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8チーズ目:旅立つ理由。

 「…裏切ったって…!!何で…教えてください隊長!何があったんです!?」

僕は隊長ににじり寄り、隊長の黒い制服をすがりつくように握った。隊長のひげがピクリと反応する。ジェニーは僕の腕を強引に掴むと一気に隊長から引き剥がした。そして僕を睨みながら床へと突き倒した。おもわず尻餅をついて、体に衝撃が来る。

 「落ち着けよユウキ──…」

 「……」

隊長は、不自然によれた制服を整えながら僕を見下げた。

 「彼らの過去は…彼らのものであって、私から話すようなことではない」

キップ隊長はベッドから立ち上がり、黙っている僕の首根っこをいつかのように掴んだ。そして勢いよくたたせると、無表情な顔でつぶやいた。

 「しかし…ヒントはやろう」

 「…え…」

 「スティックとアランはおそらく伝説の洞窟に向かっている」

 ふらついていた体に力が戻ってくる。ジェニーはいそいそとキップ隊長の部屋から出ていくと、周りの様子を見回しながら自らの剣を確かめた。

 「私が、伝説の洞窟に連れていってやろう。場所は知っている…ただし、そこまでの道のりは甘くないがな…」

 「……」

僕は迷っていた。このまま追いかけて、何の意味があるんだろう。なんにしろ、僕は彼らを傷つけた。彼らは内戦状態の国に帰りたい。止める理由等…あるのだろうか。


 黙っている僕に、キップ隊長は首根っこを解放しジェニーが開けていたドアから出て行った。

そしてまだ唯一部屋に留まっている僕のほうを見ると、

 「来るのか来ないのか、ハッキリしろ」

と言い放った。

僕は手を握り締めると、部屋から飛び出た。キップ隊長は自らドアを閉め、鍵をかけた。もう部屋には戻れない。僕と隊長とジェニーは、バブルフレッシャーに乗って一気に下った。透明な壁から見えるこの景色を見るのは、これで最後になるかもしれないのか…そう思うと、体にまとわりついて癒してくれる緑の気泡が、やけに名残惜しかった。フワフワと浮く体、目を閉じて、力が抜けていく体に、ふと僕は不思議な感覚になった。



遠い…どこかで僕を呼んでいる記憶──。



 



 小さい僕は泣いていた。周りで大人が怪訝そうに見ている。おもちゃ売り場の目の前で、母親は僕を置いていった。原因は僕が高価なおもちゃを、どうしてもほしいとダダをこねたから。叱られても、叩かれても、どうしても欲しいと泣く僕に、母親は愛想をつかしてどこかへ行ってしまった。僕は泣いて泣いて、どうしてここまで泣くのかというほど泣いた。やがて一人のおじさんが僕におもちゃを差し出した。それは、僕が欲しかったモノだった。

 「おじちゃん…これ僕にくれるの?」

 「あぁ…」

僕は白髪で優しそうに微笑むおじさんを見て、飛び上がって喜んだ。だけどそのおじさんは僕の頭を撫でるとこういった。

 「だけど…自分の欲しい物は…自分で手に入れなきゃダメだ…人に頼ってばかりだと、弱い人間になってしまうから──」

 「…うん…」

 幼い僕にはその言葉の意味は理解できず、ただなんとなく頷くばかりだった。






 「本当に、いいのか?」

キップ隊長の声で、僕はようやく目を開けた。そして、先ほどの体験はなんだったのかと首をひねりながら、力強く返事した。

 「……ハイ!」

それを聞くと、隊長はあのおじさんのようにニッコリ微笑んでバブルフレッシャーから降りた。僕も降りる。

 あのころは、人に頼りっきりだった。だけど今は──違う。自分の欲しいものは自分で手に入れる。おじさんの言っていた言葉の意味が、少しわかった気がした。

ふと、目の前を通り過ぎた隊員が僕を見て、「どこかへお出かけですか?」と言った。

キップ隊長は彼を捕まえて念を押した。

 「伝説の洞窟へ行って来る…何か会ったら、ここから東に10D程歩いたところにある、巨大な滝のある場所に来い。そこに俺たちはいる。…が、このことは誰にも言うなよ!騒ぎになったら面倒だからな」

隊員は固く頷くと去っていった。どうやら彼は使命感が強いようだ。

 「じゃ、行くぞ!」

 「ハイ!」

 そうして、僕らは居住区から出ると、急いで伝説の洞窟へと向かった。




 「ボス!ボス!大変です!」

 「何だ騒々しい…」

灰色ネズミは警察署に駆け込んできた。漆黒のネズミは飲んでいた液体を机に置くと新しい茎を取り出しだ。そしてそれを悠長に咥える。

 「ボスの探していた歴史本!奴が持っていました!」

 「何だと──」

漆黒のネズミは直ちに白ネズミのワゴンを手配し、二匹でそれに乗り込むと全速力で特殊部隊の居住区へと向かった。

 「どういうことだ…詳しく話せよ」

 「ハイ…それが──」




 やがて二匹のネズミはあっという間に居住区に着くと中へズンズン進んでいった。そして一階に居た黒い制服を着た隊員と思われるネズミを捕まえ、にじり寄った。

 「な、なんで警察の方がこんな場所に…」

 「いいから答えてもらおうか?」

 「え?」

漆黒のネズミは、辺りに誰もいないのを確認して隊員を壁に押しやった。そして懐から鋭いナイフを取り出して、隊員の首へと押し付けた。

 「…キップ達。奴らはどこに行った!?」

 「──知りません」

 「嘘だ」

 「知りません!」

一向に口を開こうとしない隊員に苛立った漆黒のネズミは、ナイフで隊員の腕を切りつけた。隊員は慌てて腕を押さえたが、ポタポタと間から滴り落ちる自らの血と、その痛みに顔をゆがませた。

 「…さぁ、言わないと…もっと痛い目に会うぞ?」

 「何で…警察がこんなこと…!!」

 「関係ないだろ…奴らはどこに行った?」

すべてを隊員から聞き出した漆黒のネズミは、用がなくなったとばかりに隊員を切り殺すと、死体を居住区の泉に投げ入れて、すぐさま灰色のネズミに命令した。

 「ひたすら東に進め!途中で実験場に寄るのを忘れるな…アイツも連れて行く」

 「了解!」

二匹のネズミの乗ったワゴンは、白い砂を巻き上げながら猛スピードで駆けていった。






 僕らはひたすら白い道を歩いた。徐々に熱くなっていく空気と高くなっていく太陽の高度、僕はにじみでる汗をぬぐった。そして歩いてきた道を振り返ると二本の高い木はもう点のようになって、見えるか見えないかぐらいだった。

 旅の一日目は、時々現れる、黄土色の体に小さな耳、そしてツンとした鼻のキツネのような生物は、僕らについて回って、なんとか食料をくすねようと可愛い顔をしてみたりした。僕はそいつをチッチッと舌で音を出して追い払おうとしたが、逆にその鋭い爪で顔をひっかかれてしまった。あまりのヒリヒリ具合に思わずくしゃみが出た。

 途中で流れる川を渡っているときなんか、ジェニーは歯の生えた角の突き出ているイルカのような生物に足を何度もかじられたし、広大な茶色の土地を歩いているときなんかいきなり出てきたモルラットの子供に懐かれてしまい親モルラットに殺されそうにもなった。しかし隊長は覚醒もせずやっつけてしまった。

 二日目。急な崖にある細い道にさしかかり、僕はへっぴり腰で崖から落ちそうになった。すると旅をしていたロイドの群れが助けてくれた。僕とジェニーとキップ隊長は、ロイドの群れに再び乗せてもらって切り立った崖を一気に超えた。

ロイドはあの後ムクリナ養育所でたらふくエサを食べたらしい。おかげで群れはすっかり元気になって、あれから各地を転々としながらエサを探しているとのこと。シャローナ草原には、ムクリナが増えるまで戻らないそうだ。崖を越えたところで僕らはロイドの群れと別れた。

 三日目から5日目は、ひたすら森の中を歩いた。モルラットと戦った森とは別の森で、一日中霧がかかっている深い場所だった。ジェニーは突如現れた一角の羽の生えた黒い馬と、一時は戦闘しそうな勢いだったが、そのまま背中にのって操ってしまった。彼らは散々森の中を駆け回った後に、食料をこれでもかというほど携えて戻ってきた。おかげで僕らのぺったんこになっていた胃ははまた満腹になった。

 夜は焚き火をしながらキャンプをした。森の木は背が低く、真っ暗な空には一面星が輝いていた。静かな森は、耳をすますといろいろな生物の寝息や鳴き声が聞こえてくるようだった。実際寝ていると、ガサガサという物音と共に、全身が白の毛玉のようにフワフワした生物が僕の葉っぱの布団の中にたくさんもぐりこんできた。そいつらは毛が抜けやすい体質らしく、朝起きると僕の体は毛まみれになっていた。さらに布団の中には寒そうに震える、ところどころフワフワの毛が残っているピンクの生物が居た。

 6日目から洞窟に着くまでは、ほとんど砂漠を歩いた。たまにある水溜りに顔をつけて、一気に水を飲むのは病み付きになった。それからの記憶は、あまりの暑さで覚えていない。


 




 やがて、僕らは伝説の洞窟にたどり着いた。

洞窟は、滝の裏側にあって、なかなか見つからないようになっていた。そもそも、こんな退廃の土地に来るネズミなどいないだろう。ゴツゴツとした岩場に囲まれて、草はほとんど生えていない。あちこちから水蒸気が噴出している。

 「ここですか?キップ隊長」

 「あぁ、間違いない」

ジェニーは暗闇が続いている洞窟の入り口に立つと拾った木に火をつけた。木の周りだけがパァと明るくなる。僕とジェニーが、洞窟に入ろうとした瞬間、背後からチュウチュウというわめき声が聞こえた。振り向くと、そこにはどこかで見た顔が居た。

 「……クレイヴ・ドルマン…さん??」

僕が不思議そうに尋ねると、漆黒の毛色のネズミは笑った。ネズリンピックで商品をくれたネズミ──?

 「いかにも…」

 「…それで、警察のトップがこんな場所に何の用かな?」

キップ隊長は爪を光らせた。それを見たクレイヴさんは、涼やかに指を鳴らした。すると、何か巨大で重いものが歩くときの反動がし始めた。ズシン、ズシンと、何かが近づくたびにジェニーの剣がカタカタと揺れた。

 次の瞬間、岩場の影からどす黒い頭が現れた。黄色い目は、キョロッキョロと何かを探すように動いた後、僕らを見て一気に充血した。

 「…ディノシュレッダー…」

 「…そういうことか…」

ジェニーは剣を取り出すとディノシュレッダーに向けた。

 「ネズリンピック…どうも胡散臭い気がしたんだ…こいつの力試しだったのか…」

クレイヴさんはジェニーの言葉を聞くと悲しげな顔をした。

 「そうなんだよ…商品の中に、ここへのヒントがある本があったと気づいていれば──こんなことにはならなかったのに…」

クレイヴはディノシュレッダーに飛び乗ると、こちらへ向かってきた。


 「まずいっ…!ひとまず洞窟内へ入れ!」



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