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華として嫁ぎ、刃として生きる  作者: 野苺みるく
8/12

7.自由を求めて

離宮の裏手。

朝靄がまだ残る時間、そこに人影があった。

「……昨日より、抽出温度を下げてみましょう」

エルザは小さな鍋を火から外し、慎重に木べらを動かす。

中に入っているのは、乾燥させた薬草と油脂。

――これで、何度目だろう。

最初に軟膏を作った日は、ひどい出来だった。

伸びは悪く、匂いは強すぎ、肌に塗れば赤くなる。

「効能だけじゃ、だめなのよ……」

呟きながら、失敗作に×印をつける。

薬は“効く”だけでは、人は使わない。

戦場で、日常で、誰かが毎日使えるものでなければ意味がない。

だから彼女は、記録を取った。

抽出時間

火力

薬草の産地

乾燥日数

油の種類

香りの残り方

肌への刺激

一つでも違えば、結果は変わる。

「……次は、夜明け前に採った月光草を」

剣術の稽古でできた小さな傷を、自分の腕で試す。

染みるか、熱を持たないか、治癒速度はどうか。

「……うん」

小さく、笑った。

効いている。

だが、それでも完成ではない。

香油の方は、さらに難しかった。

香りは好みが分かれる。強すぎれば嫌われ、弱ければ意味がない。

「落ち着く香りで、でも記憶に残るもの……」

何度も、何度も、何度も失敗した。

夜遅く、使用人が心配して声をかける。

「エルザ様……もうお休みを……」

「ありがとう。でも、もう少しだけ」

そう言って、また混ぜる。

指先は荒れ、爪の間には薬草の色が残る。

それでも、手袋はしない。

(自分の手で、確かめたい)

ある日、ふと気づいた。

「……あ」

鍋から立ち上る香りが、違う。

強くない。

甘すぎない。

なのに、胸の奥が、すっと軽くなる。

試しに、こめかみに一滴。

「……頭痛が、引いてる」

軟膏と香油。

二つは、ようやく“人に渡せる形”になった。

エルザは、机に並べた完成品を見つめる。

「やっと……来たわね」

誰にも見せず、誰にも褒められず。

それでも、積み重ねてきた時間。

(これなら、胸を張れる)

そうして彼女は、箱に丁寧に収めた。

――皇太子に、認めてもらうために。

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