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第4話「女神様的にはアリらしい」

この作品を見つけてくださりありがとうございます

細々と続けていくので応援よろしくおねがいします。


【ユナリス魔王国 アマータ領 セルセ山 13年前】



 早朝の冬の山はしんと静まり返り、冷たく乾燥した空気が火照った体に心地良い。小さい頃から棒切れ片手に走り回り遊んだこの大好きな山も、今日は別の目的で訪れていた。私を含む15人の子どもたちは、神父様とシスターたちに連れられて日の出が見える崖を目指して山道を進んでいた。


 私の種族「アマータ族」は、12歳になると最寄りの山に登り、日の出に向かって信仰する愛の女神「ヴェリサ様」に、今日まで無事に育ったことを報告し、感謝するのだ。子どもたちは日の出に向かい、膝をついて手を組み祈る。


 その過程で、50年から100年に数人ほどの僅かな確率で鼻血を出す子がいる。鼻血を出した子どもは「女神様の祝福」を受けたとされ、特殊な能力に目覚める。その能力で競技者として成功したり、医学者として不治の病に効く特効薬を開発したり、聡明な為政者として一族の危機を救ったりと、例外なく偉業を遂げてきた。


 そんな大事で神聖な一時。子どもたちは自分も女神様の祝福を受けられたら良いなとワクワクしながらも、熱心に祈る。それが普通だ。私を除いて…。


 その日の前夜、私はお父様が飲みかけのまま放置したコーヒーを好奇心で飲んでしまった。以前からお父様が美味しそうに飲む姿を見て、私も飲みたいとおねだりしたが、私が寝られなくなると考えて飲ませてくれなかった。案の定、私は全く眠れなかった。


 寝られないなー寝られないなーと、ベッドの上をゴロゴロし続けた。途中で「疲れたら眠くなるのでは?」と考え、スクワットを始めたのが午前2時頃。隣の部屋では弟のアノが寝ているので、起こさないように静かに1時間ほどやって飽きた。その後もベッドでゴロゴロし続け、空が白んできた頃、ようやくうとうとし始めたところでメイドに起こされた。そして山道を登り今に至る。


 つまり、私はとても眠かった。日が昇るにつれてじんわりと体が温められ、少し火照ったところでたまに吹く冷たい風がとても心地良い。私はうつらうつらと船を漕ぎ出し、そして、意識が飛んだその一瞬、顔面を地面に打ち付けた。衝撃に一発で目が覚め、自分に何が起きたのか分からなかった。大人たちも一緒に祈っていたので、私が顔を打ち付けるまで気が付かなかったようだ。神父様とシスターが慌てて駆け寄ってきて私を起こした。シスターに顔についた土を払われていると、その手がぴたりと止まる。


「これは……」


 神父様が微妙な表情を浮かべ、シスターは手を口に当てて目を見開く。周りの子どもたちも微妙な表情で私を見る。はて? 地面に打ち付けた時に虫でも潰してしまったのだろうか? そう思い、顔に手を触れた。


ヌルリ…。


 鼻の下を触ると、指に何かが付いた。指先を見ると血が付いている。ああ、鼻をぶつけてしまったなと思ったところで、私もこの微妙な空気の理由にやっと気がついた。


 これは「女神様の祝福」なのだろうか……?


 神父様やシスターも困惑している。その時の私は、寝落ちして打ち付けただけだから違うだろうと主張した。


 やがて神父様やシスター、他の子どもたちも納得して「お転婆なメリィらしいや」と笑い合い、下山した。


 だが、女神様的には「アリ」だった……。


 翌晩のこと。お母様が夜会で留守にしている間に、お父様が秘蔵の高級チョコレートを「一つくらいならバレまい」と、酒のつまみに少しつまんだ。私は、貴族のくせに食い意地の張ったお母様が、残り何粒残っているか正確に覚えていることをお父様に話した。


「いや、流石にバレないだろう…いや…マイッタはしっかり覚えてそうだな…素直に白状した方が良いか…?」


 お父様は冷や汗をかき出した。お母様は怒るとめんど…げふん、怖いのです。その時、偶然お父様と目が合った。


 その瞬間、私はお父様の瞳に吸い込まれるように心の中に入った。


 心の中のお父様が、分かれ道で佇み悩んでいる。


「素直に謝るべきか……」


 お父様が呟いた。


(謝らないのですか?)


 私は囁いた。


「謝っても2時間は機嫌が悪くなるからなぁ…」


(じゃあ、秘密にしておくのですか?)


「そっちの方がバレた後がヤバいな……」


(では……)


 私はにっこりとお父様の手を取り、片方の道へと導き、囁いた。


(黙っておきましょう。きっとバレはしません)


「……え?」


 この流れでそっち?と言いたそうなお父様。そこへさらに囁く。


(お母様は夜会でお酒を飲んで帰られます。その時にお父様がそっとチョコレートを差し出すのです…)


「……」


(翌朝にはいくつ食べたか覚えてませんよ。ね? バレないでしょう?)


 すうっと意識が元に戻る。どうやらほんの一瞬しか時間が経っていないようだった。お父様は小さく「よし! 隠そう!」と決心した。自分で唆しておいて言うのも何だけど、蛮勇だなぁ。


 私の能力は、人の心に囁き、思考に直接影響を与えるとんでもない能力のようだ。お父様も私の囁きに気が付いていない。この力を家族に話すべきかどうか迷っていると、お父様が私を見てギョッとした。


「メリィ!どうした!? 鼻血が出てるぞ!!」


「え…?」


 鼻の下に指を当てると血が付いた。ポタポタと血が数滴、床に落ちた。どうやら能力の副作用のようだ。強力な能力には副作用があると聞いたことがある。


でも、これで私も能力持ち。将来成功するのは約束されたも同然。


(見ていてください、お父様! この私がヤヴァイネン家を繁栄に導きます!)


 鼻血を垂らしながら不敵に笑う私に、お父様はさらに慌てたのだった。


 その後、お父様は酔って帰宅したお母様にチョコレートを食べさせるも、翌朝もお母様はしっかり数を覚えていたため、こっ酷く叱られた。

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