14話
放課後の教室。
窓の外には、夏の気配。
蝉の声が遠くで鳴いている。
明日は、プール。
「明日、プールだあああああああ!!」
圭吾の雄叫びが、教室の天井を突き抜けた。
男子たちが一斉に立ち上がる。
机が揺れ、椅子が跳ね、空気が爆発する。
「水着!水着!水着!」
「俺、今日の夜、夢に出る気がする!」
「俺、明日、目が合ったら運命って信じる!」
「俺、ゴーグル3個持ってく!」
「俺、浮き輪に“恋”って書いてく!」
「俺、日焼け止め塗って“モテ”って書く!」
「それ、皮膚炎になるぞ!」
翔は、窓際で静かに座っていたが、口元は笑っていた。
「…お前ら、落ち着け」
「落ち着けるかあああああ!!」
「だって、明日だぞ!?プールだぞ!?青春だぞ!?」
「俺、今日から“夏”って名前に改名する!」
「俺、“水着”って名前にする!」
「それ、出席簿で呼ばれたら地獄だろ!」
「でも、呼ばれたい!“水着くん、返事!”って言われたい!」
---
そのとき、女子たちが教室に入ってきた。
遥、千夏、真帆、美月、陽菜、紗季。
すでに髪を結び直していたり、日焼け止めの話をしていたり、
どこかそわそわしている。
「うるさっ!何この騒ぎ!」
「男子、全員テンションおかしくない?」
「てか、“水着”って叫んでたよね?誰か」
「“恋”って書いた浮き輪って何?呪い?」
「…明日、やめる?」
「やめないでええええええ!!」
男子たちが土下座寸前で叫ぶ。
圭吾は机に額をつけて叫んだ。
「俺たち、明日を生きるために今日を燃やしてるんです!!」
女子たちは呆れながらも、どこか笑っていた。
そして、少しずつはしゃぎ始める。
「てか、何着よう…去年のやつ入るかな」
「日焼け止め、SPFいくつが正解?」
「髪、まとめる?巻く?それとも帽子?」
「帽子は飛ぶよ。絶対飛ぶ」
「でも、男子の前で泳ぐって、ちょっと緊張するよね」
「…でも、楽しみだね。明日」
翔は、遥の言葉に、少しだけうなずいた。
「…うん。
沈む球は、沈んだけど——
明日は、跳ねる日だな」
---
教室の中。
男子の妄想は暴走し、女子の悲鳴は笑いに変わり、
誰もが“明日”を待ちきれずにいた。
「俺、明日、絶対に青春する!」
「青春って、どうやるの!?」
「知らんけど、たぶん水に飛び込むことだ!」
「じゃあ、飛び込もうぜ!全力で!」
「俺、明日、告白する!誰かは未定!」
「俺、明日、沈む!水に!気持ちに!全部に!」
女子たちも、笑いながら叫ぶ。
「水かけ禁止だからね!」
「髪濡らしたら怒るからね!」
「でもちょっとだけ、楽しみかも…」
「え、今なんて言った!?」
「言ってない!何も言ってない!!」
「…青春って、うるさいね」
「でも、うるさいのって、ちょっと好きかも」
---
沈む球は、青春の中で生まれた。
そして今、跳ねるような笑いとともに、
夏が始まろうとしていた。
(おわり)




