11話
「投稿、完了っと」
圭吾がスマホを掲げた。
翔のフォーム動画。
高梨トレーナーの助言を反映した最新版。
スロー再生付き、解説テロップ付き、BGMはなぜか「風の中の少年」。
「タイトルは“沈む球、最終形態(仮)”!」
「“仮”ってつける意味ある?」
「ある。進化は止まらないってこと!」
翔は、スマホを見つめながらつぶやいた。
「…止まってないのは、お前のテンションだろ」
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投稿から数時間後、コメントが続々と届いた。
「肘の位置、前より安定してる」
「顔の残し方、すごく良くなった」
「沈むというより、滑って落ちる感じ」
「回転数、もう少し上げられそう」
「リリースの瞬間、左肩が開き気味かも」
翔は、ひとつひとつのコメントを読み込んだ。
匿名の誰かが、真剣に見てくれている。
それが、嬉しかった。
「…まだ、直せる」
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その日の夕方。
グラウンドのブルペンに、三人の影が並んだ。
先発の田島、キャッチャーの吉田、そしてリリーフの翔。
田島が言った。
「大会、初戦の相手、打線強いらしい。
俺、三回までは全力でいく。
でも、四回以降は…頼むな」
翔はうなずいた。
「…三回まで、流れ作ってくれ」
吉田がミットを構えながら言った。
「俺が間をつなぐ。
お前らの球、どっちも受けてるから、呼吸は合わせられる」
三人は、順番に投げた。
田島の直球。
翔の沈む球。
吉田の構えが、少しずつ変わっていく。
「田島の球は、押し込む構え」
「翔の球は、引き込む構え」
「間の取り方、リズム、全部変える」
吉田の声が、静かに響いた。
「でも、どっちも“勝つための球”だ。
俺が、ちゃんと受ける」
翔は、グラブを握り直した。
「…じゃあ、俺は沈ませる。
流れを、止める」
田島が笑った。
「頼もしいな、リリーフ」
翔も、少しだけ笑った。
「…任せとけ。
沈む球は、整ってきた」




