3.最初の我儘
謁見の空気が、少しだけ緩んだ。
カイエルは立ち上がり、淡々と告げる。
「これからは、城の東にある離宮で暮らすといい。
使用人たちには、すでに整えさせてある」
――離宮。
それは、皇城の中にありながらも、一定の距離を保てる場所。
「まあ……」
私は小さく目を見開き、すぐに微笑んだ。
「そのようなお心遣い、ありがとうございます」
一拍、置いてから。
「殿下」
わざと、呼びかける。
「……その言い方は?」
「失礼いたしました。
カイエル殿下」
彼の視線が、わずかに鋭くなる。
「お言葉に甘え、私から一つ――我儘を申しても?」
「言ってみろ」
即答だった。
私は背筋を伸ばし、はっきりと告げる。
「離宮に、薬草園を作りたいのです」
一瞬、室内の空気が止まった。
「少しばかり、薬学の心得があります。
自分の手で育て、研究したいのです」
そして、視線を逸らさず続ける。
「もちろん、殿下の皇太子妃としての責務は、きちんと果たします」
だからこそ――
「それ以外の行動に関して、
どうか口を出さないでいただきたいのです」
要求。
それも、皇太子に対して。
侍従たちが息を呑むのが分かった。
だが、カイエルは――笑った。
ほんの一瞬、口角を上げただけの、微かな笑み。
「……いい度胸だな」
私は心の中で思う。
(でしょう?)
「薬草園、か」
彼は顎に手を当て、少しだけ考える素振りを見せてから言った。
「許可しよう。
必要な土地、人手、書物も手配する」
「……よろしいのですか?」
「約束しただろう」
黒曜石の瞳が、まっすぐに私を射抜く。
「叶えられる限り、すべて叶えると」
そして、低い声で付け加える。
「ただし――」
私は息を整える。
「自由を望むなら、
それに見合うだけの“結果”を見せろ」
その言葉に、胸が高鳴った。
「承知いたしました」
私は、心からの笑みを浮かべる。
「どうか、ご期待くださいませ。
カイエル殿下」
――この人は、檻じゃない。
少なくとも、
私を飼い殺す男ではない。




