振り返ればゴスロリ服
基本的にこの小説、強いもの同士の戦いでは無く、強い奴等がいっぱいいる世界でのサブキャラの物語みたいなかんじです
『10月10日 23:05(日本時間) 豊下市、君塚由葵の家』
ゴスロリ服に包まれたスノウの首を抱えた由葵が、首を持ったままベットに倒れこみ、目を瞑る。
首を振り目を開け、また目を瞑り、手で顔を覆い、腕から首が落ち床に落ちる。
由葵の精神は限界に近かった。
ただでさえ、クラスメートが殺人犯であることを知り悩んでいたというのに。
今度は幼馴染が原因不明の死を遂げた。
もしかしたら私が抱きかかえたから死んでしまったのかも知れない。
家の外からパトカーや救急車のサイレンの音が聞こえ、身体を震わせる。
言ってしまえば全て楽になれるような気がする、だからウチの前に止まってください。
そんなことを考えるが、サイレンの音は遠くなっていく。
「なんでよぉ…」
由葵の激痛の中、搾り出した声。
精神的なショックでお腹も胸も走って来た脚も、身体中が痛い。
「なんで、こんなことになってるのよぉ…」
君塚由葵という人間は、普通の人間だ。
何か経験を詰めば、化けるかも知れないが、現時点では一般市民だ。
これが都会の人間ならば、殺人事件も原因不明の死も秘密結社やモンスターが多いため慣れているであろうが。
ここは田舎であり、由葵には経験が無い。
ついでにいうならば、演技をしてばれるのを恐れているため男との経験も無い。
首都の方では秘密結社が作戦の計画書を市役所に申請し、許可を待って事件を起こしている。
これは無差別に事件を起こされるよりかは、という苦肉の策らしいが、かなり効果を上げている。
無許可で事件を起こしても良いが、そうすると国家反逆罪などですぐに処刑されるそうだ。
「…ぁぁ!」
由葵は小さく悲鳴をあげベットで転がる。
場慣れさえしていれば、殺人犯はさっさと警察に言えば死刑になるのはわかるだろうし。
スノウも首が落ちたとは言え、身体が無いのはおかしい、人間では無いという事実に気が付いていただろうが。
普段のような冷静さは無く、由葵は気が動転し、思考がまったく定まっていなかった。
何分立っただろうか。
心が乱れに、乱れたまま由葵は起き上がり、床に転がるゴスロリ服に包まれたスノウの首を見て決断した。
埋めてしまおう。と。
その由葵の決断は勇気による決断では無く、蛮勇による決断であった。
考えることを放棄していたためか、その決断がおかしいという事実に由葵が気が付くことは無い。
冷静に考えれば由葵自身は何も悪くない。
そんな簡単なことにさえ気が付くことはなく、地味な服に着替え、帰宅したばかりだというのに外に出る。
由葵は息を押し殺し、暗闇に身を潜めながら、近くの神社へと向かう。
その動きはどこからどうみても「私何かやましいことしてます、怪しいです」と自己主張したかのような動きであったが。
運が良いことに、誰とも出歩かなかった。
ずっと、サイレンの音が町に鳴り響いてはいたが。
人の気配は無い。
「埋葬なのよこれは」
私が抱きかかえたから死んだんじゃない。
元から死んでて首が落ちて死んだんだ、もしばれたとしても警察にそう言えば良い。
訳のわからない論理で由葵は自分に言い聞かせる。
キョロキョロ周りを見渡しながら足音を立てないように歩いていると、ようやく目的地である神社へと到達した。
元々神主がいない神社であるし、深夜なので人がいる可能性は低い。
階段や境内を見渡し人がいないことを確認し、神社の裏の森に入る。
土を歩く音と、遠くから聞こえるサイレンの音が、耳に響く。
大丈夫だ、こちらに向かってきてるわけでは無い。
「ばれてない、早く埋めないと」
「流石に、埋められるのは勘弁シテ欲シいのデスが…」
ビクリ、と身体が硬直した。スノウの声がどこからかする。
自分の抱えてるゴスロリ服からだ。
何で、どうして。
死んだ人間が話すことは無いから幻聴だと頭の中では理解しているが、もしかしたら生きているのではないだろうか。
由葵は身体を硬直させたまま首を振る。
そんなことはあるはずが無い、あってはいけない。
こんな幻聴のことなんて気にせずさっさと埋めて家に帰らなければ、そうすれば血濡れの包丁のことしか考えずに済む。
「埋めて帰らないと」
「ダから生き埋めはチょット…」
何かを話すゴスロリ服を抱えたまま、目的地である巨木の下へと到着する。
持ってきたスコップで早く穴を掘り進め、埋めなければ。
首の入ったゴスロリ服を横に置き、穴を掘り始める。
ガサリ。
後ろで物音が鳴り、また身体が硬直する。
他の人間でもいたのだろうか、今の状況を見られるとまずい口封じしないと。
そう思いカクカクしながら首を後ろに向けると。
頭も手足も無いゴスロリ服が暗闇の森に佇んでいた。
それを見た由葵は恐怖で、声無く、意識を手放した。
『10月10日 23:22(日本時間) 豊下市、春日神社の森』
「…何デ埋めようトシタんデスかね」
目の前で、無言で地面に倒れた由葵を見ながら、スノウはぼやく。
魔物だと知り、退治しようとしたのならば、埋めるなんて方法はおかしい。
さっさと魔術師辺りに通報するか、服を燃やすかで解決するというのに。
まあ私は埋められると脱出できなくて詰むのは確かですけどね。スノウは自虐する。
まともな魔力さえあれば、脱出できるだろうが、スノウにはそのまともな魔力が無い。
自分を維持する魔力だけで常にいっぱいいっぱいだ。
そんな生きることにいっぱいいっぱいな私に対して、通報も燃やすという選択肢も取れなかったという結論をだしたことといい。
埋めるという判断を出し、先ほど抱きかかえられた時の死臭と血の匂いから由葵の状況を考えると。
「ようこソ、こチらの世界へ」
こう言うべきなのだろう。
最近、この辺りで血の匂いがするような事件は最近ニュースとなっている連続殺人事件しか起きていない。
なら染み付いたばかりの死臭からして、連続殺人事件の犯人がここで倒れている君塚由葵なのだろう。
由葵は日和見を決め込む温厚な性格だと頭の記憶上は記憶しているというのに、何時の間に。
殺人犯になんてなっていたのだろうか、本当に人間はわからない。
学校での演技は、こういった一面を隠すためにわざとやっていたのだろうか。
幼い頃の由葵を知っていると違和感しかないあの演技、人間が殺人なんてしたらどうしても違和感が拭えない。
だからこそ自分の性格ではない性格を演技することによって違和感で違和感をごまかしていたのだろう。
スノウは気が付くことは無い。
学校での演技は、由葵の皆に優しくされて調子乗った結果だということを。
森に埋めようとしたのは、テンパったあげく蛮勇で暴挙に出ただけということを。
そんな事に気が付かず、スノウは由葵に関心していた。
「デスがこれから、ドうシまシょうか…」
自分の正体がばれたとなると。
本物の由葵の幼馴染が死んでいるという情報は完全にばれたはずだ。
幼馴染としての記憶は頭があるせいで持っているが、完全に別物の存在になっている。
それを由葵は許容してくれるのだろうか。
殺して食べるという選択肢は、食事を貰い命を助けられたことにより消滅した。
他の選択肢はどうやって恩を返すかという選択肢だ。
あそこで終わるはずだった命、由葵に助けられた以上由葵のために全部使うべきなのだろう。
恩という物は死んでも返す物、そう聞いている。
「私が死ぬまデは守らセテ頂くデスよ」
殺人犯の身代わりぐらいなら、私でもできますから。
私の命の延長戦はあまり長く無さそうだ、スノウは小さく笑い。
夜のうちにこの場から離れることにした。
何しろ、黒タイツと手袋が行方不明なり、いまのスノウはゴスロリ服と頭しかない。
こんな格好で昼間浮いていたら間違いなく、消滅させられそうだ。
気絶したままの由葵の身体を、見えない手と足を構築し持ち上げるスノウ。
ふと、街のサイレンがなっている方角を見ると。
どこかの馬鹿達が、空で魔法を打ち合っているのが見えた。
時折街中に魔法が突き刺さり、轟音と煙が上がる。
「サッきのあれは、吸収サれテいタのデスね…」
いるのだ、魔法を使う際、辺りの人間や魔物から強制的に魔力を吸収する魔法使いが。
そうすることにより、馬鹿みたいな魔力を扱うことができ、異常な魔力を持つことが出来る。
人が多い都市部では、大量の人間から少しずつ吸収するだけでいいのでよく使われる方法だが。
この街のように人が少ない場所では、禁止されている。
理由は魔力を吸いすぎると衰弱で済まず死に至る事もあり、人が少ないとその分多く吸収することとなりオススメできない方法だ。
なにしろ、国からは黙認されるとは言え、被害者や犠牲者に命を狙われることさえあるのだから。
つい先日も被害者の家族に殺された正義の味方がいたはずだ。
どんなに強い力を持っていたとしても、殺される時は殺される。
どんな英雄でも、一般市民が殺すことが出来る。
執念というものは怖いのだ。
「まあソんなこトはドうデも良いデスね」
さっさと由葵を家に送り帰ろう、スノウは魔法の打ち合いを見ながら、家へと向かう。
魔法のせいで死者が大量にでているのはわかるが、あんな場所にいったら巻き添えで死にそうだ。
食事を取った直後で良かった、とれてなかったら無理にでもあそこに向かい死んでいたような気がする。
色々考えながら由葵の家に着くと、魔法が当たったのか廃墟になっていた。
それを見て溜息を尽き、スノウは由葵を抱きかかえたまま自分の家に向かうことにした。