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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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"佳い娯楽は、素敵な明日のために"

掲載日:2026/10/16

小さく明るい音楽が流れて居るに関わらず、ステージは静寂そのものの様に思えた


紅い幕を背景にした舞台の上では、頭だけを出して箱に詰められた人間の男の子と、対峙する剣を持った演者が愉しくも緊迫した雰囲気を発して居る

先の展開が読めず、特有の緊張感が在った



「人間の子供だ」



「って事はあの子、刺されたら死ぬんじゃないのか」


他の観客の邪魔にならない様な小声で、隣席の君に耳打ちする

君は馬鹿にした様子で、「手品だろ」「そういう演出なんだよ」と返して来た


後方の辺りの席から、マナーの悪い客が「殺せーっ!」と叫ぶ

人間が嫌いなのかも知れないが、観劇の態度としては褒めれたもので無いと感じた

演者が声の側に仮面の顔を向け、自らの顔の前で、立てた人差し指をゆっくりと左右に振る


叫んで居た観客は激昂の余り、無意識に席から立ち上がってしまって居た様だったが、演者の仕草に何かを感じ取ったのか、恥ずかしげに自らの頭を片手で押さえると、気まずい笑みを浮かべて着席した


流れて居た音楽の雰囲気が変わる


途端

演者は剣の切っ先を、流麗な仕草で箱の中心に突き立てた




変声前の透き通った声が、苦悶の絶叫の形を取って館内に弾け飛ぶ


そして声に負けない程の壮大さで

さらさらとした血が舞台を、観客を、そして演者の全身を飛沫(しぶき)で濡らす


これは手品なのだろうか

だが、もうそんな事を気にして居る者は一人も居なかった

真実なのか虚構なのかさえ気になら無くなる程の興奮が、観客達の無言の中で爆発寸前まで膨れ上がり、次の瞬間には万雷の拍手になった


その拍手が終わらないままに演者はまた剣を構え、切っ先を箱に向ける

少年は唾液に塗れた顔で、飛び出しそうな程に眼を剥いてがくがくと震えて居たが、演者が剣を向けたのを視るや涙を溜めて、頭を力無く左右に振った

拒絶のジェスチャーだったが、固定されたこの姿勢に在っては最も意味の無い行動だった


大仰な姿勢で剣が構えられ、観客が身構えようとするよりも速く突き刺される

今度は二度、三度と血液が大きく飛び散って、大輪の華になる

遂に大きな歓声があちこちで起こり始め、拍手の音は更に大きくなった


如何な魔法に依ってかは解らないが、ショーは其れから三十分程続いた




「結局、愉しんで居たね」


真夜中の帰り道

僕がそう云うと、君は恥ずかしそうにしながら頷いた


最終的に君は『客上げ』までされて

いま家路に就いた其の手には、あの少年の魂を潰して作ったアクセサリーが握られて居る

夜になると晃(ひか)る、と云う事だったが、魂が死んでしまったのか微かにも晃る気配は無い

其れでも何となく、君がアクセサリーを大事にしそうな事は少し解った



「───種も仕掛けも無かったな」



「種も仕掛けも無かった」



まだ頭の中に、ショーの余韻が在る

其れでも君が「お腹空いたね」と云うと、僕は夕飯がまだである事を思い出した

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