10話
放課後、ソフトボール部のグラウンド。
そこに、野球部全員が整列していた。
中村が一歩前に出て、深呼吸する。
「女子ソフト部の皆さん!お願いがあります!」
千夏が眉を上げる。「…また?」
「異種交流戦を、ぜひ!
俺たちと、試合してください!」
真帆「なんで?」
「試合のためです!勝利のためです!そして…プールのためです!」
圭吾が叫ぶ。
「俺たち、勝ちたいんです!
でも、実戦経験が足りないんです!
だから、強い相手とやりたいんです!
そして、勝って、プールに行きたいんです!!」
女子たちがざわつく。
「またそれか…」
「でも、試合って言われると、ちょっと燃えるよね」
「てか、翔くんの球、見てみたいし」
「え、ちょっと待って、それ私も思ってた」
「…やるか。交流戦。こっちも、ちょっと試したいことあるし」
遥は、翔の方をちらりと見て、静かに言った。
「…受けて立とう。試合、しよう」
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その瞬間、野球部が爆発した。
「よっしゃああああああ!!」
「異種交流戦きたああああ!!」
「これ、勝ったらプール確定じゃね!?」
「てか、勝ってなくても、もう青春じゃね!?」
「俺、バットに願掛けする!“水着祈願”って書く!」
「俺、グローブに“浮き輪”って刺繍入れる!」
「それ、野球関係ねぇ!」
翔は、少し離れた場所で、静かにグラブを握っていた。
でも、口元にはうっすら笑みが浮かんでいた。
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交流戦に向けて、野球部の練習は一気に熱を帯びた。
走り込み、ノック、ブルペン。
翔の投球にも、さらに磨きがかかる。
吉田がミットを構えながら言った。
「翔、今日の球、沈むっていうより…刺さるな」
「…それ、褒めてる?」
「もちろん。
沈んで、刺さって、勝って、プールだ」
翔は、少しだけ笑った。
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そして、交流戦当日。
野球部 vs ソフトボール部。
真剣勝負。
結果は——野球部の勝利。
だが、試合後。
千夏が言った。
「今日は、試合。
プールは、また別の話」
「そもそも、そんな約束してないし」
「勝ったからって、即プールってわけじゃないし」
「てか、まだ春だし」
「水、冷たいし」
「…でも、いい試合だったよ」
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野球部は、しばらく沈黙した。
だが、次の瞬間——
「でも!勝ったってことは、モテるってことじゃね!?」
「モテるってことは、プールで声かけられるってことじゃね!?」
「声かけられるってことは、夏が来るってことじゃね!?」
「夏が来るってことは、青春が始まるってことじゃね!?」
「よっしゃああああああ!!」
「プールきてないけど、気持ちはプールだあああ!!」
翔は、グラウンドの隅で、グラブを肩にかけながらつぶやいた。
「…妄想で走れるなら、それも才能だな」
吉田が笑った。
「お前の球も、妄想から始まっただろ?」
翔は、少しだけうなずいた。
「…じゃあ、次はもっと沈める」




