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(6)

また二人が合流して、のたのた町の中を歩きます。

こいつらこんな会話ばっかりしています。

このシリーズは、正直それだけのシリーズです。

そんなおっかない(しかし容姿だけはどこまでも良い)二人、朝食を取ったあと、村内の散策へと向かうこととした。

 

村の情景をざっと描写することにしよう。


 どの家も、木材をふんだんに使った、現代風に言えばログハウス風の作り。もちろん土壁のところもあるのだが、そこも木材で補強している。


 現代の建築学志望の学生はテンプレ回答として「木のぬくもり」が云々と言うらしいが、この時代、このような林を潤沢に持っている村においては、それ以外に選択肢がなく、当然村人も、現代の人々が希求してやまない(らしい。世間では、とくに都会ではそのようなテンプレ回答が良く聞かれる)「木のぬくもり」などというものを意識すらしない。

 

当事者の意識なんてそんなものである。


 さて、この村はそれほど広くない。


 鬱蒼と茂る林を背後に、そこを抜けたところに位置するこの村。


 林に張り付くようにしていて、日々の恵みをそこから得ている。


 獣とか、木材とか、野菜とか。


 そういうわけで、先の食堂の店主が言ったように、ここ以降のルートを通る旅人にとっては、この村を基点とせざるを得なく、当然のように、市場は賑わっている。


 で、エヴィル、時雨を伴って市場に行って何をしたかというと、あの賊を捉えて売り払った賃金で、そっくりそのまま何冊もの書物を買い占める暴挙に出た。


 「また良く買ったね。どのくらい? 今回の収穫は」


 どうやら時雨は、「いつものこと」ということで、さほど驚いてはいないようだ。


 「物理学の本一冊。これは当該分野の新たな知見をコンパクトにまとめたもので、なかなか使い勝手がよさそうだ。それから、毒系黒魔法に関する論文――まあ、一般にはちょっとヤバげな本なので、売り手もさっさと放出したがっていたな。うむ、これは良い」


 例えるなら裏AVのようなものか。(黙れよ)


 「それから、白魔術に関するもの、時空魔術に関する、これまた論文集、あと戯曲。それからもうひとつの掘り出し物としては、プレートテクトニクスに関する小冊子か。これは俺様も前から目をつけていたジャンルだったのだったが、地形学というモノがまだ発展途上かつマイナーかつ宗教的に問題のあるジャンルだからな。なかなか文献がないのだ。しかし、ここに記された発想の煌めきは、見逃せないモノがある。くくく、楽しい」


 子供のように、手に入れたおもちゃを両手に抱えて、すごく嬉しそうな笑みを浮かべるエヴィルだった。


 それだけ見れば、すごく魅力的な笑みである。


 雨上がりの満開のアサガオの花々のような、新鮮でありながら色気すら感じさせる美しさの笑みである。


 そりゃ誰だって惚れるわ。こいつがこういった笑みを見せるの、はじめて描写したよ。


 それはさておき(筆者の驚きなどどうでもよろしい……と言ったら、これまでの地の文のほとんどがどうでもいいという事実に目をそらす)、ともかくも路銀を使い果たしたわけである。


 この事実は如何ともしがたい。


 青年エヴィル、何はともあれ本を買い求めるという癖がある。


 それは学徒として、と本人は言っているのだが、結局は知的好奇心――貪欲な、尽きることのない、暴力的なまでの知的好奇心によるものだ。


 それこそが天才の証、とも言える。


 がそれにしたって、少々やりすぎと言えなくもないか。路銀が尽きるほど行うのである。


 そこのところ嫁、じゃなかった、相棒、時雨はどう思っているのか。


 ところが、時雨はそれに対して怒ることもなく、相棒の嬉しそうな顔を見て、彼女も嬉しそうである。


 結局のところ、時雨も重々承知しているのだ。


 エヴィルがこうして本を、知識を得ることは、自分が剣の腕を磨くことと同意であるということを。


 でも、である。


 先立つモノがなければ路頭に迷うのはこれ必定であるからして、明日のメシや寝床にも苦労するどころではない。


 まさに後顧の憂いを絶ち、明日の迷いをも絶つフリーダムな、バカ行為と言って差支えなかろう。どう好意的に解釈しても。


 ということを、俗世を渡っていくということを、旅人のこの二人が考えないわけもなく(それほど甘いわけがない)、当然のこととして路銀の調達、と相成ることとなった。


 せっかく稼いだ翌日にこれ! 


 読者は真似してはいけないと忠告したいが、しかし読者の中にも、小説を、メシ代を逼迫する勢いで買いためる諸兄もおられるのではないかと推察する。ああ、活字中毒!


 「しょうがない、賞金稼ぎギルド行くか」


 「だね」


 「……あっさりとそう言われると、むしろ俺様、ちょっとした罪悪感を感じてしまうのだが」


 一応エヴィル、そういった遠慮の念は持ち合わせていたようだ。


 「どの道、エヴィル君が旅してる目的だもんね、書物収集は。それから、魔法アイテム収集も。それを咎めるつもりはないよ。人間守りに入ったら終わり」


 なかなか豪気なことを言うあねさんである。姐さん言うな。


 「でも、それだけ買って読み切れるの? いつも思うんだけど」


 「楽勝」


 あっさりと言ってのけるエヴィル。


 「まあ心配すんな、この投資がいずれ実を結んで、偉大なる学術の伽藍を構築するのだ。俺様が今までやってきたこと……論文書きとか見てきただろう?」


 「うん、時折すごいお金になるのは知ってる。でもまたそのお金も本につぎ込んじゃうんだからね」


 ぐさり。


 オタクや物書きが「資料! 資料!」と言って各種書籍を収集する心理をざくっと切っている。こわい。


 「ま、いいんだけどね」


 「だったらいじめるなよ」


 「たまには釘をさしとかないと、どんどん暴走するでしょ?」


 「……一応、これぐらいで済んでる、とありがたく解釈すべき、なのだろうな」


 「私じゃなかったらブチ殺されてるよ。いずれその本燃やされないように注意しなきゃね」


 剣呑な言葉にビクッ! となるエヴィル。笑顔で言うのだから余計に怖い。


 「……善処する。今回は俺様もやりすぎた」


 「でも、賞金稼ぎで稼ぐんでしょ? で、結果路銀が溜まれば結果オーライじゃない」


 ホント豪気な姐さんである。

もしよろしかったら、文体など、ご意見いただけたらさいわいです。

実験中ですので。

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