7話
日曜の午前。
翔と圭吾、吉田、中村、田島、佐々木の6人は、プロ野球チームの練習場の前に立っていた。
誰も口を開かない。
ただ、圭吾だけがスマホを握りしめていた。
「…行くぞ。青春は、勢いだ」
「それ、何回目の名言?」
「俺の中では、毎回初回」
吉田がため息をついた。
「アポなしでプロに突撃って、正気か?」
「正気じゃないから、青春なんだろ?」
翔は黙っていた。
でも、グラブは持っていた。
---
練習場のフェンス越しに、選手たちがキャッチボールをしていた。
圭吾が声を張った。
「すみません!高校生です!動画、見てほしくて来ました!」
選手たちが一斉に振り向いた。
数人が笑いながら近づいてくる。
その中に、ベテラン投手と若手コーチの姿もあった。
「動画?どんなの?」
圭吾がスマホを差し出す。
翔の未完成なスライダーとシンカー。
ぎこちないフォーム。
でも、何かが沈んだ一球。
選手たちが笑った。
「これ、沈んでるのか?いや、沈みかけてる?」
「フォーム、まだバラバラだけど…なんか、面白い軌道してるな」
「若さの勢いだなぁ。こういうの、好きだよ」
若手コーチが言った。
「沈む球って、回転軸より“抜き”の感覚が大事。
指先で空気を切るように抜けると、沈むっていうより“落ちる”になる」
ベテラン投手がうなずく。
「あと、リリースの瞬間に“ため”があると、打者が振り遅れる。
君の球、まだ未完成だけど、間がある。
それは、才能だよ」
翔は、少しだけうなずいた。
「…ありがとうございます」
フェンスの外では、野球部が騒いでいた。
圭吾が叫ぶ。
「見た!?プロが笑ってたけど、褒めてたぞ!」
「“勢いがある”って言われた!それ、青春の最高評価じゃね!?」
「翔の球、もう沈むっていうか、沈めるって感じだったよな!?」
「沈めるってことは、勝てるってことだよな!?」
「勝てるってことは、俺ら、もう水着の季節だよな!?」
「季節って、まだ春だぞ」
「でも、心はもう真夏だよな」
「俺、今から水着買う。上下で揃える。色は…勝利の赤!」
「俺、プールバッグ買う。防水仕様。勝利の青!」
「俺、サンダル買う。勝利の…えっと…ビーサン!」
「それ、野球関係ねぇ」
「でも、野球が青春なら、ビーサンも青春だろ」
翔は、少しだけ笑った。
---
一方、ソフトボール部の女子たちも騒いでいた。
遥、千夏、真帆、美月、陽菜、紗季。
スマホで動画を見ながら、ざわめきが広がる。
「え、プロに見せたの!?それ、青春じゃなくて突撃じゃん!」
「でも、“面白い軌道”って言われたんでしょ?それ、もう才能じゃん」
「てか、あの球、沈んでたよね?ミットの音、低かったし」
「これ、ほんとに勝つかも。てことは…」
「…プール、現実味あるかもね」
遥は、動画を見つめながら、ぼそっと言った。
「…沈んだ球が、誰かに見られた。
それって、すごいことだと思う」
女子たちが一斉に悲鳴を上げた。
「やばい!水着、去年のやつ入るかな!?」
「日焼け止め、SPFいくつ買えばいいの!?」
「髪、まとめる?巻く?それとも帽子!?」
「てか、男子とプールって、何着ればいいの!?」
「落ち着け。まだ勝ってない」
「でも、勝ちそう」
女子たちが叫ぶ。
「青春、来たああああ!!」
「沈む球、マジで沈んだあああ!!」
「プール、現実になっちゃうううう!!」
翔は、遠くからその騒ぎを聞きながら、グラブを握った。
「…次は、沈ませる」




