12話
試合前日。
グラウンドには、いつもより多くの声が響いていた。
野球部の練習は、異常なほどの熱量だった。
「走り込み、あと20本!」
「ノック、もう一周!」
「ブルペン、翔あと10球いけるか!?」
「…いける」
翔は、黙々と投げ続けていた。
吉田がミットを構え、受け続ける。
田島は、ベンチでフォームを確認しながら、静かに汗を拭いていた。
圭吾は叫んでいた。
「明日勝ったら!プール!水着!青春!全部来るぞ!!」
「俺、勝利のために眉毛整えてきた!」
「俺、勝利のために香水買った!」
「それ、野球関係ねぇ!」
佐々木は笑いながら言った。
「でも、関係ある気がしてくるのが、青春だよな」
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そのとき、ソフトボール部がグラウンド脇に現れた。
遥、千夏、真帆、美月、陽菜、紗季。
練習を見守るように立ち止まり、静かに声をかけた。
「…頑張ってるね」
「明日、応援行くから」
「勝ったら、ちょっとだけ考えるよ。プールのこと」
「でも、浮かれすぎたら沈めるからね」
「泳法で制裁するから」
遥は、翔の背中を見つめながら言った。
「…沈ませて。ちゃんと」
翔は、グラブを握り直した。
「…任せて」
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その瞬間、野球部が爆発した。
「よっしゃああああああ!!」
「女子が見てる!応援来る!プールの可能性がある!!」
「俺、明日勝ったら告白する!誰かは未定!」
「俺、勝ったら水着買う!誰のかは未定!」
「それ、犯罪だろ!」
吉田が冷静に言った。
「お前ら、邪な決意が混ざってきてるぞ」
圭吾が叫ぶ。
「でも!邪でも!熱でも!全部まとめて青春だろ!!」
翔は、最後の一球を投げた。
ミットに沈む音。
吉田が受け止めて、静かに言った。
「…整ってる。
明日、いけるぞ」
翔は、空を見上げた。
夕焼けが、グラウンドを赤く染めていた。
「…沈ませる。全部」
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練習後。
野球部員たちは、それぞれの帰り道についた。
誰も口には出さなかったが、心の中では叫んでいた。
「勝つぞ」
「沈ませるぞ」
「プール、行くぞ」
「モテるぞ」
「青春、来るぞ」
翔は、ひとり歩きながら、グラブを握った。
明日、沈む球が本当に沈む。
そのために、今日、燃え尽きる。




