第368話 商会との交渉
主人公達は、国外脱出です。
その合間に、マティアスがした事は。
アレン様、イサム様、ミリア様、シャロン様と別れ、王都へと戻った。
友人なのに、まだ『様』と付けてしまうが、恩人でもあるのだから、心の中でそう呼ぶのは許してもらおう。
王都の門番さんには皆さんの事を聞かれたが「騎士様達の護衛が居てくれるなら、お金稼ぎに狩りに行きたい、と言う話になり途中で別れました」と言うしかなかった。
そして、商会に戻ると兄と父が待ち構えていた。
「な、なんでマティアスは無事なんだよ」
「はい。友人達とホバド砦の人達の献身により無事に帰ってこられました」
そう言うと、黙ってしまう兄。
私が商会を奪ってしまうのでは、と怖がっているかもしれない、とは思っていた。
だから、行商部門で働いていたのだけど。
それだけでなく、私は実の母を苦しめる存在。
申し訳ない事をしていた。
「商会長様、専務様。私は、この度エルランド商会の行商人部門から退職し、独自に商店、商会を起こす事にしました」
「そ、そうなのか」と、父はホッとしている感じだ。
イサム様の言う通りなのか。
愛しているが、共にいると苦しめる人がいる。
そんなジレンマに、父を。
「なので、オロフと北の販路を譲っていただけないでしょうか?」
オロフとは話し合い、商店・商会を起こす手伝いをしてくれる、とその意思は確認している。
そして、北の販路はその多くが父が後を継ぐはずだったヒューゲル商会の販路だったと聞いている。
未だに、今は無きヒューゲル商会の仕事に感謝してくれている人もいる位だし。
それを思い出したので、そう父と兄に要求したみた。
今現在、北の販路にエルランド商会の直営店は無いから、各市町村で領主から購入しているのは行商だけの商売株だから、入手し易いし値段も安い。
だから、それ程の金額にはならない筈、と商業スキルには確認してある。
なので、そう要求をしてみたのだけど「そ、それは」と、父はそんな事を言われると思っていなかった様で驚いている。
「オロフは優秀ですが、替わりの人材なら商会に居ますし、遠からず退職する年齢です。
それに北の販路は、あまり重視されておらず、私以外だと2つの商隊しか行き来して居ませんから、商会としては、大した損害にならないかと」
「そ、それはそうだが、そのための対価を払えるのか」と、ぶっきら棒に腹違いの兄が言ってくる。
「いくらお支払いすれば良いでしょうか?」
「そうだな。1億GAZUだな」
そう言うと、護衛の為に付き添ってくれていたエッカルトさんが剣呑な雰囲気になり剣に手を掛けた。
オロフの退職と再就職は、自由の筈だから、本来お金は払うモノではない。
だけど、引き抜きではあるから、もし支払うのならば、商業学が教えてくる相場は5万から100万GAZUか。
北の販路については、商会や商店の売買ではなく、あまり利益の出ない販路と市町村の行商の商売株の譲渡でしかないのに。
王都近くの市町村を北の販路に含めるかどうかはあるが、市が5つに町が2つに村が2つ。
ざっと計算してみたが、各市町村の行商の商売株の譲渡だと650万GAZU程度の筈だ。
あの寂れている北側の市町村の販路だと、その商売株の半額から同額くらいが販路の譲渡の相場だと商業学スキルは言ってきている。
なのに、王都に大型の商店を構えるより高額な金額を言ってくるとは。
多少知識があれば、商売人でない人にすら分かる、暴利な条件だが。
大丈夫。
私は商売人だ。
「もう少しお安くなりませんかね。エギマド市の近くにある岩塩の鉱床の権利を譲ってもらえるのだとしても」
そう条件を追加すると「ち、父上」と兄は父に助けを求めている。
「岩塩の鉱床の権利まで、となれば1億GAZUは当然の値段だな」
「そうですか。分かりました。細かい条件の確認と契約書をお願いいたします」
そう言って頭を下げておく。
「えっ。父上」と兄は私が条件を飲むと思っていなかったのか混乱している様だ。
「ウゴール。お前に異論がないのなら、契約を結ぶぞ」
「い、一億GAZUならば」と兄は決断してくれた。
「ああ。契約書は作成しよう。しかし、その大金はどうするのだ?」とほっとした感じの父が聞いてくる。
「はい。友人が出資してくれましたので」
「そうか。あの人達が」
「はい。私にはもったいない程の人達でした」
「人の縁は大切にすればいい」
「はい」
アレン様、ミリア様、シャロン様、イサム様。
これで良いのでしょうか。
いえ。
良かったと、頑張るしかないのでしょう。
私に出資して、良かったと思ってもらえる様に、進んで行こう。
幸せな再開を迎える為に。
マティアスは、行商人から商会長になる道を選びました。
上手く行ってくれると良いのですが。




