6話
土曜の午後。翔は、○○高校のグラウンドにいた。
招いてくれたのは、野球部コーチの三浦。
元社会人リーグの投手で、今は高校生の指導にあたっている。
「動画、見たよ。まだ未完成だけど、面白い球だね」
翔は、少しだけうなずいた。
「…失投かもしれません」
「失投でも、打者が打てなければ、それは武器になる。
リリーフってのは、そういう役割だよ」
「…役割」
「先発は流れを作る。
リリーフは流れを断ち切る。
球の質も大事だけど、空気を変えるのが仕事だ」
翔は、グラブを握り直した。
「…空気、変えられるかはわかりません」
「じゃあ、投げてみよう。
空気が変わるかどうか、見てみる」
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高校のブルペン。
翔は、マウンドに立った。
三浦コーチが後ろで見守る。
キャッチャーは高校生の正捕手。
吉田たち野球部も、フェンス越しに見ていた。
「いけ翔ー!沈めろー!」
「いや、まだ沈んでないけど!」
「でも、沈みそうな気配はある!」
「気配で勝てるか!」
翔は、深呼吸した。
動画で見たスライダーの握り。
昨日の感覚を思い出す。
腕を振る。
ボールが、低めに沈みながらミットに吸い込まれる。
高校キャッチャーが、ミットを見つめた。
「…なんか、変な軌道だった」
三浦コーチがうなずく。
「回転軸が縦に近い。
沈むというより、落ちる前に消える。
打者が振り遅れるタイプの球だ」
翔は、もう一球投げた。
今度は、シンカーの握り。
指先で抜く感覚を意識する。
ボールは、外角低めに沈んだ。
キャッチャーが、少しだけ後ろに下がった。
「…これ、打者が見失うかも」
三浦コーチが言った。
「リリーフは、球種より“間”だ。
一球で空気を変える。
その一球が、今のかもしれないな」
翔は、ミットの中のボールを見つめた。
「…まだ、たまたまです」
「でも、たまたまが続けば、それは才能だ」
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フェンスの向こうでは、野球部が騒いでいた。
「見た!?今の沈んだぞ!」
「沈んだってことは、勝てるってことじゃね!?」
「勝てるってことは、プール行けるってことじゃね!?」
「プール行けるってことは、遥の水着見れるってことじゃね!?」
「それ、言うな!」
「でも、言いたくなるのが青春だろ!」
「よっしゃああああああ!!」
「プールきたあああああ!!」
「俺、浮き輪買う!今度はカメのやつ!」
「俺、ゴーグル2個持ってく!」
「それ、野球関係ねぇ!」
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ソフトボール部の女子たちも、フェンスの向こうで見ていた。
遥、千夏、真帆、美月、陽菜、紗季。
翔の投球に、何かを感じていた。
真帆「え、今の球、ちょっと沈んだよね?」
美月「てか、ミットの音、違ったよね?」
陽菜「なんか…空気変わった気がする」
紗季「これ、ほんとに勝つかも」
千夏「…プール、現実味あるかもね」
遥は、翔の背中を見つめながら、ぼそっと言った。
「…ホントに、プールかもね」
女子たちが一斉に悲鳴を上げた。
「きゃー!!」
「水着どうする!?」
「日焼け止め買わなきゃ!」
「髪、まとめる?巻く!?」
「てか、男子とプールって、何着ればいいの!?」
翔は、フェンス越しの騒ぎを聞きながら、グラブを肩にかけた。
「…空気、変わったかもな」
三浦コーチが笑った。
「それが、リリーフの仕事だよ」




