じゃないの? あるいは、商人ギルドも絡んでるでしょ? 遺跡発掘ともなると、出資するでしょう、商人たちは」


 「ぶはぁ! いーかげん離せっつーの!」


 冷静に話を進める時雨の手を振りほどき、エヴィル、しばらくぶりの酸素を吸い込みながら咆哮する。


 「はぁ……はぁ……ははぁ、さてはアレだろ、その遺跡に、賊の一党やら、太刀打ちできないようなモンスターなりが居んだろ」


 案外冷静に話を聞いていて、その奥の痛い所を突くエヴィルであった。


 「……そこまでお見通しされちゃったらな」


 「そんなもんじゃないかって思った。俺様たちを『使う』んだったら、そういった『厄払い』が適当だろうよ」


 「そう言ってくれなさんな。これも、お前さんたちの腕を見込んでのことだ。……このギルド『黄昏の門』の面目が立たないが、何、俺が頭を下げてここいらのトラブルがひとつ消えるのなら、それに越したことはない」


 「その言い分、嫌いじゃないぜ」


 なかなかに実直で、気の入った言い分であった。


 その気骨に、むしろエヴィルは好感を抱いた。


 頭を下げられたのが気にいったのではない。


 「俺が責任を持つ」という人間性、それはエヴィルの好みでもあった。


 「よし、引き受けよう。時雨君、異存は?」


 「いいよ。ただ、別に私たちだけで事は収められると思うんだけど、ただ、ここら辺の地理や風土について詳しい人からのレクチャーが欲しいかな」


 「まあそれくらいの情報は欲しいわな。しかし時雨君、自信があるわりには、安全策取るじゃないか」


 「安全策というよりもね……その案件、結構至急の案件なんでしょ? 冒険者、探検家といっても、素人じゃないはず。にもかかわらず、魔窟に迷い込むみたいに引きこまれていってるじゃない。数だってそれなりなものになってるんじゃないの? それだけに、各ギルドが問題視している案件と化している……共同で事に当たらない限り、解決出来ないほどの」


 「……」


 その沈黙が時雨の推理の正当性を語っていた。


 「……こちら側から案内役を出す。そいつに聞きたいことを全部聞いてくれ」


 「一人に全て任せるのか? 随分と投げっぱなしじゃないか」


 咎めるようなエヴィルの言い方。現代スラングで言うところの投げっぱなしジャーマンである。


 「俺たちは、これからここいら一帯の盗賊、人買い、など、など、などの裏稼業を伐採するつもりだ。主力はそっちに割きたい。何しろ、念願だったわけだからな。……これも、お前さんたちの腕を買ってのことだと思ってくれ。それに……そういった案内めいたこと……柔軟に、様々な案件に対応出来るのは、あいつが一番適当だろう」


 「ふうん、随分買ってる奴がいるんだな」


 「ただ……ただ……な……」


 言葉を濁す長。


 「腕はそこそこあるんだが……」


 「何だよ。妙に気になるじゃないか」


 「まあいい。ともかく会ってから話を進めてくれ。おーい、アーク!」


 長がギルドの二階に向かって声を張り上げる。カウンターの奥からは、ギルドの奥口に繋がっている。


 すると、たたたたた! と素早い足音を立てて、一人の少女が降りてきた。


 青みがかったポニーテールの、青い上着を着た少女であった。


 「おさっさん、この人たちが今回私がお相手する人たちでありますか?」

 元気に応対する少女。しかしそれにしても何か言葉づかいが変だ。丁寧ではあるのだが……。


 「おさっさん(長っさん)言うな。おっさんみたいじゃねえか」


 「いいじゃないですか、そんなに変わらないんですし」


 「てめえ、言ってくさるな」


 それなりに恐ろしげな外見をしている長に向かって、結構ずけずけと物申す少女であった。


 少女、アークは時雨とエヴィルに挨拶をする。


 「この人たちですね」


 「ああ、そうだ。ヘマやらかすんじゃねえぞ」長が言う。


 「はじめまして。アークと言います。便利屋、何でも屋の類をやっております。多分。う~ん、メイビー」


 「「多分……?」」


 妙な言葉が混じったことに、二人は一抹の疑念を隠せない。


 「おい、こいつ大丈夫なのか」


 エヴィルはちょっと心配になって聞きただす。


 「まあ、気持ちはわかるが、一応こいつの『何でも屋』としての腕は、まあ、オールラウンダー的に色々こなせるタイプのものだ」


 「なるほどね、だからこの子一人に任せれば大丈夫、ってなわけ」


 「察しが早いですね!」


 会話の途中で割り込んでくるアーク。空気を読まない。


 独特のテンション……どことなくずれているように思えるテンションに、若干時雨とエヴィルは戸惑い気味である。


 しかしそれを言ったら、この場に居る全員が、二人に対して戸惑いを全面に隠していないので、どっちもどっち、と言えた。


 「よろしくお願いします! どうも今回は色々とありがとうございました!」


 「「もう終わった!?」」


 「じゃ行きましょう、あれ、何驚いてるんですか?」


 時雨とエヴィル、ギルド長に視線を向ける。長、無言で目をそらす。


 やれやれ。


 時雨とエヴィルと長と、三人が、いやあるいは、その場にいる(アーク以外の)全員が、そう思ったであろう。そんな空気が流れた。


 度胸が据わっていることは認めるのだが、どうにもアホの子であるだけの話じゃねえか、みたいな疑念が拭い去れない。


 そして。


 そして、今回の事件を通じて、最初から最後、最後の最後に至るまで、この少女はアホ中のアホだということを、二人は知るのであった。

 

次回から、第三話で、ダンジョン&バトルな回です。RPG!

よろしくおねがいします。

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