9話
日曜の午後。
翔は、再び第三高校のグラウンドに立っていた。
前回の訪問から一週間。
フォームは、確実に変わっていた。
肘の位置、足の蹴り、顔の残し方。
高梨トレーナーの助言を反映し、身体の流れがスムーズになっていた。
今回は、吉田もキャッチャーとして同行していた。
「前回のキャッチャー、すげぇ上手かったけど…俺も負けてらんねぇ」
「…受けてくれるなら、投げる」
翔は、グラブを握り直した。
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高校野球部のコーチ・三浦が、フェンス越しに声をかけた。
「お、来たか。フォーム、見せてくれ」
翔は、マウンドに立った。
吉田がミットを構える。
三浦コーチと、前回の高校キャッチャーが後ろで見守る。
一球目。
スライダー。
肘が前に出て、回転が安定した。
ミットに吸い込まれる音が、前回よりも深く、重い。
二球目。
シンカー。
右足の蹴りが強くなり、球が低く沈む。
吉田のミットが、自然に下がった。
三球目。
スライダーとシンカーの中間のような軌道。
吉田が一瞬、構えをずらして受け止めた。
「…今の、ちょっと変化したな。
沈んだっていうより、滑ったあとに落ちた」
三浦コーチがうなずいた。
「フォーム、良くなってる。
でも、リリーフってのは、球だけじゃ足りない。
キャッチャーとの“間”が命だ」
高校キャッチャーが言った。
「リリーフは、打者の空気を断ち切る。
でもそれって、キャッチャーが“断ち切らせる”構えをしてないと、成立しない」
吉田がうなずく。
「構え方、配球、タイミング。
全部、投手とキャッチャーの“呼吸”だよな。
翔の球、変化が読めないからこそ、俺が先に“間”を作らないといけない」
翔は、ミットを見つめた。
「…俺、先発じゃない。
流れを作るんじゃなくて、流れを止める役割」
三浦コーチが言った。
「そう。
リリーフは、孤独だ。
でも、キャッチャーがいる限り、独りじゃない」
翔は、もう一球投げた。
吉田が、少しだけ構えを変えて受けた。
球は、沈んだ。
でも、沈んだ先に“繋がり”があった。
吉田が笑った。
「…今の、俺が受けた中で一番良かった。
なんか、球と俺が一緒に動いた感じがした」
翔は、少しだけうなずいた。
「…じゃあ、次も頼む」
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練習後、グラウンドの隅で、翔と吉田は水を飲んでいた。
夕方の風が、汗を冷やす。
「なあ翔。
お前、リリーフって言ってたけどさ。
それ、悪いことじゃないからな」
「…わかってる。
俺、先発みたいに長く投げられないし、
試合の流れを作るのも苦手だし」
「でも、流れを止めるのは得意だろ?」
翔は、少しだけ笑った。
「…それ、褒めてる?」
「もちろん。
お前の球、空気を変える。
それって、リリーフの才能だよ」
翔は、グラブを見つめた。
「…じゃあ、俺は俺の場所で、沈ませる」
吉田がうなずいた。
「俺は、ちゃんと受ける。
沈んだ先で、ちゃんと止める」




