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第1話「お前らが保護者になるんだよ」

8.20一部誤字を修正しました

この作品を見つけてくださりありがとうございます

細々と続けていくので応援よろしくおねがいします。


【アークレスト王国 シュレー地方 ノヴァリスの森】

 


 お日様が輝くお昼時。森の中で私達5人は跪いていた。


「ああ…ここで皆様に巡り会えたのも神のお導き!!どうか私達をお救い下さいませ…!」


 両手を組んで瞳にたっぷりと涙を溜め、満面の笑みを向ける。幼い頃、誕生日におねだりして用意してもらったケーキ(ホール)を前にした時を思い出したら上手くできた。


 着の身着のままのズタボロ姿の私達に懇願され、私達に絡まれた5人の男達は口元がヒクつきながらも穏やかな笑顔を頑張って維持している。だよね…私達、ちょっと臭うもん…。彼らは聖職者である立場上、野垂れ死にそうな私達を邪険にできない。

 彼らの中から若手の男が一歩前に出た。


「何があったのですか?野盗にでも襲われたのですか?」


 聞きたくないなぁ、関わりたく無いなぁと顔に書いてある。顔に出やすいから官憲には嘘ついちゃダメだよと、心でそっと助言する。


 まるで待っていましたと言わんばかりに私の「お父様」が立ち上がり、答えるために一歩前へ進み出た。風上に立つお父様から香る「ムッワー」を浴びた若手の聖職者は一歩下がった。鼻を摘まなかったのはエライと思う。


「私達はここより遥か北の少数民族イナンバ族の一家です。野盗に故郷を焼かれ、営んでいた店の者達と逃げ出したのですが…」


 そこまで言ってズビビと鼻を啜る。聖職者達は話半分に頭の中で「イナンバ族?」「コイツらどうしようか?」と考えてるようだ。おそらく過去に何度もこの手のトラブルを経験しているのだろう。臭い以外全然動じていない。みんな顔に出まくりである。


「道中、賊や獣に襲われ店の者達とは散り散りに…何とか子供達を連れてここまで辿り着いたのです」


 語り終えた彼の後ろでよよよ…と泣く私達。


「マーゲン様……」


 話を聞いた若手が困り顔で後ろにいた糸目の中年に振り向く。ついでに「事情を聞くの代わってくれ鼻が限界だ」と目で訴えている。なるほど、そいつがリーダーか。


「マーゲン様!司教様!!私達はノンコールの街を目指しております!どうか、そこまで私達を導いて頂けませんか!!」


「妹」がすかさず喰らい付いた。


「私は司教ではありません。ですが……」


 司教でないことくらい知っている。祖国で飲み屋のお姉さんが言う「社長さん」的なヨイショである。どうやら今の表情から察するに断るつもりのようだ。坊主なら助けてくれよ。

でもそうはさせないと、妹に続いて「お姉様」が攻める。


「私や妹達は特に賊に狙われやすく怯えながらここまで来ました。父や弟の重荷になるくらいなら自害しようかと何度も悩んだのです」


 お姉様が悲しい顔でそっと腰の短剣を撫でる。背が高い美人の彼女は演技も極上だった。


「姉上!何を馬鹿なことを!」

「命に替えてもお前達は私が守る!馬鹿な考えは捨てなさい!!」

 

 良いタイミングでお兄様とお父様がお決まりのセリフを叫ぶ。即興にも関わらず部下達の連携は抜群だ。さて、ここで「指揮官」の私がとどめを刺すとしよう。


 「マーゲン様…お礼は必ず致します。私達にできることなら何でもお申し付けください。ですのでどうか…私達をその慈悲深き御手の中でお守りください。私達はあなた様の守護でこそ平安を得ることができます!」

 

 何でもする云々はもちろん嘘です。えっちいのはダメです。私は庇護欲を高めるため、さっきから彼らに使っていた魔力をそっと強めた。


 同時に目を見開いてマーゲン様の瞳を覗き込む。目が合った瞬間、私の意識はマーゲン様の瞳に吸い込まれるように彼の心に入り込んだ。

 

 そして、心の中の分かれ道で迷い佇む彼の耳元にそっと囁く。


(この者達を助けたら、これまで女子供を火炙りにした罪悪感が少しは薄れるんじゃないか?)と。


 そして彼の手を取り、そっと導く。【保護する道】へ……。


 こうして私の特殊能力「心の囁き」によって、通りすがりの異端審問官一行を保護者にした私達『ユナリス魔王国陸軍』の潜入部隊は、彼らの食糧を遠慮なく貪りながら目的地を目指した。


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