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魔物の恩返し

『10月10日 23:45(日本時間) 豊下市、スノウの家近くの道路』


今晩の天気は

爆発時々、氷、及び火と雷と重火器が吹き荒れるでしょう。



過疎で静かな豊下市の上空は、魔術師や魔法使いや重火器使いが暴れ、下の町並みは地獄と化し、深夜だと言うのに人々が逃げ惑


い、そこら中から悲鳴や苦痛の声が聞こえる。

スノウの家へと向かう防衛する手段が無い気絶した由葵を抱き抱えたスノウも、そこに参加する権利を得ている。



「(最初は二人ダッタのに、何デ増えテるのデスか…)」



手足が無く浮いてるように見えるスノウを時折見る人間もいるが、それどころではない状況のためあまり気にされない。

本来ならばスノウも慌てるような状況なのだが、慌てず家へと向かう。



「(ドうセ、もう死んダ身デス、由葵が守れれば…)」



それに慌てても、逃げても、家に閉じこもったとしても、生存率に余り変わりは無いだろう。

運が悪ければ死ぬねそんな状況なのだから。


目の前にピンクの光線が降り注ぎ、その直線に存在していた家が吹き飛んでいく。

その衝撃波でスノウも身が投げ飛ばされ、由葵も壁にぶつかり、うきゃうなどと言った変な声が聞こえた。





ドコォッ



「いッタタタタ…」



突然の衝撃波で身体がバラバラになるかと思い、一瞬意識が切れたため首がどこかに飛んでいく。

火で無くて助かった、火の魔法なら余波でも充分死ねた。

スノウは安堵し、由葵の身体を捜す。


運が悪ければ、今ので死んでいてもおかしくない。

人間は衝撃に対する耐性が低いのだ。



(ドこに、ドこに…)



スノウの視界に入ったのは、民家の壁に突き刺さり、身体が潰れ臓器や人間の部品を撒き散らした人間の下半身であった。

そういえば投げ出された瞬間、何かの衝撃音がしたのを思い出す。

まさか、由葵が、死んでしまった?

スノウの身体から力が抜けへたり込みそうになるが、ふらふらと潰れた死体に近づく頭の無いゴスロリ服。




(まサか…ソんな…まタ殺シテシまッタのデスか…)



「ッテ人違いジゃねーデスか!」



ズボンが破れていたため、男だということが判り、突っ込むスノウ。

てっきり死んだかと思って柄にも無く、シリアスモードに入ってしまった。

よく見ると、その死体らしき人間の下で、唸りながら気絶してる由葵の姿がある。


近づき、確認すると、青あざぐらいは出来ていると思うがピンピンしていた。

運が良い。

顔や身体に上の死体から落ちた臓器や、血を浴びているが、殺人犯からしたらこういうのも好物だろう。

人間が人間を殺す理由なんて金か血である、ならお金持ちを襲っていない由葵は血目当てだ。

恐らくテレビにでも影響されたのだろう、スノウはそう考えた。


その考えが一部も合ってないという考えが浮かばないままに。


スノウの頭も由葵に抱かれ、どこも凹んでいたり、傷も入っていない。

すぐに頭をゴスロリ服の上にセットし直し、由葵を抱き抱える。


どこでも良いから早く逃げなければ。

援軍でも来てくれれば解決するだろうが…。



(田舎ダト、お前らみタいな化け物鎮圧デきねーんデスよ!)



だからさっさと、殺しあって最後の一人になって戦い終わってくれ。

そう空で戦い続ける者達に心の中で文句を言い、スノウの家へと向かい直す。



補足ではあるが。

スノウが言った田舎では鎮圧が出来ないという言葉。

これは強大な力を持つ人間は都市部にいけば、欲しいものが何でも手に入るようになるが。

力の無いものは諦めて田舎に戻るしか無くなる為、自然と田舎には強いものが居なくなるからである。


例外はあるにはあるが、都合良くそんな存在はこの街にはいない。

命が軽くなったファンタジーの国日本は、治安までファンタジーレベルになっているのだ。









『10月10日 23:59(日本時間) 豊下市、スノウ(川澄)の家』


さて。

住宅街が火災と煙で明るくなり、昼間のような明るさになろうかという時、スノウは自宅である一軒家に到着した。

正確に言うならば、頭の持ち主であった少女の家であり、家の名札には川澄と書かれている。


家の前ではジャージを着た偉そうに腕を組み胸を張った無愛想な男性が居り、スノウに声をかけてくる。



「何だ、戻ってきたのか」



その男性こそスノウの頭の持ち主である少女の父親である。

スノウに一声掛けた父親は、スノウの返事を待たずにすぐさま後ろ姿を見せ家の中に入り、地下の防空壕へ続く階段を降りていく


が、途中で足を止め、スノウの方へ振り向く。



「どうした、さっさと来い、危険だぞ」


「はい、わかりまシタ」


「その話し方は止めろ、麻衣に似ず不愉快だ」



麻衣というのは、スノウの頭の少女の名前だ。

既に死に、頭だけをスノウが受け継いだ。


「了解デスよ、お父様」



麻衣に似せず、いつもの話し方で返事をしたスノウを見ながら顔を少し歪め肩を震わせながら、地下の防空壕へと向かう父親へと続くスノウ。

この話し方を止めろと言われても、日本語の発音が難しくてできないのだから仕方が無い。

それなりに長い付き合いなのだからあの父親もわかっているはずなのに、未だにあの言葉を口癖のように言う。


記憶の中の父親はあんな無愛想な顔を娘へは見せず、柔らかな表情ばかりだった。

頭のおかげで彼の娘であった少女の記憶は持っているが、意識が別人であるスノウへの態度だとあれぐらいが当然なのだろう。



――麻衣、父さんはどうすればいい



麻衣が死に、譲り受けた直後に言われた父親からの言葉を思い返す。



――娘は化け物に乗ッ取られタ、ソう思ットけばいいんデスよ



乗っ取られただけなら生き返るかも知れない。

生き返らすために身体を維持しなくてはならない。

そうでも思って貰わなければ、私は安心して生活ができない。


事実、身体や頭さえあれば、蘇る方法はあるのだ。

莫大な金と権力はいるが。


こんな田舎の一般市民が生涯かかっても用意できないような金と権力が。


そんなことを考えていると防空壕へと到着した。

都市部のような魔法の戦いが起きた時用に何年も前から用意していた防空壕。

普段はただの物置になっているが、荷物は端へとどけられている。


(私なんテ所詮化け物、人間ト馴れ合う何テ無理デスよ)


と、スノウの抱き抱えたいた由葵が突如として横から奪われる。




「私はモンスター、貴方達とは馴れ合えないわ」


「…タケシ、何デスかそれは」


「姉ちゃんが考えてそうなこと適当に言ってみただけ、いい線いってると思うけど」



気色悪い女声を出すゴツい体格の少年がスノウの手から由葵を奪い、ベットに放り投げる。

ポヨンと少しはね、壁にぶつかったが目を覚ました様子は無い。

ぞんざいな扱いである。

目の前に立つスノウに比べ頭二つ分高い少年の名前は川澄武司

スノウの頭の持ち主であった麻衣の弟であり、麻衣には嫌われている存在だ。



「私はソんな事考えテ無いデス」


「姉ちゃん、異界出身の癖にかなり厨二病入ってるよな、今時の日本人なんてもっとてきとーなのに」



この弟は私の事を「チュウニビョウ」「チュウニビョウ」といつも馬鹿にする。

スノウはそれがとてつもなく嫌だ。

麻衣であった頃も、スノウである私の時も哀れむような目で「チュウニビョウ」と言うから腹が立つ。




「まあそんなことはいいか、姉ちゃんったらまた勝手に外でて、こんな埃と血まみれになって、大丈夫だったか?怪我してないか


?俺と風呂はいらないか、姉ちゃん雑魚いんだから一人で外出るなよ、俺も母さんも心配してたんだぞ、父さんは何時も通りツン


発動してたけど」



ハンカチで血や埃を落とされ、頭を撫でられる。

こちらの方が姉だというのに子供扱いされ、雑魚扱いされるとストレスが溜まる。

馬鹿にされているようにしか感じない。

スノウと麻衣の記憶は武司をとても嫌っている。



「人の事を雑魚トは何デスか、雑魚トは!」


「姉ちゃん人じゃねーじゃん、父さんも母さんも俺も姉さん雑魚いし頭悪いから殺されてないか心配してたんだぞ」


「私は魔物腐サッテもデス、ソう簡単に殺サれタりなんか」


「するだろ、魔力無い、腕力無い、体格も無い、というか頭悪い、俺どころか母さんにも他の人間にも負けるだろうよ」


「勝テます!」


「無理だろ、素直に家にいとけよ、遠慮なんてしなくていーからよ」



もう会話するだけ無駄だ。

武司と会話してるとストレスが溜まるので辺りを見渡すと。

複雑な表情でこちらを見る父親と、笑顔でこちらを見守る母親がいた。



(何デスか、これはダからこいツら嫌い何デスよ、私は娘に憑依シタ化け物何デスよ)



「こいつらなんて嫌いだ、死んでしまえー」



私の声真似をしているようだがまったく似ていない気色悪い声を出す武司。

こいつは本当に私のことがわかっていない。



「死んデシまえ、まデは思ッテ無いデス、食べる訳デも無いのにソんな事思う奴は最低デス!」


「姉ちゃん、変に倫理観あるよなぁ…何時の時代の人間だよ」







『10月11日 00:12(日本時間) 豊下市、スノウ(川澄)の家の地下室』


このご時勢、人間は簡単に殺され、死ぬ。

魔法を使えるようになった子供や大人が遊び半分で街を滅したり。

魔法が使えない人間を馬鹿にし、殺したりという出来事がたまに起きる。

ただ、そんな人間は周りの者に怨まれ、殺される。

死亡率で高いのは異世界からこちらに来たばかりの魔物に殺されるということだ。

こちらの世界に来たばかりの魔物はこちらの法律もルールも知らず、人間を殺し、襲い、そして自分達も殺される。

生き残る者は比較的賢い者か、温厚な魔物である。


初めて異世界との扉が繋がって三十年近く。

知人が街ごと消滅したり、家族が留守の間に皆殺しにされたり、旅行先で殺されたりとで、死亡率トップが病死だった頃の日本に


比べ他者の死のハードルが下がっている。


母親も父親も子供の頃からの知り合いは三分の一は殺されていると昔言っていた。

武司だって、クラスメートや知人が何人も死んでいる。


死ぬことは悲しいが、どうしようも無いのだ。

人間はどうしようも無く簡単に死ぬ、だから諦めのような考えになってしまった。


だというのに。

この元姉の頭を乗っ取った、スノウは。姉は。



「良いデスか、命ト言う物は一ツシか無いのデス、そシテ命を育テるタめには多大な時間がかッテ」



人間の魂を食事とするのに、人間の命の尊さを唱える。

まったく持って意味がわからない。

姉が死に悲しんでいたら、姉はリビングメイルに乗っ取られ、姉が大好きでよく着ていたゴスロリ服に憑依していた。

初めの頃は、存在に悩んだ、なにしろ会話してみると姉の記憶を持ち、姉のような動作をするのだ。

しかし姉が死んだのは家族全員が確認している。

そしてその姉が遺言で、魔物に身体を明け渡すということも伝えられ、反対する前に亡くなった。

そして姉のような者との生活が始まり…、何日か立つ頃にはどうしていいかわからなくなった。

人の魂を食事とする魔物とは知っていた、だから凶悪な魔物だと思っていたのだ、止むを得ず身体を明け渡したと思っていたのだ。

しかし姉が異世界から来た魔物に乗っ取られた、そう認識するには。



「聞いテいるのデスか!」


「おう聞いてるぞ」



このスノウという少女は。

真面目すぎた。

雑魚すぎた。

臆病すぎた。


生意気な姉が死に、変に真面目で、弱く、臆病になる。

人間の言葉を必死に練習、発音し、俺に掴まれたら何も出来なくなり、魔法も碌に使えない、外を歩くときもキョロキョロと周りを見渡し常に警戒している。

そんな姉だったスノウを見て武司は悩み。

今ではあの頃は無かった家族のような関係になった。



「それで、姉ちゃんその話題は理解したんだが、君塚ちゃんを何で連れて来たの?」



話が止まらないスノウを遮り別の話題にする。

麻衣の幼馴染であったから多少会話をしたことがあるから存在は知っている少女君塚さん。



「タまタま出会い、助けられタから連れテ来タダけデスよ」



スノウが最近、食事が出来ず死にそうになっていたことは、家族全員が把握している。

嘘が下手な上に、ここ最近の姉はあきらかに弱っていたのだ。

そんなスノウが無断で外泊していのだから、誰かを殺し食事を取ろうとしてたのは想像が付く。


その食事の相手が、姉の幼馴染であった君塚由葵なんだろうなとは武司にも予想が付いていた。

他に襲えそうな相手がいないから、消去法ではあるが、恐らく間違っていない。

その姉が元気になり、助けられたと言い帰ってきた。


それが意図することは簡単だろう。

君塚さんが姉の生命線である人の魂を上げたため、姉は元気になり恩を感じ、助けた。

そういうことなのだろう、



「そうか姉ちゃんを助けてくれたのか、ならお礼をしないとな」


「ええ、ソのツもりデス」




スノウがそう言うならば、弟して家族として、一緒にお礼をするべきなのだろう。



「命を助けられタら命デ返セ、私のポリシーデス」



そんなもの踏み倒してしまえば良いのに。

本当にスノウは、姉はよくわからない。

嬉々とした声質と表情で、そう語るスノウを見て武司は微笑んだ。

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