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困っているのはリリーバー  作者: 双鶴


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9/14

9話

日曜の午後。

翔は、再び第三高校のグラウンドに立っていた。

前回の訪問から一週間。

フォームは、確実に変わっていた。

肘の位置、足の蹴り、顔の残し方。

高梨トレーナーの助言を反映し、身体の流れがスムーズになっていた。


今回は、吉田もキャッチャーとして同行していた。


「前回のキャッチャー、すげぇ上手かったけど…俺も負けてらんねぇ」


「…受けてくれるなら、投げる」


翔は、グラブを握り直した。


---


高校野球部のコーチ・三浦が、フェンス越しに声をかけた。


「お、来たか。フォーム、見せてくれ」


翔は、マウンドに立った。

吉田がミットを構える。

三浦コーチと、前回の高校キャッチャーが後ろで見守る。


一球目。

スライダー。

肘が前に出て、回転が安定した。

ミットに吸い込まれる音が、前回よりも深く、重い。


二球目。

シンカー。

右足の蹴りが強くなり、球が低く沈む。

吉田のミットが、自然に下がった。


三球目。

スライダーとシンカーの中間のような軌道。

吉田が一瞬、構えをずらして受け止めた。


「…今の、ちょっと変化したな。

沈んだっていうより、滑ったあとに落ちた」


三浦コーチがうなずいた。


「フォーム、良くなってる。

でも、リリーフってのは、球だけじゃ足りない。

キャッチャーとの“間”が命だ」


高校キャッチャーが言った。


「リリーフは、打者の空気を断ち切る。

でもそれって、キャッチャーが“断ち切らせる”構えをしてないと、成立しない」


吉田がうなずく。


「構え方、配球、タイミング。

全部、投手とキャッチャーの“呼吸”だよな。

翔の球、変化が読めないからこそ、俺が先に“間”を作らないといけない」


翔は、ミットを見つめた。


「…俺、先発じゃない。

流れを作るんじゃなくて、流れを止める役割」


三浦コーチが言った。


「そう。

リリーフは、孤独だ。

でも、キャッチャーがいる限り、独りじゃない」


翔は、もう一球投げた。

吉田が、少しだけ構えを変えて受けた。

球は、沈んだ。

でも、沈んだ先に“繋がり”があった。


吉田が笑った。


「…今の、俺が受けた中で一番良かった。

なんか、球と俺が一緒に動いた感じがした」


翔は、少しだけうなずいた。


「…じゃあ、次も頼む」


---


練習後、グラウンドの隅で、翔と吉田は水を飲んでいた。

夕方の風が、汗を冷やす。


「なあ翔。

お前、リリーフって言ってたけどさ。

それ、悪いことじゃないからな」


「…わかってる。

俺、先発みたいに長く投げられないし、

試合の流れを作るのも苦手だし」


「でも、流れを止めるのは得意だろ?」


翔は、少しだけ笑った。


「…それ、褒めてる?」


「もちろん。

お前の球、空気を変える。

それって、リリーフの才能だよ」


翔は、グラブを見つめた。


「…じゃあ、俺は俺の場所で、沈ませる」


吉田がうなずいた。


「俺は、ちゃんと受ける。

沈んだ先で、ちゃんと止める」


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