ミンチストーリー
すまん、合い挽き肉が中で喧嘩してました。
なにとなに?
豚と鶏。
絶対豚のほうが強いじゃん。
本当にそうかな。質量で考えたら同じ質量でも鶏のほうがはるかに絶対数が多くなるでしょ。一匹対数十羽で鶏が先手を取って豚を一斉に攻撃したらどうなると思う? 大量のオニスズメが一斉にみだれうちするとこ想像してみ?
待ってくれ。鶏って数えるときって一羽、二羽でいいんだっ……あ、兎と間違えてた。
お前なに言ってんだよ。
ごめん。それってターン性?
おいお前、さっきからなんだよ。兎とかターン性とか。少しは真剣に考えろよ。
ごめん。
もー、謝るだけかよ。解決するためになにをすればいいのか、いま自分にできることはなにか、他人に任せなきゃいけないことはなにか、ちゃんと考えてんのかよ。いつもだれかがお前を助けてくれるとは限らないんだぞ。
ごめん。
またごめんか。もう! お前なあ――
……お前こそいい加減にしろ! 自分ひとりでなんでもかんでも一人でどんどんどんどん周りを見ずに先へ先へと進みやがって。……フガッ! みんながお前に合わせられるわけじゃないんだぞ。お前だって偉そうにしてるけど……フガッ! そんなにできるならもっと上を目指してこんなところ出ていけばいいじゃねえか。……できないんだろ。
……。
俺たちもこうやって喧嘩をしているうちに混ざり合ってしまって、いずれはハンバーグみたいになってしまうのだろうか。
この社会で、自分がなに者かもわからずばらばらになって、混ざり合って、それでもまだ自分は確固たる意志を持つ一人の人間だと、本当に思えるのだろうか。自分の意志というものは本当にそこにあるのだろうか。
ハンバーグになってしまったときに自分はハンバーグになってしまったと、自覚できるだろうか。もしハンバーグであると自覚できたとして、デミグラスソースをかけられたことに、バターひと箱使ったマッシュポテトを添えられたことに、グラッセしたにんじんがもっと前から添えてあったことに、すべてセットで提供されたことに気付けるだろうか。熱い鉄板の上でジュージュー音を立てていることに気付いているのだろうか。
俺は酷く赤面した。
ナイフが赤い生の俺ごと真っ二つにして、二股フォークが熱した鉄板に押し付けた。肉汁が滴る。
「召し上がれ」