2チーズ目:森の番人
「基本的な説明は同じ部屋のスティックとアランに聞いてくれ。それでは、明日は早いからな!早く寝ろよ」
「はい!」
僕の代わりに、ニコニコしながらキップを見送る2匹を見比べてみる。片方は身体は白いのに耳と鼻は黒い不思議な毛色をしたネズミ。もう片方は茶色のような、どちらかというとハムスターのような形をしたネズミ。
「おい新入り!」
「は?」
いきなり怒鳴るようにして話しかけてきたのは茶色毛のほうだった。僕は身体を全て覆えるほど大きな葉っぱの布団を見ながら、一応耳を傾ける。
「は、じゃないだろ!俺はスティック!一応この部屋の主任だ」
「っていっても3匹しかいないけど」
「…それを言うなって、アラン…」
スティックは自らの長いしっぽを持ってモジモジするような仕草をした後、振り返ってアランと呼ばれるぶちぶちのネズミとこしょこしょ話をし始めた。僕は葉っぱのハンモックを作ると、早速横たわった。透けている木の壁から見える広い空は、もうだいぶ暗くなっていた。どうやらこちらの世界では夕日というものがないらしい。
「……だろ?…分かったか?」
「でも……うん。…そうだな」
2匹はしばらく話し込んだ後、笑顔でこちらに向き直り、早く寝ようとばかりに僕のハンモックの中へもぐりこんできた。チクチクと当たる毛に嫌悪感を覚えながらも、ネズミに話しかけられること自体にはにほとんど違和感がなくなってきたので、そろそろ末期症状かと思いながら、じきに僕はしゃべりたてる2匹のネズミの声と共に、ウトウトと深い眠りに落ちていった。
ガタガタと身体を揺さぶられる感覚に、重い瞼を開けると、僕を覗き込むスティックの姿があった。
「早く起きろ!遅刻しちまうぞ!」
「えっ…」
思わず起き上がり、外を見ると、空はすっかり明るくなっていた。どうやらこの国には、早朝というものもないらしい。
「ほっとけよスティック!そんな奴にかまってたら…自分も遅刻してぶん殴られるぞ…!!」
カチャカチャと爪の当たる音をさせながらアランが黒いズボンのようなものを履いている。ハンモックから飛び降りて、はたと気づく。
「着替えがない!!」
僕が叫ぶと、スティックが大慌てで制服のようなものを持ってきた。それは昨日僕をここに連れてきたネズミ達が着ていた、黒い服にそっくりだった。いよいよ僕も部隊の一員らしい。
「そら、いそげっ」
床から盛り上がった木の細胞の上においてある、結われた葉っぱの皿に盛られたパンを摘んで、部屋を飛び出し、今度は下に噴出しているバブルフレッシャーに入る。
ブクブクと震える青い泡が身体にまとわりつき、鮮やかな緑の液体に乗って、急降下していく身体。バブルフレッシャーから見える景色は、まさに絶景で、下のほうには点々と町が見え、地平線の向こうに見える景色は、砂漠に見えた。バブルフレッシャーから軽やかに降りる。だいぶ感覚がつかめてきた。まだ疲労の残っていた身体はあっという間に軽くなり、急いで木から出ると、湖の横にある広場のような場所に、厳しい顔をしたキップ隊長と、数十匹の黒い制服を着たネズミ達が、並列していた。
「すみませんキップ隊長…!」
横で走っていたスティックとアランが、声を揃えて敬礼したので、僕もそれにあわせて一応敬礼する。
キップ隊長はため息をつくと、早く隊列に加われという風に手を動かした。
急いで列の一番後ろにつくと、キップ隊長は少し高い丘に立つと、ズボンから小さな葉っぱを取り出し淡々と読み上げ始めた。
「えー…今日の任務だが。非常にいいにくいのだが、白ネズミ…失礼、白い獣、の里に『モルラット』が現れたとの事…至急応援部隊を頼むとな…」
途端に部隊からはため息のような、哀愁漂う声が漏れた。ふと、僕は昨日の隊長の行動を思い出していた。
「なぁ」
「ん??」
僕は隣で悶々とした表情をしていたスティックに聞いてみる事にした。
「その…白い獣って、そんなに変な生き物なのか?」
「…う〜ん。実は俺にもよくわからないんだ。隊長が何故あんなに毛嫌いしてるのか…ただ」
「ただ?」
スティックが次の言葉を口に出そうとした瞬間、隣でキップ隊長ばかりを見上げていたアランがこちらを見据えていった。
「スティック、それ以上隊長を侮辱するような事を言うと絶交だからな!いくら親友だからといって──」
ぶちぶちの毛を逆立てながら、ギラギラとした目つきでアランはスティックのしっぽを掴むと、ブンブンと振り回した。スティックは高い声で一鳴きすると、アランのぶちの耳を掴んでこね回した。本気で喧嘩をし始めた2匹を見て、周りの兵隊達は迷惑そうにしていたが、やがてキップ隊長が黒い帽子を動かし、パチンと指を鳴らすと、次の瞬間、周りの黒い列は一斉に動き、何故か僕とスティックとアランが一番先頭になるような隊形に並んでいた。
「しまった…!」
「……今日が命日か…」
「??」
ズンズンと丘の上から降りてきたキップ隊長はこちらを見ると、珍しく微笑んで、黒い隊列は一斉に歩き始めた。
ゆるやかに流れていく町の景色を見ながら、僕は少し腫れてしまったしっぽの根元に息を吹きかけるスティックではなく、今度はアランに質問した。
「なんで、先頭になると命日なんだ?」
「??お前、そんな事もわかんないのか!?…まぁいいや。この隊列はな、化け物と戦うまでずーーーっとこの隊列で動く。だから化け物と出会って真っ先に戦わなくてはいけないのは、キップ隊長と俺らということになる。だから、もしかしたら今日が命日かもしれないってこと!」
「その通り、用心しろよ」
ふいに、先頭を歩いていたキップ隊長が鋭い目つきでこちらに振り向いた。途端にアランの目が輝き、スティックはビクリと身体を強張らせた。凛々しい黒い毛を揺らしながら、自らの鋭い爪を見つめると、隊長は視線を遠くへ向けた。
「例えば、あそこ。あそこには何が住んでいると思う?」
隊長が指差した先は、隊が進む道の横から広がる、白砂の大地の遥か遠くにある場所だった。砂嵐が吹き荒れていて、良く見えないが、何やらその地域だけ草原のようになっている。
アランはいきり立った。
「ハイ!あそこは『シャローナ草原』と言って、主な生息動物は草食性の『ムクリナ』しかいません!奴らは基本的に動きが鈍いです。とぼけたような顔をしています。しかし、たまにやってくる捕食動物の『ロイド』と『ガルバン』はとても凶暴です。特殊な我々といえど勝算は高くないでしょう…」
「よろしい。完璧だアラン!」
キップ隊長に拍手をされて、手を上げてよろこぶアランを尻目に、周りの風景は、何もない場所から徐々に道に生えている木の数が多くなり、やがて生い茂る森の入り口まで来た。
「…ココから先は危険地域です…一般の方は入らないで下さい…」
僕は入り口に立ててある木の看板の文字を読んだ。隣でスティックの喉がゴクンと鳴った。
森の地面ではいろんな木の太い根っこが入り混じり、我々は短い足でそれらをまたがなければならなかったし、時たま道を横切ろうとする馬の身体に鳥の細長い首がついたような生物が、キップ隊長の鼻を突付こうとするのを断固阻止しなければならなかった。さらに木から木へ飛び移る長い手足の、茶色い毛色をした生物は、同じ毛色のスティックを見て、仲間と勘違いしたらしく、彼は危うくその生物に拉致られそうにもなった。
「危険だ!実に危険すぎるぞ!この森──」
「うん…」
茶色の動物に、木の上から直に落とされたスティックは、腫れるしっぽと鼻を押さえ、泣きそうな声で泣きわめいた。
そんな様子を、隣でアランが冷ややかな目で眺めていた頃。キップ隊長が立ち止まり、地図のようなものとある一点を見比べながら、何か考え込んでいた。
「うーむ…」
「どうなさったんです?」
3匹で彼の見ている場所を見ると、そこは道が2本に分かれていた。道の分岐点には、『モルラットの巣』と『白ネズミの里』とかいてある看板が吊るしてあったが、肝心な事がかいてない。
どちらが、どちらの道なのか─…
「……右じゃないですか?」
「いや、左だろう」
「絶対右だ!!」
「いいや、左だね!!」
言い争うぶちと茶色のネズミを見ながら、キップ隊長はひらめいたような顔をした。
「ああそうだ!先に『モルラットの巣』に行けば、あの汚らしい白い獣に会わないで、居住区に戻れるではないか!そうだ、そうしよう!さぁ、モルラットを倒しに行くぞ!皆準備しろよ」
キップ隊長は指をペロリと舐めると、風下へ向けた。
「…よし、こっちだ」
キップ隊長は右の方へズンズンと進んでいく。隣で凍り付いているスティックに、僕は不思議に思った。だって特殊能力があるから特殊部隊に入れたんだろうし──『モルラット』って、そんなに強いのか?聞いてみるしかないな。
「キップ隊長、モルラットってそんな強いんですか?」
一番先頭を進む隊長の耳がピクリと動き、首だけ動かしこちらを向いた。僕より一歩下がって進んでいたアランが、思わず僕の肩を掴んだ。
「何を言ってるんだお前!『モルラット』は古くからこの森の番人として恐れられている動物だ!鋭く大きな爪は大木をもなぎ倒し、その硬い身体は何も通さない。全力で行っても倒せるか倒せないか、スティックだって、入隊した手の頃、『モルラット』に殺されかけたんだぞ!」
アランは表情が引きつっているスティックを指差した。そういうもんか、と僕は頷いた。何故スティックが是ほどまでに怯えているのか、ようやく分かった気がしたから。
「…ユウキ。そういうことだ、君が入隊して始めての戦いが『モルラット』とは、些か不憫に思うが。だが、私は特別扱いなどしない」
「わかってます」
僕は自らの爪を見た。標準サイズ。ヒルトンさんは、別空間から来た人には必ずなんらかの特殊能力があると言った。僕にもあるのだろうか、何か特殊能力が──…
「ギギギギギギ」
「!?」
突然地面がボコリと盛り上がった。僕は足元に感じる硬い何かを気にしながら、そのまま地面から数メーター上までもっていかれた。
「単独のモルラットだ!!全員戦闘体勢へ突入しろ!…ユウキ!お前はそのまま奴の身体にくっついていなさい!」
僕に命令をすると、キップ隊長は目を閉じて立ち止まった。後ろで控えていた黒い軍隊はそのままモルラットになだれ込んだ。噛み付いたり、爪を食い込ませたりするも、鱗のような硬い身体には全く効かず、モルラットは、その大きな爪でネズミ達を一匹一匹確実に踏み潰した。そのたびに彼らの悲鳴が自分の耳に届いた。
「くそ…!!」
僕は掴んでいたモルラットの頭の部分を握り固めた拳で、ぶん殴った。すると骨と骨が直にぶつかり合う衝撃が来て、モルラットは甲高い悲鳴を上げて一気に倒れこみそうになった。
「ユウキ!お前すんげぇ力してんだな!!」
下で土まみれになったスティックが、嬉しそうにこちらを見上げていた。僕は自らの拳を見つめた。いつの間にこんな力がついただろう。思い切ってモルラットから飛び降りる。地面に着地すると、自分でも何が起きたか分からないほどのスピードで、モルラットの正面へ回り込んでいた。
「ユウキ!何して──」
「うらぁぁ!」
思いっきり地面を蹴ると、身体はグンと加速して、僕はそのままモルラットの顔にハイキックを食らわせた。モロにそれを浴びたモルラットは、宙に舞い上がると、そのまま遠くの切り立った崖のような場所に叩きつけられ、倒れこんだ。
「…!ユウキ…!!」
「──やった!」
歓喜のあまり、拳を振り上げた瞬間、近くに居たスティックの顔が恐怖に歪んだ気がした。
「ギ…ギギギギギギ!」
しまった、と振り向いた時には、もう遅く。2匹目のモルラットのとがった角が、僕の背中を突いた。
「ケハッ……!」
ドサリと倒れこみ、霞んでいく視界の中で、頭上のモルラットが爪を振りかざした。
「……これが命日か…」
すると、何故か、目の前に居たモルラットが、いきなり吹き飛んだ。上から勢い良く黒いものが飛んできたと思ったら、黒い毛に凛々しい顔立ち。それは紛れもなくキップ隊長だった。彼の身体はかすかに光ったと思えば、爪、牙、身体、全てが巨大化、鋭利化し、いつもの青みがかった目は、まっ黄色に染まりギラギラと光っていた。さらに黒い身体は目にも止まらぬ速さで走っていくと、崖の近くで倒れこんでいたモルラットをその鋭利な爪で、楽しそうに笑いながら引き裂いた。そして僕を殺そうと執念で立ち上がろうとする、2匹目のモルラットを察知すると、黄色い目を見開いて唸った。そして自らの口を大きく開け、巨大化した牙でモルラットの喉物に噛み付くと、そのまま引きちぎった。
「た…隊長…?」
僕の意識は、そこで無くなった。
「…キ、ユウキ。おい、ユウキってば、起きろ」
「…う、ん…」
誰かの心配する声で目を覚ますと、そこは洞窟の中だった。ピチャン、ピチャンと、水滴が零れ落ちる音だけが響いていて、天井には氷柱のようなものが突き出している。外から光は入ってこず、焚き火の炎の周りだけ照らされて居た。隣には負傷した兵士が寝ている。どうやら僕を起こしたのはスティックらしい。身体を起こすと、背中にピシ、と痛みが走った。思わず顔をゆがめる。どこかから、スティックが葉っぱの器を持ってきた。
「ほれ、夜ご飯だ。今日は葉野菜のおかゆと小魚2匹に、小麦粉スープ」
「ありがとう…」
ほくほくと湯気の上がるおかゆを啜ると、身体の芯から身体があったまった。
「…隊長は?」
「あぁ、隊長は久しぶりに特殊能力を発動したから、疲れて眠ってるよ。特殊能力を発動したら、だいたい2、3日は身体を休ませないといけないんだ。…お前が気絶した後、隊長次々に現れたモルラットを一人で全部やっつけたんだぜ、特殊能力を発動した隊長は…驚くほど強いけど、やっぱりあの目は怖いよなぁ〜…」
「…うん」
確かに、あのときの隊長は、隊長ではないみたいだった。あれじゃあまるで、ただの殺戮を楽しむネズミだ。
「まぁいーや、ここはモルラットの巣の洞窟だけど、隊長が全匹倒したから安全なはずだよ。さぁ…もう外は夜だ。明日からに備えて寝よう──」
スティックはそう言って、僕に葉っぱの布団を渡すと、隣で爆睡しているアランのずれかけた布団を戻した。
「そう、だね」
僕は小魚とスープを一気にすすると、その夜は早々と床に就いた。
翌日。黒い隊列は朝から洞窟内を移動していた。洞窟内は妙に静かで、スティックが大あくびをする声が、一際大きく聴こえた。先頭を進むキップ隊長に、昨日ほどの張りはなく、いつも光沢のある艶やかな黒い毛は、しなしなとなびいていた。
「…静かすぎるな」
「……うん」
カツカツと、兵隊が履いている金属製の靴が擦れあう音が洞窟内に反響する。隣で眠そうなアランは目をこすりながら、スティックは気の抜けたような顔で、もう任務は終わったという雰囲気が、隊列を包み込んでいた。そろそろ外の空気の匂いがし始めた頃。突然、地面がガタガタと揺れ始めた。
「何だ…!?キップ隊長!これは一体…」
「…まさか、まだ残っていたのか──」
キップ隊長は苦々しい表情をした。そして地盤が割れる音がしたかと思うと、隊を囲むように巨大な5匹のモルラットが現れた。
「……どうする」
「逃げるが吉」
5匹のモルラットは、全方向からジリジリとよってきて、隊は縮んで震えているしかなかった。一匹だけでも大変なのに、さらに4匹追加されて、頼みの隊長はまだ体力が回復していない。
アランは洞窟の壁に貼りつくと、そのまま上っていこうと試みたが、あっけなくズルズルと落ちてきてしまった。スティックは焦ってばかりで、まともに目の照準が合っていない。
「こうなったら、僕が行くしか…」
「待て、やめなさいユウキ。君が行ってかなう相手ではない。昨日、身に染みて分かっているはずだろう?」
「だけど…!!」
すると一匹のモルラットが、不意にアランをしっぽを掴んだ。
「うわぁ!」
アランは悲鳴を上げるとそのままモルラットの領域へと引き込まれていった。モルラットはアランのしっぽを掴んだまま、彼の身体を何度も地盤に叩きつけた。
「やめろぉ!アラン!アラン…ッ」
スティックは、血走った目で叫んだ。僕はそのとき、自分の目がおかしくなったのかと思った。だって、スティックの身体が、昨日の隊長と同じような光を帯び始めていたからだ。
まさか、スティックも昨日の隊長みたいに…
モルラットは、気絶したアランの片腕を掴み、ブンブンと勢いをつけると、そのまま洞窟の壁にたたきつけた。
アランの額からはうっすらと血が流れ出し、そのまま洞窟の隅の方に倒れこんでしまった。
「───!!」
それを見たスティックの身体の光は、より強さを増した。キップ隊長が、彼を落ち着けようとした瞬間。洞窟内に、スティックの唸り声が響き渡った。隊のネズミ達は、あっけに取られている。
僕は、スティックの後姿を見ているだけで、今の彼の表情は見えない。しかし、背中から滲み出る怒りと、絶え間ない殺意だけは、ピシピシと伝わってきた。
「…スティック…?」
すると彼は、立っている地面に手を当て、地面を引っ張り始めた。すぐにメキメキと、岩が盛り上がったと思ったら、ボコンと大きな音がして、大きな岩がくりぬかれた。スティックはそれを頭上で持ち上げると、アランを気絶させたモルラットの方へぶん投げた。岩はモルラットに命中し、そのまま気絶してしまった。
「ひゃははははは」
奇妙な笑い声と共に、スティックは次々と岩を地面からくりぬいてモルラット達へ投げつけた。どんどん岩の山が出来、モルラット達はそれに埋もれていった。砂ぼこりが立ちこめ、モルラットの悲鳴と共に天井まで届きそうなくらいの高さの厚い岩の壁ができあがった。静まり返る洞窟内。
「とてつもない…破壊力と腕力…」
唖然として見ている隊員と僕とは正反対に、キップ隊長だけは冷静だった。
「…しかし、あれしきの攻撃でモルラットが死ぬわけがない」
その言葉と呼応するように、激しい音を立てて岩が粉々に砕け散ったかと思えば、鋭い触手のようなものが飛んできて、スティックの身体に巻きついた。
「ギギギギッギ!」
「離せ!この…!」
スティックはぎらついた目でもがいていたが、他のモルラットからも触手はドンドン伸びてきて、スティックは身動き一つ取れなくなった。
アランを気絶させ、スティックをも食い殺そうとするモルラットは、嘲るように鳴き声を上げた。
「助けないと…隊長!」
僕は駆け出そうとしたが、またも隊長の手によって止められた。
抗議をしようと、キップ隊長を睨んだ時、あるものが動くのが見えた。
「……離せ!この…クソが!」
スティックが、なんとか逃れようと腕に力を入れた瞬間、触手の締りが急に緩くなった。
「!?」
スティックが素早く地面に着地し、モルラットがわめいている方向を見ると、そこには太く尖った岩を、モルラットのお尻に突き刺している黒服の隊員の姿があった。
「…!!」
しかし、それを見て、スティックの身体の光が弱まったその時、別のモルラットの口が隊員の身体を丸呑みした。
モシャモシャと、口を動かす度に、こちらを見て嘲け笑うモルラットに、スティックの身体の光は最高潮に達した。
見ているのが眩しいくらいに、身体が光ったと思えば、洞窟全体が揺れ始めた。
「何が…どうなってるんだ──!?」
僕は地面から突き出た氷柱を必死で掴んだ。何もなしでは立っていられないほどの揺れ。隊員達もそれぞれ固まってキップ隊長を守っている。
地面の揺れがこれでもか、というほど激しくなったそのとき、モルラットの頭上の壁が丸ごと崩れ始めた。それどころか、洞窟全体が崩壊し始めている。スティックの方を見ても、光を放っているだけで、全く逃げようとしない。自分達の頭上からも、次々と岩が崩落してくる。
頭上を見上げたそのとき、ガン、という音と共に一際大きな岩が僕の上に落ちてきた。




