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ZERO-DAY ONLINE ~チュートリアルを飛ばしたら不人気機体で世界最強になってました~  作者: 白い鴉


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64.逃げない、という選択

 瓦礫の中から立ち上がった機体を、俺はもう一度、じっくりとしっかり見つめ直した。全身のあちこちに、生々しい深い傷跡が刻まれている。それでも、まだ、立てないほどではなかった。装甲の隙間から、細く煙が立ち上っているのが見えた。


 恐怖は、まだはっきりと消えていない。それでも、その恐怖を、無理に消そうとするのはやめた。あの決勝の日と同じだった。恐怖と共に、なおも前へ進む。その感覚を、俺はもう一度、しっかりと掴み取っていた。手のひらに、じわりと汗が滲む。その汗すらも、今の自分にとっては、確かな実感の一つだった。


 あの時と、今回は、少し違う種類の恐怖だった。あの時は、相手そのものへの恐怖。今回は、自分の体が壊れることへの恐怖。それでも、根っこにあるものは、きっと同じだった。恐怖という感情そのものの正体は、案外、いつも同じ場所から湧き出ているのかもしれなかった。


 恐怖の種類が違っても、それに立ち向かう覚悟の作り方は、きっと同じなのだろう。あの日学んだことを、俺は今、確かに応用しようとしていた。


「痛いのは、もう、嫌というほどわかってる。それでも――」


 誰に言うでもなく、俺はただ静かに、そう呟いた。痛みに慣れる必要なんてない。ただ、痛みが来ることを、覚悟して受け止める。それだけでいい。そう自分に言い聞かせながら、俺は両腕を、確かに、しっかりと構え直した。


 痛みを恐れなくなったわけじゃない。それでも、痛みを理由に、目を逸らすことだけは、もうしたくなかった。目を逸らさないと決めた瞬間から、不思議と、視界が少しだけ、はっきりと見えるようになった気がした。ぼやけていた輪郭が、少しずつ、確かな形を取り戻していく。


 ミラーユニットが、こちらにはっきりと気づき、再び突撃の構えを取る。あの見慣れた型。それでも、今度は、恐怖に呑まれたまま立ち尽くすことはなかった。両足を踏ん張り、俺はしっかりと地面を捉え直した。


「来る、なら――」


 迫りくる拳を、俺は真正面から受け止めた。その瞬間、両手のレバーが、凄まじい勢いで激しく跳ね返る。骨まで響くようなその反動が、握りしめた両腕を駆け抜けた。それでも、悲鳴は上げなかった。ただ、歯をぐっと食いしばり、その場に踏みとどまり続けた。


 この痛みは、これから何度も、繰り返し訪れるだろう。それでも、一つ一つを、確かに受け止めていく。そう腹を括った瞬間、不思議と、体の震えが収まっていくのを感じた。


 痛みへの慣れ、ではなかった。痛みへの覚悟。恐怖を消し去るのではなく、恐怖を抱えたまま、それでも一歩を踏み出す。そのための、確かな腹の括り方だった。


 この違いに、自分自身、はっきりと気づけたことが、何より大きな収穫だった。慣れてしまえば、いつか鈍感になってしまう。それでも、覚悟なら、いつまでも、確かな緊張感と共にあり続けられる。


 振り返ってみれば、これまでの自分は、いつも何かに守られながら戦ってきたのかもしれない。今この瞬間だけは、それとは違う。何にも守られていない、生身に近い状態で、それでも前へ進もうとしている。その事実だけで、なんだか、確かな誇らしさすら感じられた。


「うおおおおおおお!」


 痛みを吐き出すように叫びながら、俺は渾身の拳を、ミラーユニットへと叩き込んだ。手応えが、確かに腕に伝わってくる。相手の巨体が、確かにわずかによろめいた。


 決して互角とは言えない。それでも、以前の一方的な展開とは、明らかに違う手応えだった。攻撃も、防御も、これまで以上に確かに自分の意志で選び取っている。その実感だけで、これまでとはまったく違う戦いになっていた。バグに頼っていた頃には、決して味わえなかった、確かな手触りだった。


【コメント】るか、立ち上がった!

【コメント】殴り合ってる、これ効いてるのか!?

【コメント】表情変わったな、覚悟決めた顔してる


 視聴者たちのコメント欄にも、これまでとは明らかに違う勢いが戻ってきていた。応援の声が、次々と流れ込んでくる。その一つ一つが、俺の背中を、確かにしっかりと支えてくれていた。


 それでも、一撃、また一撃と交わすたびに、レバーを握る両腕に、確かな痛みが蓄積されていく。決定打には、まだ程遠かった。腕を振るうたびに、全身から力が抜けていくような、そんな重い疲労感も、はっきりと感じ始めていた。息も、次第に荒くなっていく。


 視界の端に、ふと、コメント欄の勢いが変わったのが見えた。


【コメント】鳩、鳩、レンさんも自分のミラーと一騎打ちするって別配信で言ってたぞ

【コメント】皇帝牙さんも同じく、単独で自分のミラー相手にするって話だ

【コメント】三人とも、それぞれ自分自身と向き合う流れなんだな


 その情報に、俺は、思わず息を呑んだ。あの二人も、それぞれ、自分自身のミラーと、正面から向き合うことを選んでいる。


 それを知った瞬間、なんだか、憑き物が落ちたような感覚があった。コアを守らなければ。そんな、殊勝な考えに、いつの間にか、囚われていた自分がいた。それでも、思えば、自分には、そもそもその「守り方」自体、まともに馴染みがなかった。


 これまで、拠点防衛を最初から最後まで、きちんと戦い抜いた経験なんて、一度もなかった。いつも、徒歩でのろのろと向かっているうちに、気づけば決着間際、クライマックスの瞬間にしか居合わせたことがない。防衛戦の作法とか、定石とか、そういうものを、俺はそもそも、ちゃんと知らなかった。


 だったら、今更、柄にもなく「コアを守らなきゃ」なんて、余計な雑念を抱える必要もない。あの二人も、それぞれの戦いに専念すると決めたのなら、自分も、同じでいいはずだった。ただ、目の前の、これだけは負けられない相手に、思いつくまま、全力でぶつかればいい。それだけでよかった。


 そう腹を括った瞬間、不思議と、肩の力が抜けていくのを感じた。


「ここだけは……絶対に、負けられない」


 もう一度、自分自身の言葉を、心の中で強く繰り返す。あの時、皆さんに任せると決めた。それなら、自分は、この目の前の戦いに、最後まで責任を持たなければならなかった。


 これは、誰かに代わってもらえる戦いじゃない。他の誰でもない、自分自身のミラーユニット。だからこそ、自分自身の手で、決着をつけなければならなかった。


 視聴者たちの声援も、絶えることなく届き続けていた。その一つ一つの言葉が、俺の中の恐怖を、少しずつ押し返してくれているような気がした。


 逃げるという選択肢は、最初から俺の中になかった。逃げてしまえば、あの時、皆さんに預けた言葉が、嘘になってしまう。それだけは、絶対にしたくなかった。


 誰かを打ち倒すための強さじゃない。それでも、この戦いを、最後まで自分自身でやり遂げるための強さ。その違いに気づいた瞬間、不思議と、自分の中に、新しい軸が一本、確かにしっかりと通った気がした。


 これまでの戦いは、いつも、目の前の敵を倒すことが目的だった。それが今、初めて、「自分で決めたことを、最後まで貫く」という、まったく違う種類の目的を、俺は自分の中に見出していた。


 両腕を目一杯大きく構え直し、俺はその場に、確かに踏みとどまり続けた。逃げも隠れもしない。この一戦から、目を逸らすつもりは、最初からなかった。


 誰にも選ばれなかった、この不人気な機体。それでも、この規格外の巨体があったからこそ、今、確かにこの一戦を、正面から受け止め続けられている。皮肉にも、あの日の適当な選択が、こんな形で活きてくるとは、思ってもみなかった。


 「なんとなくこれでいいや」で選んだはずの機体が、今、自分自身との戦いを支える、確かな武器になっている。この巡り合わせに、俺は思わず、小さく笑ってしまいそうになった。


 海洋マップがなく、ずっと日の目を見なかった機体だった。それでも、この巨体だからこそ、今、こうして最後まで踏みとどまれている。何が幸いするかなんて、本当にわからないものだと、俺は改めて、しみじみと実感させられた。


 ミラーユニットの猛攻が、絶え間なく続く。殴られるたびに、レバー越しに鋭い痛みが両腕を貫く。それでも、俺は、決して退かなかった。両足を大地に食い込ませるようにして、俺はその場に踏みとどまり続けた。


 何度、殴られただろう。もう、正確な数はわからなくなっていた。それでも、まだ、意識ははっきりしている。まだ、立っていられる。その事実だけを、俺は必死に支えにしていた。


 視界の端に、機体の損傷状況を示すインジケーターが、じわじわと危険域へ近づいているのが見えた。それでも、今はまだ、目を逸らすわけにはいかなかった。限界という言葉を、俺はまだ、自分に許すつもりはなかった。


 コックピット内に響く、自分自身の荒い呼吸音だけが、やけに大きく聞こえていた。それでも、その呼吸の一つ一つが、まだ自分が戦い続けられていることの、確かな証だった。あの過呼吸に苦しんだ瞬間から、今の自分は、確かに一歩、前へ進んでいた。


「これくらいの絶望的な劣勢なら、きっと……支援が来るはず」


 震える声で、俺はそう呟いた。これまで、幾度となく助けられてきた、あの戦術支援システムのことを思い出す。これほどの異常事態なら、運営がきっと、何か手を打ってくれるはずだった。


 この期待は、決して他力本願なんかじゃない。これまで積み重ねてきた、運営やチームメイトたちとの、確かな信頼関係があってこそ、生まれる期待だった。


 その時、視界の端に、通知が表示された。


『拠点砲撃支援を発令します』


 次の瞬間、遠く離れた整備拠点の方角から、腹に響くような鈍い砲撃音が響いた。空を切り裂くような音と共に、飛来した砲弾が、ミラーユニットの側面を捉える。


「あ……!」


 小さな、それでいて確かな援護だった。ミラーユニットの動きが、わずかに乱れる。この一瞬の隙を、俺は見逃さなかった。誰かが、遠く離れた場所から、確かに手を差し伸べてくれている。その事実だけで、胸の奥が、じんわりと熱くなった。名前も知らない、誰かの働きが、確かに今、自分を支えてくれていた。


「今の、このうちに……!」


 体勢を崩した相手へ、俺はもう一撃を叩き込んだ。手応えは、これまでで一番大きかった。それでも、決定打には、まだ届かない。相手の巨体は、それでも、なんとか踏みとどまっている様子だった。想像以上の頑丈さに、俺は思わず、内心で舌を巻いていた。


【コメント】拠点砲撃キタ!

【コメント】これで流れ変わるか!?

【コメント】いや、まだこれだけじゃ足りない気がする


 視聴者たちの言う通りだった。この程度の援護だけでは、まだ、状況を完全に覆すには足りない。それでも、俺は、確かで温かい希望を感じていた。運営が、この状況を見過ごしていないという事実だけで、十分だった。


 一人じゃない。そのことを、身をもって実感できたことが、何よりも大きな支えになっていた。これまで、ずっとソロで戦い続けてきたはずなのに、今この瞬間だけは、確かに、多くの人と繋がっているような感覚があった。


「もう少し……あと、もう少しだけ……」


 痛みにひたすら耐えながら、俺はその場に立ち続けた。何度倒されそうになっても、決して一歩も退かなかった。膝が折れそうになるたびに、俺は歯を食いしばり、なんとか懸命にその場に踏みとどまり続けた。視界が霞むほどの重い疲労の中でも、その一点だけは、決して譲らなかった。


 どれほどの時間が経過したのか、正直、俺にもよくわからなかった。体感では、まるで永遠にも近いほど長く感じられた。時間の感覚すら、既に曖昧になり始めていた。


【コメント】るか、まだ頑張ってる……

【コメント】もう十分すごいよ、本当に

【コメント】諦めるなよ、絶対


 視聴者たちの声援が、途切れることなく届き続けていた。この重圧のすべてを、たった一人で受け止め続けるのは、正直、限界に近かった。それでも、この声援の一つ一つが、確かに、俺を、まだ立ち続けさせてくれていた。


 これは、自分で決めた戦いだった。だからこそ、最後まで、自分自身の足で立ち続けなければならなかった。誰かに肩代わりしてもらうことも、途中で投げ出すことも、俺には、もう選べなかった。


 一人だった。それでも、不思議と、孤独だとは感じなかった。画面の向こうで見守ってくれている、たくさんの人たちの存在が、確かに、この孤独な戦いを、静かに支え続けてくれていた。






【プレイヤーサポート視点】


 平穏だったはずのフロアに、けたたましい警告音が響き渡った。


「敵運用チームから、たった今、緊急の支援要請が来ています!」


 オペレーターの声に、フロア全体が、一気にざわりと色めき立った。それまでの落ち着いた空気が、一瞬にして緊迫したものへと変わっていく。


「あの決勝の三人分のミラーが、同時に生成された件は、もう共有済みだ。それより、ミラーの方はちゃんとしっかりナーフ調整してあるんだろうな?」


 これだけの異例事態なら、当然、何かしらのバランス調整は入っているはず。私は、そう軽く高を括りながら、詳細データに目を通した。


「それが……ステータス、一切調整入っていません。まったくの完全に等倍のまま出ています」


「は……? マジかよ……!」


 思わず、声が裏返った。まさか、そのままの強さで放り込まれているとは、想像もしていなかった。てっきり、こちらが知らないところで、きちんと調整済みだと思い込んでいた。


「向こうのチームが、なんでもボーナス欲しさに、甘いマッチング調整を敢行したみたいです。ナーフの実装作業自体も、間に合わなかったようで」


 部下の報告に、私は思わず、頭を抱えた。


「あいつら、また現場に全部丸投げする気か……! こっちは限られたリソースで、この状況を何とかしないといけないのに!」


 文句の一つや二つ言いたくなるのを、私はなんとか堪えた。こうした部署間の摩擦は、今回に限った話ではなかった。開発側とサポート側では、どうしても優先順位の置き方が違ってくる。それでも、今は、愚痴を言っている暇はなかった。


 結局のところ、しわ寄せを受け止めるのは、いつもこちら側の仕事だった。それでも、今、目の前で戦っているプレイヤーたちを見捨てるという選択肢だけは、私たちの中に、最初から存在していなかった。誰かのミスの後始末であっても、目の前の人たちを守ることに、変わりはなかった。


 フロア中に、慌ただしく緊迫した空気が広がっていく。誰もが、それぞれの持ち場で、必死に情報を集め、対応を練り始めていた。


「同時弾着射撃支援を、なんとかあのエリアに集中させられないか」


 正直、無理を承知の上で、それでも藁にもすがる思いで、私はそう提案してみた。


「それは難しいです。今、全方位で複数の防衛戦が同時進行しています。あれだけの大規模支援リソースを、一箇所に集中させると、他のエリア全体のバランスが崩れます」


 部下の声にも、苦渋の色が滲んでいた。


 部下のその指摘は、もっともだった。同時弾着射撃支援は、確かに強力だが、その分、消費するリソースも桁違いに大きい。安易に一箇所へ注ぎ込めば、他の戦線が、たちまち手薄になってしまう。他のエリアで戦っているプレイヤーたちのことも、同じように守らなければならなかった。画面には、他の防衛戦の状況も、リアルタイムで表示され続けている。どのエリアも、決して余裕のある状況ではなかった。


「支援リソースの回復まで、あとどれくらいだ」


「このペースだと、まだしばらくかかりそうです」


 画面の隅には、支援リソースの残量を示すゲージが、じわじわと少しずつ自動で回復していく様子が表示されていた。バランス維持のために設けられた、この上限そのものは、こちらの都合でどうこうできるものではなかった。


「くそ、あっちの調整ミスの尻拭いを、こっちがさせられてるとはな……」


 思わず、愚痴が漏れる。それでも、今できることを、探し出さなければならなかった。限られた選択肢の中で、最善の一手を、見つけ出す必要があった。


 本来であれば、ここまでの規模の混乱には至らなかったはずだった。あの調整不備さえなければ、三体ものミラーユニットが、同時に生成されることも、なかったのだろう。それでも、今更、原因を突き詰めたところで、目の前の状況が好転するわけではなかった。今は、ただ、目の前の一つ一つの判断に、全力を注ぎ込むしかなかった。


「回復を待つ間は、今ある分でなんとか持たせるしかない。とりあえず、通常の拠点砲撃支援だけは、影響を受けている全エリアに、すぐさま一律で発令しておけ」


 限られたリソースを、なんとかやりくりする。まるで、資金繰りに日々追われる経営者のような気分だった。


 周囲のモニターに目をやると、他の担当者たちも、それぞれの持ち場で、同じように厳しい判断を迫られているのが見て取れた。誰もが、限られた手札の中で、最善の一手を探し続けている。この状況を乗り越えられるかどうかは、一人一人の細やかな判断の積み重ねにかかっていた。


 こうした緊急事態の対応こそが、この仕事の醍醐味なのかもしれない。プレッシャーは確かに大きい。それでも、こうして誰かの力になれているという実感だけは、何物にも代えがたいものだった。


 完璧な対応にはほど遠い。それでも、せめてもの応急処置として、私はそう指示を出した。


「承知しました。それと、大規模支援については……」


「もう少し、状況を慎重に見極める。安易に大盤振る舞いして、他のエリアを危険に晒すわけにはいかない」


 自分の判断が、正しいのかどうか、正直まだ確信は持てなかった。それでも、限られたリソースの中で、最善を尽くすしかなかった。


「あちらの状況は、今、どうなっていますか」


 部下の問いに、私はもう一度、モニターに目を向けた。小さな援護だけを頼りに、それでも、その場に立ち続ける、あの黄色い機体の姿が映っている。何度も殴られながらも、その巨体は、決して後ろに下がろうとはしなかった。


「まだ、なんとか持ちこたえているようだな」


 その粘り強さに、私は思わず、感嘆の息を漏らした。あれほどの絶望的な状況からよくぞここまで立て直したものだと、素直に感心せずにはいられなかった。


 画面の隅のゲージを、私はちらちらと確認しては、心の中で急かし続けていた。早く貯まれ、早く貯まれ。祈るような気持ちで、その回復速度を見守る。


 ゲージの回復速度自体は、いつもと変わらないはずだった。それでも、こんなに待ち遠しく感じるのは、これまでの人生で、初めてのことだった。


「大規模支援の準備は、引き続きしっかり進めておけ。ゲージが満タンになり次第、状況次第では、いつでも発令できるように」


 あの子だけでなく、周りで戦うプレイヤーたちの奮闘も、モニター越しに伝わってきていた。それぞれが、それぞれの持ち場で、精一杯の力を尽くしている。その姿を見ていると、こちらとしても、できる限りの後押しをしてやりたいという気持ちが、自然と湧き上がってきた。


「了解しました、すぐに」


 部下が、慌ただしく作業に戻っていく。私も、もう一度、モニターに映る戦況を見つめ直した。刻一刻と変化していく状況を、片時も見逃すわけにはいかなかった。この判断が正しかったのかどうか、その答え合わせは、まだこれからだった。


 敵運用チームの判断には、正直、言いたいことが山ほどあった。それでも、今、目の前で戦っているプレイヤーたちのためにできることを、私たちは、精一杯やり遂げるしかなかった。愚痴を言う時間があるなら、その分、少しでも良い対応を考える方が、よほど建設的だった。


 この件については、後日、必ず正式に抗議文を送ることになるだろう。それでも、今この瞬間だけは、目の前の戦況に、すべての神経を集中させるべきだった。


 窓の外に広がる夜景を、私はふと見上げた。この街のどこかで、今もまだ、あの子たちが、必死に戦い続けている。その事実を思うと、こうして画面の前で采配を振るう自分の判断一つ一つにも、確かな重みが宿っているような気がした。

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