"佳い娯楽は、素敵な明日のために"
小さく明るい音楽が流れて居るに関わらず、ステージは静寂そのものの様に思えた
紅い幕を背景にした舞台の上では、頭だけを出して箱に詰められた人間の男の子と、対峙する剣を持った演者が愉しくも緊迫した雰囲気を発して居る
先の展開が読めず、特有の緊張感が在った
「人間の子供だ」
「って事はあの子、刺されたら死ぬんじゃないのか」
他の観客の邪魔にならない様な小声で、隣席の君に耳打ちする
君は馬鹿にした様子で、「手品だろ」「そういう演出なんだよ」と返して来た
後方の辺りの席から、マナーの悪い客が「殺せーっ!」と叫ぶ
人間が嫌いなのかも知れないが、観劇の態度としては褒めれたもので無いと感じた
演者が声の側に仮面の顔を向け、自らの顔の前で、立てた人差し指をゆっくりと左右に振る
叫んで居た観客は激昂の余り、無意識に席から立ち上がってしまって居た様だったが、演者の仕草に何かを感じ取ったのか、恥ずかしげに自らの頭を片手で押さえると、気まずい笑みを浮かべて着席した
流れて居た音楽の雰囲気が変わる
途端
演者は剣の切っ先を、流麗な仕草で箱の中心に突き立てた
変声前の透き通った声が、苦悶の絶叫の形を取って館内に弾け飛ぶ
そして声に負けない程の壮大さで
さらさらとした血が舞台を、観客を、そして演者の全身を飛沫で濡らす
これは手品なのだろうか
だが、もうそんな事を気にして居る者は一人も居なかった
真実なのか虚構なのかさえ気になら無くなる程の興奮が、観客達の無言の中で爆発寸前まで膨れ上がり、次の瞬間には万雷の拍手になった
その拍手が終わらないままに演者はまた剣を構え、切っ先を箱に向ける
少年は唾液に塗れた顔で、飛び出しそうな程に眼を剥いてがくがくと震えて居たが、演者が剣を向けたのを視るや涙を溜めて、頭を力無く左右に振った
拒絶のジェスチャーだったが、固定されたこの姿勢に在っては最も意味の無い行動だった
大仰な姿勢で剣が構えられ、観客が身構えようとするよりも速く突き刺される
今度は二度、三度と血液が大きく飛び散って、大輪の華になる
遂に大きな歓声があちこちで起こり始め、拍手の音は更に大きくなった
如何な魔法に依ってかは解らないが、ショーは其れから三十分程続いた
「結局、愉しんで居たね」
真夜中の帰り道
僕がそう云うと、君は恥ずかしそうにしながら頷いた
最終的に君は『客上げ』までされて
いま家路に就いた其の手には、あの少年の魂を潰して作ったアクセサリーが握られて居る
夜になると晃る、と云う事だったが、魂が死んでしまったのか微かにも晃る気配は無い
其れでも何となく、君がアクセサリーを大事にしそうな事は少し解った
「───種も仕掛けも無かったな」
「種も仕掛けも無かった」
まだ頭の中に、ショーの余韻が在る
其れでも君が「お腹空いたね」と云うと、僕は夕飯がまだである事を思い出した




