4話
「翔ー!スマホ貸して!」
圭吾が部室で叫んだ。
翔は無言でスマホを差し出す。
圭吾はすぐにYouTubeを開き、野球解説チャンネルを検索した。
「これこれ!“プロが教えるスライダーとシンカーの違い”ってやつ!」
吉田が隣でうなずく。
「翔、これ見ながらフォーム確認しようぜ。
お前の球、昔から変な軌道だったし、もしかしたら…」
「…変なって言うな」
「いや、褒めてる。変な球って、打てないから」
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動画では、元プロ投手がスライダーとシンカーの握り方、回転軸、リリースポイントを解説していた。
翔は黙って画面を見つめる。
指の位置、手首の角度、リリースの瞬間。
何度も巻き戻して、スロー再生する。
佐久間がぽつりと言った。
「…沈むって、こういうことかもな。
回転軸が縦に近いと、空気抵抗で落ちる。
でも、打者から見たら、消えたように見える」
圭吾「それ、マジで沈むじゃん!てか、翔の球って、昔から“消える”って言われてたよな」
翔「…それ、体育のキャッチボールの話だろ」
吉田「伝説の“体育キャッチボール事件”」
佐々木「俺、見てない!再現して!」
翔「…再現できるかは、わからない」
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グラウンド。
翔はマウンドに立ち、吉田がキャッチャーミットを構える。
圭吾がスマホを構えて叫ぶ。
「いけ翔!沈めろ!…いや、まだ沈んでないけど!」
翔は一度、深呼吸して、腕を振った。
ボールがミットに吸い込まれる。
乾いた音。
吉田が、少しだけ眉を上げた。
「…今の、ちょっと沈んだかも」
「マジ!?沈んだ!?沈んだってことは、沈む球!?」
「いや、まだわかんねぇ。
でも、軌道がちょっと…変だった」
翔は、もう一球投げた。
今度は、指先の感覚を意識して、少しだけ回転を縦にした。
ボールは、低めに沈みながら、ミットに吸い込まれる。
吉田「…これ、打者から見たら消えるかも」
圭吾「消えた!?今、消えた!?俺の視界から消えたぞ!」
佐々木「それ、ただの瞬きじゃね?」
田島「でも、なんか…違う。
俺が投げる球とは、何かが違う」
翔は、ミットの中のボールを見つめた。
指先が、少しだけ震えていた。
「…まだ失投かもしれない」
吉田「でも、失投でも打てなかったら、それが武器だろ?」
翔は、少しだけ笑った。
「…じゃあ、もう一球」
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その日の練習後、部室で動画を見返す翔の背中に、遙の声が届いた。
「…今日の球、ちょっと変だったね」
翔は振り返らずに答えた。
「…たぶん、まだ失投」
「でも、見たいと思った。
次の球も」
翔は、スマホを閉じて、グラブをしまった。
「…じゃあ、明日も投げる」




