業務委託と珈琲店の話
人生で初めて業務委託契約を経験した。
半年間だけだったが、とにかくしんどかった。コールセンター業務なのだが、おそらく向いている人には向いている。全く苦もなくこなせる人は多いだろう。実際、職場の上司たちは楽しそうにやっていた。ほとんどが二十代だと思うのだが、みんな和気藹々としていて、その光景が苦しかった。なんならこの苦しみに気付いてもらえず、勝手にやり甲斐を感じてるんじゃねぇよと八つ当たりをしたくなるような気分だった。
9時にスタートし、18時まで勤務する。あまりにも辛すぎて、時間を14時までに変更してもらった。しかしそれも上手くいかず、業務時間が近付くと心臓の動悸が激しくなる。今日は勤務できないなと思ったら、遅刻の連絡を入れる。一旦は気持ちが前を向いてくれることを信じて、会社には迷惑でも1時間だけでも出勤することで自分の精神的な訓練をしてみようと思う。12時くらいまでどこかで時間を潰して、2時間だけ苦痛を耐え抜けばいい。そう思って毎日のように駆け込んだのがとあるチェーンの珈琲店だった。
コーヒーを飲みながら、自己嫌悪と戦う。なんで周りの人は当たり前のように勤務できているのに、俺はこんな短時間も我慢できないのだろう。弱い自分を見せて助けを求めるだなんて、なんてみっともないのだろう。そう思いながらも、何でこんなに苦しんで全身ストレスでじんま疹だらけなのに、欠勤連絡を入れた時、上司は「お大事になさって下さい」の一言を電話の最後に言ってくれないのだろう。そんな些細なことにも嫌な気持ちになった。「仕事に行けない」で検索をしてみると、大体は「行けていない自分を責めない」「辛いことは辛いと伝えて良い」などと書いてある。ふざけんなって言いたくなる。いくらだって責められるし、こんな自分が大嫌いだ。他人事だからそうやってそれっぽい寄り添い文句を言えるんだ。そう思った。でも、きっとその励ましの言葉が欲しくて検索している自分の性根を知っているから、なお情けない気持ちになった。
こう嫌なことばっかり考えていると、逃げる方法としては寝ることだ。12時までまだ時間がある。ならば、軽く目を閉じて珈琲店で仮眠を取る。迷惑のならない範囲で、時々起きて注文して繋いでいった。するとそのお店では、大変親切にブランケットを毎回寝ている僕のそばに置いてくれるのだ。混んでいない朝だからこそというのもあるだろうが、「ごゆっくり休んで下さい」と言ってくれる。その店員さんの温かい配慮に、涙が出そうになった。今日も朝から大嫌いな自分を責め過ぎないでいられるのは、この珈琲店のお陰だ。人生の逃げ道として、このお店があって良かった。
月の仕事のうち、5回くらいしか出勤できなかった。人生で一番仕事場へ行けなかった。それでも、明日こそは出勤できるようにと祈りながら自分を励まして叱って電車に乗った。遅刻の連絡を入れたあと、本当に職場へ行けたら自分を褒めてやった。遅刻の連絡を入れたあと、そのまま欠勤連絡を入れても必要以上に自分を責めるのをやめた。
軽度のうつと自覚のあるうちは治せると以前お医者さんに言われたこともあるし、乗り越えようと願う毎日だった。