5チーズ目:ネズリンピック
資料室からバブルフレッシャーに乗ろうと歩いていると、いきなりさきほどのネズミが飛び出してきた。そのネズミは、僕を見て満面の笑みを浮かべると、三階に響き渡る声でこう叫んだ。
「起きろーーー!!!ネズリンピックの開催だ!!!!!」
ネズミはまだ寝ていた仲間が飛び起きる音がしたのを確認すると、嬉しそうにまたバブルフレッシャーに乗って上に上がっていってしまった。
「…ネズリンピック?」
僕はとりあえず一階へ降りた。すると中央の巨大な掲示板にネズミ達が大勢集まっていた。歓声や興奮する声が聞こえてくる。僕が唖然としていると、たくさんのネズミの間からスティックがひねり出てきた。そして彼は僕の腕を強引に掴むと、ネズミ達の中へギュウギュウと押し込んだ。僕は弾き出るようにして、掲示板に一番近い最前列に出ていた。そして目の前の案内を読んでみた。
「5年の一度のネズリンピックがついに開催…」
さらに僕が最後まで読みきらないうちに、またスティックの腕がネズミの間を縫うようにして伸びてきた。また有無を言わさず引っ張られ、いろんなネズミにがつがつ当たりながらも、ようやく僕は集団から脱出した。
「痛いなぁ!何するんだよスティック──」
ひりひりする体を撫でながら、僕はにやついているスティックを睨んだ。
「ユウキ!俺とアランとお前でネズリンピックでるぞ!」
「はぁ!?」
スティックは問答無用とばかりに僕の話を遮ると、何やらポケットからチラシを出した。そこには『ネズリンピック優勝商品一覧』と書いてある。
「草のイスに草のお風呂…草の机??…良いものないじゃないか!」
スティックはチラシを見て僕が嫌そうな顔をすると、満足そうな笑みを浮かべて、ある一点を指指した。
「馬鹿。違う。今回狙うのはこれ、『ネズシティの歴史』っていう本だ」
「……」
僕はそろりと立ち上がるとスティックに背を向けた。
「僕、出ないからな」
力を入れる僕の肩に、スティックの手が優しく乗ったので、思わず振り向いた。するとそこには仁王立ちして不敵に笑っているスティックの姿があった。
「お前に、拒否権は、ない!」
「ハァ…ハァ…きつい…!」
「だな……うぐぐ…っ」
「何だ?これぐらい余裕だろ?」
新鮮な空気を欲しがる肺と、棒のようになった足と、どこまでも続くきつい坂道に、僕はその場で倒れこみたかった。横で汗だくになっているスティックの口からは、ヒュウヒュウという空気が出入りする音が聴こえる。茶色の土の上に、ポタポタと僕らの汗が落ちているのが見えた。
さらに坂を上る。ジリジリと照りつけるような暑さの中、ひたすら足を動かし続ける。全く汗をかいていなかったアランの額にも、うっすらと汗がにじみ始めた。
スティックは木陰を見つけると、目を輝かせて言った。
「アラン…そろそろ木陰入ろう…」
「そうだよ…」
「…ったく…お前ら本当に特殊部隊隊員かよ…」
それを聞いたスティックは木陰に転がり込んだ。僕は汗で体にひっついた服をパタパタとさせながら、どこかで耳覚えのある音がしているのを感じた。おもむろに木陰から顔を出す。すると、坂の上から一定のスピードで白ネズミのワゴンが降りてくるのが見えた。チュウチュウとわめきたてる鳴き声に、不規則的なムチの音。
スティックも顔を出してそれを確認した。
「なんだぁ?また新入りか?」
「さぁ…」
白ネズミのワゴンはやがて僕らの前に止まると、キップ隊長が顔を出した。
「ここで何をしているお前ら?」
スティックとアランは脱力していた体をキチンと整え、いつものように素早く敬礼した。
「ネズリンピックへ向けての、練習であります!」
「ほぅ……まぁいい。頑張ってくれよ」
僕は会話する隊長と二匹を差し置いて、隊長の隣に座っているネズミを見ようと覗き込んだ。すると僕は驚いた。なんとそのネズミの目は左と右で色が違った。左は薄い緑で、右は燃えるような赤色。さらに薄い水色の毛は、ゆるやかにェーブしている。あきらかに、かっこいいと言われる部類だ。
隊長が、僕が覗き込んでいるのに気が付くとそのネズミの紹介をし始めた。
「あぁ、こいつはジェニー・シェパードと言って、今日から特殊部隊に入る。部屋はお前らと同じ予定だから、よろしく頼むな」
「ハイ!」
スティックとアランは、敬礼した。やがて白ワゴンはカラカラという音を立てながらまた一定のスピードで去っていった。僕はその後姿を、ワゴンが見えなくなるまで見つめていた。
結局あの後、僕らは夜まで練習に明け暮れた。そして疲れの溜まった体をひきずりながら、居住区のバブルフレッシャーに乗りなんとか疲れを取る。部屋に戻ると、そこには銀の大きな剣を磨いているジェニーの姿があった。彼はそのオッドアイ(左右で色が違う目のこと)に僕らを映すと、自らの見の丈ほどもある銀の刃を納めた。
「シェニー・ショパードです、今日からこの部屋で生活させていただきます。今まで経験してきた部隊は…多いのでいいません」
スティックはずっこけるような仕草をするとジェニーに手を差し出した。
「よろしく。俺はスティック。こっちはアラン。んでそのちっこいのがユウキ」
スティックはジェニーと握手を交わすと、交流を深めるために食堂に行かないかと僕たちに言った。ジェニーはその申し出を渋々承諾すると、手馴れた感じでバブルフレッシャーに乗り食堂へ向かった。僕はバブルフレッシャーの中で、隣の凛としたネズミに聞いてみた。
「その…ジェニーさん?」
「ジェニーでいいさ」
隣の青い毛はゆるりと微笑んだ。
「君は、どうやってこの部隊に?」
「あぁ、俺は元々この国出身だよ。ただし、子供のときから親父に戦いの作法を叩きこまれた」
「所謂、エリートって奴だな」
横で聞いていたアランが付け足した。
スティックは、しばらく何かを考え込んでいたが、一階でバブルフレッシャーを降りるとようやく思い出したように指を立てた。
「そうだ!ジェニーも俺達と一緒にネズリンピックに出ようぜ!」
思わず、僕とアランはスティックのしっぽを踏みつけた。そしてアランはスティックの首に腕を巻きつけるようにして囁いた。
「スティック…?ネズリンピックは三ネズミ一組なのを知ってるのよなぁ…?ジェニーを入れたらどうなるかぐらい…お前のその小さな脳みそでも分かるはずだよなぁ…?!」
「だから……っあれ見ろって…!!」
スティックは苦しそうにまた人の集まっている掲示板を指差した。仕方がなく、僕とアランは茶色のネズミの指差した方向へ歩いていった。そこには小さな紙が貼ってあった。
「えーと…参加事項変更のお知らせ?後日行われるネズリンピックは2ネズミ一組に決定いたしました。…………」
僕とアランがゆっくり振り返ると、そこには怒りで体を振るわせるフティックと、何が起きたのかわかっていない様子のジェニーがいた。僕たちは、その場の沈黙に耐えられず、苦笑いしながら食堂へ入っていった。
食堂でたらふく夜ご飯を食べた後、僕たち4人(?)は部屋に戻り、朝食の残りであった黄色と白の野菜の根っこで、ペアを決めた。念入りに野菜をかきませるスティックとアラン。どうせ4本しかないのだから、あんまり関係ない気がするけど…。次の瞬間、スティックが勢いよく根っこを引っ張った。根の色は、白。続いてアランも引っ張る。白。
「つくづく…腐れ縁だよなぁ俺達って。アラン」
「…………スティック……か」
自動的に僕とジェニーということになる。ジェニーは僕を見ると、手をさしだした。僕は微笑んで、差し出された手を握った。
「よろしく!ジェニー」
「あぁ、こちらこそ」
僕たち二人はなんとなく相性がいいようだ。それを見たアランとスティックは、2人とも暗い顔をしてハンモックにもぐりこんでしまった。何か落ち込む度に頭まで葉っぱの布団をかけるのは、彼らの癖だろうか。その証拠に、ハンモックから垂れ下がった2本のしっぽが、不規則に揺れている。
「…俺も、寝るよ。おやすみユウキ」
「おやすみ」
ジェニーはそういって重そうな鎧をはずし、布の生地で出来た服だけになると、気品漂う仕草で、ハンモックが足りないと、急遽作られた柔らかそうな葉っぱの布団に横たわった。
僕も急いでハンモックに入る。この部隊に入って10日。今日また仲間が増えた。
そして、ネズリンピックまで10日。いや、この世界で言うと、プラス10Y…かな。
それから10日間、鬼のような練習はジェニーを含めて続いた。
日が昇ると、すぐに僕たちは居住区から出て、町のメインストリートを軽くジョギング。そしてボコボコとした裏道に入り、長い坂道を登る。そして上りきった所にある開けた場所で腹筋100回にスクワットのようなもの70回。うさぎとび100回。ect…
最初ジェニーは、「こんなことをしていて戦いや戦争、犯罪は起きたらどうするのか?」
と、聞いてきた。僕は、犯罪、と聞いて彼の質問に答えず、質問しかえした。
「犯罪って何?」
すると彼は驚いた顔をして、少し考えていった。
「そうか、話してなかったかな?俺は元・警察の直属部隊に所属していたんだ」
「警察!?」
それを聞いて、しばらく忘れていたヒルトンさんのことを思い出した。警察にも、直属の部隊があったんだ…ということは、この国には部隊が二つあるのか?
「そういうことだよ」
「え?」
心中で呟いたつもりが、どうやら口に出していたみたいだ。
「特殊部隊は、主に遠くまで遠征してくれる。どんなことでも引き受ける、万能屋って感じ、それに引き換え、我々は近くの町や村の治安を守る。犯罪者を取り締まる係りってとこかな?」
「なるほど…」
僕は頷いた。この国の仕組みが、だいぶ分かってきた。
そんなこんなで、あっというまに10日間は過ぎていった。
そして、遂にネズリンピック開催の日。ネズリンピックのスタート地点は、居住区のすぐ目の前にある広い道だった。色とりどりの風船と文字で飾られ、道の脇には観客が溢れかえった。歓声と、興奮の声が、町に充満する。5年に一度だもんな。
「すごい人のかず…」
「あぁ…俺もネズリンピックは初めてだ」
周りで準備運動をする参加者達は、余裕の顔つきだった。参加者はざっと500人ぐらいだろうか。二人一組だから…250組ってとこか。広い道は後ろの方までネズミ達で埋め尽くされている。僕とジェニーはお互い手錠を嵌められて、離れる事はできなくなった。
「それでは、皆さん準備はよいですか〜!?」
木の台の上で、大きな巻貝を口に当てているネズミが、大声で叫ぶと、観客の声がさらにヒートアップした。耳に突き刺さるような大歓声。
「……」
少し、緊張した。
次の瞬間、ブオーンという低い音と共に一斉に参加者達がスタートを切った。周りは経験者ばかりらしく、皆様子を探り合っている。僕は昨日スティックに言われた作戦を思い出していた。
『いいか…?ネズリンピックは耐久レースだ。それも参加者の半分は脱落するという半端じゃなく厳しいもんだ。だから最初はスローペースで行け』
「…ジェニー、スローペースで行こう」
「分かってる」
僕らはリズムよく地面を蹴りだしながら、白い大地を軽快に駆け抜けていった。 「どれくらいの距離なんだろうな?」
「さぁ……半分が脱落する訳だろ?そしたら、距離よりも過酷さじゃないかな?あ、ほら。早速何か見えてきた」
ジェニーが指差す方向。そこには一枚の看板が立っていた。道が二手に分かれている。前を走っていたスティックとアランは、右へ曲がっていった。急いで看板に近づいて、読む。
「貴方のなかで一番大事なものはどっち…?何だこれ!」
「…左の道:お金……右の道:友情」
僕とジェニーは顔を見合わせた。まさかネズリンピックがクイズ方式だったとは…しかし悩んでいる間にも他の参加者は続々と道を選んで走っていく。
「このままじゃ出遅れる!ジェニー!君はどっち?」
「…俺は左だ」
「…!!」
ジェニーは、少し苦そうな顔をしていたが、その目に迷いはなかった。僕。僕は…?
「──僕は右だ」
「…だろうな」
意外なジェニーの返答に、少し拍子が抜けた。もっと反論されるかと思っていたのに。
「いいさ、右へ行こう。スティックとアランも右だった」
「……いいのかい?」
急いで右へ行こうとするジェニーに、僕が伺うように問うと、彼は眉間を寄せて僕の肩を掴んだ。服がグシャ、と潰れる。
「人に聞くようなものじゃないだろう?自分の思ったとおりに行けばいいんだよ!」
「……うん」
ジェニーのオッドアイが光ったかと思うと、彼はすぐに肩を掴んでいた手を離した。
「すまない、ユウキ」
「いいんだ」
謝ってくる必要なんてないんだけどな。僕らはすぐさま『右の道』へ入った。
後ろの木の陰から、監視しているネズミがいるとは思わずに………
『さぁ…右に行った方の、最初の第一関門は……灼熱の熱砂に住むと言われる化け物ターチャー!』
「な…なんだここ」
「…まるで巨大なアリ地獄だな…」
僕らはどこまでも続く砂の大地に、ところどころ穴が開いているのに気付いた。急いで走る参加者が近くを通ると、いきなり何かの毛の生えた足によって捕らえられ、そのまま穴の中に、ひきずられていく。その後は悲鳴しか聴こえない。
「ひぃ…!」
「…なんだありゃ」
僕とジェニーはしばらく突っ立っていたが、その中でも毛足の攻撃をなんとかかいくぐって先へ進んでいく参加者も見えた。スティックはお尻を毛足で引っかかれながらも、アランとの協力でなんとか抜けたようだ。
「よし!僕らも行こうジェニー!」
「あぁ!」
いきり立って、猛スピードで白い熱砂を一直線に走っていく。今までは硬かった足場は思ったりも悪く、なかなか抜けない。そのままでいると沈んで行きそうなほどだ。しばらく走って、周りは毛足の住んでいると思われる巣穴が多くなってきた。まさにアリ地獄状態だ…
「く…なんだよ。もう!」
僕はまとわりつくように抜けない砂にいらだった。
「慌てるな…なるべくつま先だけで走れ。そうすれば抜ける」
「…ほんとうだ!すごいよジェニー!」
ジェニーは少し照れくさそうに笑った。すると、また足が抜けない。苛立って、足元をみると、毛の生えた黒い足の爪が巻きついていた。
「!!!!!」
「ターチャー!」
ジェニーは腰につけていた剣を抜き取り、毛足をぶったぎった。先っぽがなくなった毛足は、スルスルと穴の中に戻っていった。
「あぁ…なんだ、案外弱いじゃないか!」
「……いいや…」
僕が安心してジェニーに話しかけると、ジェニーの顔は引きつっていた。まてよ…このパターンはどこかで…!!晴れているはずなのに辺りに黒い影ができている。
僕はゆっくりと振り返った。
そこには、全身に黒い毛がびっしりと生えた、口の両側にはとがったカマのようなものがついている化け物がいた。口からは、白い涎が垂れている。…先ほどの手は、コイツのものか!
「ギギ…キィィ!」
「ぬわっ」
いきなり降ってきた頭を咄嗟によけようと飛ぶと、バチン!という音とともに腕がつった。そのままバランスを崩して、地面に落ちる。
「いきなり飛ぶなよユウキ!」
「ご。ごめん!」
そうだった。今僕とジェニーはお互い手錠で繋がれている。呼吸を合わせないと…
「キィ!キィィ!」
これでもか、というほどバクバク食いついてくるターチャー。避けきれずに、少し体をかじられた。足から血がツゥと垂れる。それを見て、ターチャーは興奮したように鳴いた。僕は痺れを切らした。こんな奴…ガルバンやモルラットに比べたら、なんでもないのに!
「さっきから…」
振り下ろしてきた頭に飛び乗る。ジェニーはもう引きずるような感じだ。砂まみれになり、ジェニーはあっぷあっぷしながら「いい加減にしろユウキ!」と叫んでいる。
僕はそれを聞かず、ターチャーの頭にかかと落としを食らわせた。僕のかかとが硬い皮膚が思いっきりのめり込む。
「キィキィキィキィと……」
ひるんだターチャーを見ると、そのままジェニーを引きずりながら、地面に飛び降り、今度はターチャーの頭部の横から二段飛び膝蹴りを入れる。風圧で切れたターチャーの皮膚から吹き出る液体が、僕の体に付着する。ぐらつくターチャー。意外にしぶとい。
「うるさいんだよ!!!」
最後に僕はターチャーの足を持って、コマのように思い切り振り回した。巨体が回るせいで、周りの熱砂が吹き荒れる。そうして僕は勢いのついたターチャの体をそのまま巣穴に投げ入れた。地面が摺れるような地響きが起き、巣穴を覗きこむと、ターチャーは目を回したのか気絶したみたいだ。そして、そのままズブズブと巣穴の砂に沈んでいった。
「……まったく!」
僕はパンパンと手を叩いて、ついた涎や砂を落とした。すると、ふと腕に違和感がないのを感じた。見ると、手錠が切れている。そしてジェニーがいない。
「あれ!?ジェニー??」
急いで辺りを見回すと、白い砂ぼこりの中で、何か動くものが見えた。それはムクリと起き上がると、ケホンと咳をして、体についた白い砂をパンパンと払った。
「ジェ…ジェニー…」
そう、白い砂の中から、彼の柔らかそうな青い毛が現れた。赤と緑のオッドアイが怒りに燃えて光っている。まさか、と思ったが、腰から剣を取り出すと、ジェニーは怒りに震える表情で呟いた。
「絶対…殺す!」
「うわぁぁ!」
僕はジェニーの剣から逃げるために、走りに走った。そりゃもう、ターチャーなんて目じゃないぐらいに。
『ターチャーの巣穴!参加者達はなかなか苦戦しています!現在確認した限りでは、リタイア5組。ターチャーにやられたと見れる参加者15組!そのほかはまだ未確認です!第一関門から熱い戦いが繰り広げられています!』
その頃、人気のなくなった町で─
「…─ただいま戻りました!」
男は舌打ちをしながら警察署に走りこんできたネズミを出迎えた。
「遅いじゃないか…!」
「…すいません。報告ですが、先ほど最後の235組目、右に入りました!これまでの統計は左が20組右が215組です脱落者は15組です!」
「りょーかい……つくづく甘い奴らが多いよなぁこの国は──面白いよ」
「……そうですね」
「そのまま監視を続けろ!左に行った奴らは全員、この大会が終わった後は警察部隊に入れるように手配するんだぞ…ボスの命令だ」
「了解」
敬礼をしてネズミが再び警察署から飛び出していくのを見届けると、休憩室で休んでいた灰色ネズミはカップにそっと液体を注いだ。コポコポ…という音と共に、カップの中が満杯になる。
「…………」
それを静かにすすると、ネズミは開け放たれた窓から見える青い空を見上げた。
「…第一関門、ターチャーの巣穴…脱落者30人…と。次は50人くらいかなぁ…」
ネズミは茶色の紙に…黒い棒で記録を書きとめた。
「優勝するのは誰か──楽しみだね…」
そういって、ネズミはまたカップに手を伸ばした。