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華として嫁ぎ、刃として生きる  作者: 野苺みるく
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5.広がる根っこ

翌朝。

私は早く目を覚ました。

「……よし」

窓を開けると、澄んだ空気が流れ込んでくる。

離宮の朝は、驚くほど静かだった。

身支度を簡単に整え、動きやすい服に着替える。

ドレスではなく、質素なワンピース。

土仕事をするつもりなのだから、当然だ。

「エ、エルザ様……?」

部屋の前で待機していた侍女が、目を丸くする。

「何か?」

「い、いえ……その……

本当に、ご自身で?」

「ええ」

にこりと微笑む。

「最初は、全部見たいんです」

離宮の敷地の一角。

昨日、私が“ここ”と指した場所には、まだ何もない。

ただの、少し硬めの土。

庭師が数人、遠巻きに様子を窺っていた。

「エルザ様、本日はどのように……?」

「まず、土を見せてください」

私はしゃがみ込み、地面に手を伸ばす。

指先で土を崩し、匂いを確かめる。

(粘土質が強い……水はけが悪いわね)

「ここは、そのままでは薬草に向きません」

即座に判断する。

庭師たちが、ざわついた。

「改良が必要です。

砂と腐葉土、それから――」

私は立ち上がり、周囲を見回す。

「近くに落ち葉が溜まっている場所はありますか?」

「は、はい! 東側の林に……」

「そこから腐葉土を作りましょう。

発酵には時間がかかるけれど、必ず良い土になります」

迷いのない口調。

庭師の一人が、思わず呟いた。

「……まるで、専門家だ」

(“少しばかり”って言ったけど、嘘はついてないもの)

作業は、想像以上にスムーズに進んだ。

土壌の区画分け。

日当たりの確認。

風向き、水源。

私は一つひとつ、丁寧に指示を出す。

「日陰を好む薬草は、こちら側に」

「毒性のあるものは、必ず区画を分けてください」

「ラベルは最初から付けましょう。取り違え防止です」

使用人たちの目が、徐々に変わっていくのを感じた。

(……信用され始めてる)

昼前。

私は汗を拭いながら、腰を伸ばす。

「今日は、ここまでにしましょう」

「よろしいのですか?」

「ええ。無理は禁物です。

薬草も、人も」

その言葉に、侍女がはっとした顔をする。

「……優しい方なのですね」

「合理的なだけです」

私は、少しだけ笑った。

その日の夕方。

離宮の一角に、小さな変化が生まれていた。

まだ芽は出ていない。

でも、確かに“始まり”はここにある。

(大丈夫)

私は土を見下ろし、静かに思う。

(ここなら、根を張れる)

同じ頃。

皇城の執務室。

「……薬草園、ですか」

エドワードが報告すると、カイエルは書類から目を上げた。

「妃は、初日から土壌改良の指示を出しました。

庭師たちが、かなり驚いております」

「そうか」

短く返す。

「止めなくて、正解でしたね」

「……ああ」

カイエルは、わずかに口角を上げた。

「放置した方が、よく育つ」

それが、植物のことだけではないと――

彼自身が、一番よく分かっていた。

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