5話
「翔の球、撮れてる!これ、マジでバズるぞ!」
圭吾がスマホを振りながら叫んだ。
グラウンド脇で撮影された動画には、翔のぎこちないフォームと、ミットに吸い込まれる一球が映っている。
まだ未熟。軌道も安定しない。
でも、何かが“違う”と感じさせる映像だった。
「タイトルどうする?“沈みかけの球”とか?」
「それ、溺れてるみたいだろ」
「じゃあ、“帰宅部のリリーバー、覚醒前夜”!」
「中二病か」
「“風の予感”は?」
「それ、天気予報」
吉田がまとめた。
「“未完成のスライダーとシンカー、でも何かが沈んだ”——これでいい」
「長っ!」
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動画は、圭吾のSNSアカウントから投稿された。
「#野球部ギリギリ」「#沈むかも」「#帰宅部の奇跡」など、謎のタグが並ぶ。
再生数は、放課後のうちに千を超えた。
翌朝、部室に圭吾が飛び込んできた。
「翔!見て!コメント来てる!しかも…元プロ!」
翔はスマホを受け取った。
画面には、見覚えのある名前。
かつてテレビで見たことのある、元プロ投手のアカウントだった。
「“回転軸が面白い。リリースの瞬間にもう少し指を抜ければ、沈む可能性あり”」
「…沈む可能性」
「来たぞ翔!プロが“沈む”って言ったぞ!」
「まだ“可能性”だけどな」
「でも、可能性って言葉は、青春の燃料だろ?」
「それ、誰の名言?」
「俺の昨日の夢」
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その日の昼休み。
翔のスマホに、見知らぬアカウントからメッセージが届いた。
「動画見ました。面白い球ですね。
もしよければ、うちのグラウンドに見に来ませんか?
第三高校野球部コーチ・三浦」
翔は画面を見つめたまま、黙っていた。
隣で吉田がのぞき込む。
「え、これって…スカウト?」
「いや、ただ“見に来い”ってだけだ」
「でも、“見に来い”って、“見せてくれ”ってことだろ?」
「…たぶん」
圭吾が叫ぶ。
「翔!お前、ついに外に出るぞ!沈む球、外に出るぞ!」
佐々木が笑う。
「沈むのに、外に出るって矛盾してね?」
田島がぽつりと言った。
「でも、翔の球って、閉じ込めておくにはもったいないよな」
翔は、スマホを閉じて、グラブを握った。
「…まだ沈んでないけどな」
「でも、沈みかけてる。
それって、もう始まってるってことだろ?」
翔は、少しだけ笑った。
「…じゃあ、見せに行くか」




