表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華として嫁ぎ、刃として生きる  作者: 野苺みるく
9/13

8.成果の発表です!

皇城の執務室は、相変わらず張り詰めた空気に満ちていた。

重厚な扉の前で、私は一度背筋を伸ばす。

(認められたい?……いいえ)

(“納得”してもらうだけ)

「エルザ・アルアディア、参りました」

「入れ」

低い声。

扉を開けると、机に向かうカイエルの姿があった。

書類の山、地図、戦況報告。

――まさに、皇太子の仕事場。

私は一歩前に出て、優雅に礼をする。

「ご機嫌麗しゅう。

カイエル殿下」

そして、はっきりと告げた。

「本日は、成果の発表に参りました」

彼の視線が、ゆっくりと私に向けられる。

「成果?」

「はい」

私は侍女から受け取った小箱を、机の上に置いた。

「離宮の薬草園で育てた薬草を用い、

美容と治癒を目的とした軟膏と香油を作成いたしました」

「……美容?」

意外そうな声音。

(来たわね)

「ええ。ですが、ただの化粧品ではございません」

私は蓋を開ける。

ほのかに、落ち着いた香りが広がった。

「こちらは、肌の炎症を抑え、傷跡の治りを早める軟膏。

兵の擦過傷や、軽度の火傷にも使用できます」

「ほう」

「そしてこちらは、香油。

精神を安定させ、睡眠の質を向上させます」

一拍置いて、続ける。

「戦後の兵、眠れぬ夜を過ごす者たちに有効です」

カイエルの目の色が、明らかに変わった。

「……つまり」

「“嗜好品”ではなく、“実用品”です」

彼は無言で香油を手に取り、香りを確かめる。

沈黙。

(……評価されるなら、今)

「材料はすべて自給可能。

離宮の敷地内で増産できます」

「費用は?」

「初期投資は最小限。

流通に乗せれば、利益も見込めます」

淡々と、でも自信を持って。

やがて、カイエルは小さく息を吐いた。

「……なるほど」

椅子にもたれ、私を見る。

「“自由”を与えた結果が、これか」

「不満でしたでしょうか?」

試すように尋ねると、彼は口角を上げた。

「いいや」

短く、断言する。

「十分すぎる」

その一言で、胸の奥が静かに熱くなった。

「今後も、続けろ」

「よろしいのですか?」

「成果が出ている。

止める理由がない」

それだけ。

でも――それで、十分だった。

「ありがとうございます、殿下」

私は、もう一度礼をする。

「……エルザ」

呼び止められる。

「次は、“何を持ってくるつもりだ”?」

その問いに、私は微笑んだ。

「さて……それは、次の成果次第で」

彼は、ふっと小さく笑った。

それは、冷酷無慈悲な皇太子のものとは思えないほど、

静かで、穏やかな表情だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ