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ZERO-DAY ONLINE ~チュートリアルを飛ばしたら不人気機体で世界最強になってました~  作者: 白い鴉


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51.並び立つ――準決勝・前編

「みなさん、おはようございます。今日はいよいよ、レンさんと皇帝牙(エンペラーファング)さんの準決勝です」


 配信を開始すると、コメント欄には、これまでにないほど大きな熱気が溢れていた。


【コメント】ついにこの日が来たか

【コメント】レンvs皇帝牙(エンペラーファング)、夢の対戦だな

【コメント】高速剣術と広範囲弾幕、どっちが勝つんだろう


「なんか、私までとても緊張してきました……」


 両者の入場を待ちながら、俺は正直な気持ちを口にした。軽口を返しながらも、内心では、これまでにないほどの高揚感が込み上げていた。技術を極め尽くした剣士と、世界の頂点に立つ実力者。この二人の激突を、俺は誰よりも心待ちにしていた。


 あの完敗から必死に鍛錬を積み重ねてきたレンさんの姿と、寡黙ながらも底知れない実力をその内に秘めた皇帝牙(エンペラーファング)さん。この二人がこれから見せてくれる戦いに、俺はどうしても、期待せずにはいられなかった。


 もし決勝で対峙するかもしれない相手の実力を、この目でしっかりと見届けておきたい。そんな気持ちも、正直あった。技術も、精神力も、その両方を、余すことなくしっかりと目に焼き付けておきたかった。


 大会中継の画面をそっと開くと、既に両者の入場シーンが始まっていた。レンさんの機体が、迷彩のシルエットを揺らしながら、静かに戦場へと降り立つ。その対面には、皇帝牙(エンペラーファング)さんの機体が、圧倒的な存在感を放ちながら佇んでいた。


 会場を埋め尽くす無数の観客たちの歓声も、これまでの試合とは明らかに違う熱量を帯びていた。世界中が注目する、この大会屈指のカードだけあって、当然と言えば当然のことだった。これまで数々の対戦を見てきたが、これほどまでの緊張感が伝わってくる一戦は、初めてかもしれない。両者の積み重ねてきたものの重みが、画面越しにもひしひしと感じられた。


 中継カメラが、両者の機体を交互に映し出していく。迷彩を纏った鋭い刀身と、蜻蛉の翅にも似た巨大なブレード。造形からしてまるで違う二つの機体が、これから同じ舞台で相まみえることになる。その光景を想像するだけで、俺の胸は自然と高鳴っていった。


 観客席の様子を映すカメラも、次々と忙しなく切り替わっていく。世界中から集まった観客たちの、期待に満ちた表情。この一戦が持つ意味の大きさを、俺は改めて実感させられた。


 誰もが、この一瞬の瞬間を、決して見逃すまいとしている。その熱量が、画面を通してでも、はっきりと、確かに伝わってきた。この歴史的な一戦を見届けられていること自体が、なんとも贅沢な体験のように思えた。


「両方とも、すごい気迫ですね……」


 画面越しにも伝わってくる、両者の張り詰めた空気に、俺は思わず息を呑んだ。実況の声が、興奮気味に会場の熱気を伝えてくる。「両者、既に臨戦態勢に入っています。この一戦、まさに大会屈指の好カードと言えるでしょう」という一言に、視聴者たちのコメントも、一斉に沸き立った。


 対戦開始のカウントダウンが、静かに響き渡った。


「三――二――一――」


 開始の合図と同時に、両者はしばらくの間、互いに動かなかった。じりじりと間合いを測り合う、静かな緊張感が漂う。


 会場全体が、まるで息を潜めるように静まり返っていた。あれだけ盛り上がっていた歓声が、今は嘘のように鳴りを潜めている。誰もが、この静寂の先に訪れる何かを、ただ固唾を呑んで見守っていた。


 中継カメラがゆっくりとズームインし、両者の機体を大きく画面いっぱいに映し出す。この静寂こそが、これから始まる激闘の序章なのだと、誰もが本能的に理解しているようだった。


 俺自身も、いつの間にか、拳を強く握りしめていた。画面越しに伝わってくる緊張感に、思わず身が引き締まる。


 先に動いたのは、レンさんの方だった。


 低い姿勢のまま、地を這うように鋭く踏み込む。それは、これまでの試合で何度も見てきた、あの疾走の前触れだった。膝を深く沈め、剣の柄に添えた手には、これまで一度も見たことのないほどの力が込められている。それでも、皇帝牙(エンペラーファング)さんは、動じる様子もなく、その場に留まり続けていた。


「まだ動かないんですか……?」


 思わず声が漏れる。並のプレイヤーであれば、既に反応して回避行動に入っているはずの間合いだった。それでも、皇帝牙(エンペラーファング)さんは、まるで見切っているかのように、微動だにしない。


 その静かな佇まいには、恐れも焦りも、一切感じられなかった。むしろ、この状況を、静かに楽しんでいるようにすら見えた。


 刹那、レンさんの機体が、一瞬にして低く滑らかなシルエットへと姿を変えた。ビークルモードへの変形と同時に、地を這うような速度で間合いを詰めていく。地面を蹴る音すら聞き取れないほどの速さで、間合いがゼロになる。視聴者たちのコメント欄にも、驚きの声が一斉に溢れ返った。


「うわ、変形した!? 移動にも使うのか……!」


【コメント】戦闘中に変形とか反応速度どうなってんの

【コメント】プロはこうやって使うのか

【コメント】移動と戦闘をシームレスに繋げてる


 着弾寸前、レンさんの機体が、再び瞬時に人型フレームへと切り替わる。変形直後の勢いをそのまま乗せた斬撃が、鋭く一閃した。剣が一閃した瞬間、皇帝牙(エンペラーファング)さんの機体が、最小限の動きだけで、その斬撃をかわした。紙一重の回避だった。


 信じられないものを見たように、俺は思わず声を上げた。


「今の、避けた……!」


【コメント】反応速度おかしいだろ

【コメント】さすが世界一位って感じだな

【コメント】でもレンさんも一切怯んでない、すごい


 視聴者たちの興奮したコメントに、俺もすっかり画面から目が離せなくなっていた。あれだけの速度の斬撃を、最小限の動きだけで見切る。その洗練された動きに、俺は素直に見惚れてしまった。技術というよりも、長年の経験に裏打ちされた、確かな読みの深さが、そこには感じられた。


 相手の動き出しを瞬時に予測し、最短距離で回避する。無駄な力みが一切ない、その洗練された身のこなしを見ているだけで、これまでどれほどの実戦をくぐり抜けてきたのか、容易に想像がついた。


 世界ランキング一位という肩書きは、決して伊達ではない。その事実を、俺は改めて、はっきりと、そして骨身に染みるほど思い知らされていた。


 それでも、レンさんの攻勢は止まらなかった。回避された勢いのまま、体を捻り、二の太刀を繰り出す。斜め下から掬い上げるような一撃が、皇帝牙(エンペラーファング)さんの機体の脇腹を掠めた。装甲の表面が、鋭く火花を散らす。


「当たった……いや、掠っただけか」


 完全にヒットしたわけではない。それでも、これまでの試合で、皇帝牙(エンペラーファング)さんに一撃でも触れたプレイヤーは、決して多くなかったはずだった。それだけでも、十分すぎるほどの成果だった。


【コメント】掠っただけでもすごいことだよな

【コメント】これまで誰も傷一つつけられなかったのに

【コメント】レンさん、本当に強くなったんだな


 三の太刀、四の太刀と、レンさんの剣が、まったく休む間もなく続けざまに繰り出されていく。右から、左から、そして下段から。速さを最大限に活かした、息もつかせぬ連撃だった。剣先の軌跡が、幾重にも重なる残像となって、視界に焼き付いていく。それでも、皇帝牙(エンペラーファング)さんは、その一つ一つを、最小限の動きだけで、驚くほど正確に見切り続けていた。まるで、次の一手をすべて見通しているかのような、静かな余裕があった。


 削られるように後退しながらも、皇帝牙(エンペラーファング)さんの機体には、焦りの色がまったく見えなかった。半歩、また半歩と、最小限の動きだけで攻撃線を外し続ける。まるで、この状況すらも織り込み済みであるかのような、静かな落ち着きがあった。


 落ち着いていたはずの実況の声にも、隠しきれない驚きの色が滲んでいた。「これほどの猛攻を受けてなお、この冷静さ。世界ランキング一位の実力、さすがとしか言いようがありません」という一言に、俺も心の底から同意していた。


 視聴者たちのコメント欄にも、驚きの声が次々と、絶え間なく次々に流れ込んでくる。それでも、その驚きの中には、確かにレンさんへの称賛も、しっかりと混じっていた。


【コメント】皇帝牙(エンペラーファング)さん相手にここまでやるとは

【コメント】レンさん、本当にすごいよ

【コメント】この試合、後世まで語り継がれそうだな


 攻めあぐねたレンさんが、一度大きく後方へと距離を取る。肩を上下させながら、荒くなった呼吸を整えている様子が、画面越しにもはっきりと見て取れた。それでも、その瞳の奥に宿る光は、まったく衰えていなかった。次の一手を探る、鋭い眼差しだった。


「これは……様子見、ってやつですかね」


 実況の声も、緊張感を帯びていた。「両者、次の展開を慎重に見極めている様子です。この静寂こそが、次の大きな動きの前触れなのかもしれません」という一言に、俺は思わず息を呑んだ。会場の空気も、それに呼応するように、さらに張り詰めていった。


 両者の間に流れる、張り詰めた静寂。それを破ったのは、皇帝牙(エンペラーファング)さんの方だった。


 背面ユニットが、静かに展開していく。ぎちり、ぎちりと機械的な駆動音を響かせながら、後方に大きく反り返った、蜻蛉の翅のようなブレードが、鈍い光を反射しながら開いていく。これまでの防衛戦でも見たことのない、本気の構えだった。あの日の短い接触の際に感じた、静かな圧力を思い出す。あの時とは比べ物にならないほどの、圧倒的な威圧感が、画面越しにも伝わってきた。


【コメント】あれって、皇帝牙(エンペラーファング)さんの必殺技じゃないか?

【コメント】制圧咆哮だ!

【コメント】あんな技、初めて見た!


 無数の砲門が、一斉にレンさんへと照準を合わせた。展開しきったブレードの隙間から覗く砲門の数は、優に二十を超えている。反撃とばかりに繰り出された、圧倒的な火力の奔流。無数の砲撃が、まるで一つの咆哮のように放たれ、戦場全体を薙ぎ払っていく。


 砲撃と同時に、皇帝牙(エンペラーファング)さんの機体が、一瞬にしてヘリコプター形態へと切り替わった。撃ちながら後方へ距離を取る、いわゆる引き打ちの構えだった。人型のままでは決して両立できない、射撃と後退の同時遂行。距離を保ったまま、圧倒的な弾幕だけを一方的に押し付けてくる、隙のない戦法だった。


「うわ、撃ちながら下がってる……! あれ絶対近づかせる気ないやつだ」


【コメント】引き打ちってやつか

【コメント】人型じゃできない芸当だもんな

【コメント】距離を取られたらレンさん詰まるぞ


 轟音と共に、戦場の地形そのものが抉れていく。あれほどの範囲を一瞬で制圧する火力を、俺はこれまで見たことがなかった。これまで対峙してきたどんな敵とも、比較にならない規模だった。もしあの弾幕を真正面から浴びることになったら、一体どうなってしまうのか、想像するだけで背筋が寒くなった。


「うわ……すごい範囲……」


 画面いっぱいに広がる爆炎を見つめながら、俺は思わず呟いた。爆発の光が、モニター越しにも眩しいほどだった。それでも、レンさんは、着弾の間隙を縫うように、瞬間的にビークルモードへと切り替えては、また人型へと戻すという、目まぐるしい変形を繰り返していた。低く滑る速度で弾幕の隙間をすり抜け、次の瞬間には人型に戻って剣を構え直す。その繰り返しだった。


「え、今何回変形したんですか!? 目で追えないんですけど……!」


【コメント】これが変形の本来の使い方なのか

【コメント】移動特化と戦闘特化を瞬時に切り替えてる

【コメント】反応速度も操作技術も化け物すぎる


 一撃でも当たれば致命傷になりかねない、その圧倒的な物量を前に、まったく怯む様子がなかった。


 右へ、左へ、時には低く身を屈めながら。まるで弾幕そのものの呼吸を読んでいるかのような、精密な動きだった。一つでも判断を誤れば、致命的な結果を招きかねない、まさに綱渡りのような前進だった。


 あの完敗の日、終始押されながらも決して目を逸らさなかったレンさんの姿を思い出す。あの時と変わらぬ、揺るぎない覚悟が、今の戦いぶりにも確かに宿っていた。それでいて、あの頃とは明らかに違う、静かな余裕のようなものも感じられた。技術だけでなく、精神面でも、確かな成長を遂げてきたのだろう。


 あの完敗の後、決して腐ることなく、ひたむきに鍛錬を積み続けてきたレンさんの姿を、俺は改めて思い浮かべた。この一戦での戦いぶりが、その努力の確かな証明になっているのだと思う。


 あの日、レンさんがどんな想いで敗北を受け止めたのか、俺には正確にはわからない。それでも、今こうして目の前で繰り広げられている戦いぶりが、その答えのすべてを物語っているような気がした。


 悔しさをバネに、着実に力をつけていく。その姿勢に、俺は改めて、深い敬意を抱かずにはいられなかった。同じ立場に立たされたら、自分は同じように前を向き続けられるだろうか。そんなことを、ふと考えずにはいられなかった。


 弾幕をかいくぐりながら、レンさんが、再び間合いを詰めていく。爆炎の隙間から飛び出すように、機体が加速する。剣先に、これまで以上の力が込められているのが、遠目にもわかった。柄を握る手にも、一段と力が入っているようだった。


 剣を握る姿勢に、見覚えのある変化が起きるのを、俺は見逃さなかった。


「あの構え、また来るぞ……!」


【コメント】三日月一閃、二回目だ!

【コメント】さっきより速い!


 剣先が弧を描き、三日月のような軌跡を残しながら迫る。刃が空気を切り裂く音が、離れた場所にいる俺にまで聞こえてくる気がした。それでも、皇帝牙(エンペラーファング)さんの機体は、驚くほど冷静に、その一撃を紙一重で回避していた。


 だが、今度は違った。回避したはずの皇帝牙(エンペラーファング)さんの機体が、わずかに体勢を崩していた。一度目の斬撃で誘い、二度目の軌道をわずかにずらす。回避したはずの重心が、一瞬だけ流れる。レンさんの二撃目の狙いが、まさにそこにあったのだろう。


「入った……!」


 思わず腰を浮かせながら、俺はそう叫んだ。画面の向こうの光景から、一瞬たりとも目を離すことができなかった。視聴者たちのコメント欄も、一気に加速していく。


【コメント】崩れた!

【コメント】これはチャンスだ!

【コメント】レンさん、いけ!


 崩れた体勢を立て直すよりも遥かに早く、レンさんの追撃が鋭く迫る。技術を極め尽くした者だからこそ見抜けた、ほんの一瞬の隙。剣が振り下ろされる、その刹那。この一撃が決まれば、あるいは――。


 そんな確かな期待を、視聴者の誰もが抱いた、その瞬間だった。会場中の視線が、この一撃の行方だけに集中していた。実況の声すら、一瞬途切れるほどの緊張感が、その場を支配していた。


 俺自身もまた、画面に映る光景から、片時も目を離すことができなかった。この一撃が、この準決勝の行方そのものを決定づけるかもしれない。そんな予感が、確かにあった。





【神代レン視点】


 剣を振るいながら、俺は自分の中で、一つの確信が固まっていくのを感じていた。全身の感覚が、これまでにないほど研ぎ澄まされている。


 通用する。技術だけでは届かないと、これまでずっと思い込んできた相手だった。それでも、こうして真正面からぶつかってみると、決して手も足も出ないわけではない。むしろ、少しずつだが、確かな手応えを感じ始めていた。


 一撃、また一撃と、力を込めて剣を振るうたびに、相手の呼吸のリズムが、少しずつ見えてくる。長年剣を振り続けてきたからこそ培われた、この感覚だけは、誰にも負けない自信があった。


 幼い頃から、俺はひたすら剣の道だけを追い求めてきた。特別な才能に恵まれていたわけではない。それでも、誰よりも多くの時間を、この一つの技術に注ぎ込んできた自負だけはあった。


 周りが遊んでいる時間も、休んでいる時間も、俺はずっと剣を振り続けてきた。その積み重ねの果てに、ようやくここまで辿り着くことができた。


 誰かに強要されたわけでは、決してなかった。ただ、自分自身の確かな意志で、この道をずっと選び続けてきた。その選択の一つ一つに、後悔という感情は、微塵もなかった。


 たとえこの一戦の結果がどうなろうとも、この道を選んだことそのものを、俺は決して後悔しないだろう。ここまで来られたことこそが、何よりの誇りだった。


 あの完敗の日から、俺は自分なりのやり方で、地道に鍛錬を積み重ねてきた。速さだけでなく、間合いの読み、そして相手の呼吸を読む感覚。そのすべてを、余すことなく、今この一戦にぶつけている。


 毎朝欠かさず、雨の日も風の日も、絶えず続けてきた素振り、そして数え切れないほど繰り返してきた実戦形式の鍛錬。その一つ一つの積み重ねが、今この瞬間、確かな形になって表れている。この実感だけで、これまでの努力のすべてが報われた気がした。


 結果がどうなるかは、まだわからない。それでも、この瞬間、確かに全力を出し切れているという実感だけは、揺るぎないものだった。


 二撃目が、確かに皇帝牙(エンペラーファング)さんの体勢を崩した。この人物が、ほんのわずかとはいえ体勢を崩す瞬間を、俺はこれまで一度も目にしたことがなかった。あの完璧に見えた回避動作の裏に、確かな綻びが生まれた瞬間だった。


 これは、決して偶然ではない。技術を積み重ねてきたからこそ見抜けた、確かな隙だった。あの規格外の配信者との出会いから、俺は技術だけがすべてではないと学んだ。それでも、技術を磨き続けることの意味を、俺は今、改めて実感していた。


 技術と精神力、そのどちらか一方だけでは、この人物には決して届かない。両方をひたすら高め続けてきたからこそ、今この瞬間、確かな一撃を放てるところまで辿り着けたのだと思う。


 これまで積み重ねてきたすべての鍛錬、そしてあの敗北から学んだすべての教訓。その両方が、今この一撃に、余すことなく確かに込められていた。


 この一撃に懸ける想いは、これまでのどんな試合よりも強い。そう自分に言い聞かせながら、俺は剣型グリップのレバーを握る手に、さらに強く力を込めた。


 剣を振り上げながら、俺は全神経を、この一撃に集中させた。届くか、届かないか。その答えは、もうすぐそこまで来ている。


 視界の端で、観客たちの姿が、ぼやけるように遠のいていく。今この瞬間、俺の意識にあるのは、目の前の相手、ただそれだけだった。心臓の鼓動すら、やけに遠くから聞こえてくるような、そんな不思議な感覚があった。

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