気づいたら攻略対象になり、ポンコツ元妻に攻略されていました~生まれ変わってもポンコツ過ぎて目が離せません~
皆様のおかげで番外編ができました!ありがとうございます!
初めて会った時の印象は、「普通に可愛い、貴族のお嬢さん」だった。
僕はユージン・インマウント。今年10歳になる。父親はこの国の王族直属騎士団、団長。
俺は小さい頃からその後継になるべく、訓練をしてきた。
物心着いた時には懸垂やら腕立て伏せやらもやっていたが、幸い身体を動かすのは嫌いじゃない。むしろやりすぎて止められるくらいだ。
母親曰く「ユージンはハイハイも歩くのも早くて、力も強かったから、お母様では手に負えなくて…お父様にお願いしてたら、こんな…」
と諦観の表情で言われた。
「お母様、ぷにぷにの赤ちゃんが欲しかったのに…何故かしら、貴方5ヶ月頃から腹筋が割れてたのよねぇ…ぷにぷにというよりムキムキの赤ちゃんだったわ…」
恨めしげに言われても覚えてないのだからどうしようもない。
「まあ、お父様は騎士団長だし、そんな家に生まれてきてくれた貴方は最高の天からの授かりものね。私たちの元へ来てくれて本当にありがとう。」
そうやって抱きしめられるのは恥ずかしながらも誇らしい気持ちになった。
「母上、僕はもっと強くなりたいです。」
そう言うと、母は少し苦笑いして、お父様に相談してみましょう、と言った。そして、夕飯の時間、
「ユージン、おまえ、強くなりたいんだってな」
「はい、父上」
「そのために必要なものは守るものだ」
「守るもの?」
「そうだ。守りたいものがあれば、人はどこまででも強くなれる。私の場合、お前や母上、そしてなによりこの国を、主君を守るために強くなった。お前は何を守るために強くなる?」
「僕の…守りたいもの…」
守りたいもの、てなんだろう?
「守りたいものが何かわからないなら、これから考えろ。…とりあえずきっかけは作ってやる」
「きっかけ、ですか」
「あぁ、お見合いだ。」
「お見合い…」
そうして、ケイナ・トゥアロー伯爵令嬢とのお見合いがセッティングされたのだった。
「初めまして。ユージン・インマウントです」
そういうと、ケイナ嬢はポカンとした表情で僕を見ていた。
その表情がちょっと面白くて、笑ってしまう。
「よろしくね」
そういうと、ハッとしたように表情を引き締めて
「ケイナ・トゥアローと申します。末永く宜しくお願い致します。」
という丁寧な言葉と共に、綺麗なカーテシーが返ってきた。
母が
「あらあら、良かったわね、ユージン。もうお嫁さん決定ね。とてもいいお嬢さんで」
と言うので、頷き返す。末永くよろしく、という事は、この子はもううちに来る覚悟があるということだ。
8歳にしては同年代の子達より落ち着いてるな、とは思うけど、むしろその方がいい。それに、何となく、この子が
「守りたいもの」になる気がしたから。
そして、そこから親交を深めるための交流が始まった。
そこでは、少し不思議な体験をすることになる。
それは、ケイナ嬢が中庭へ案内してくれるというので、ついて行った時のこと。
「キャッ…」
ケイナ嬢が転けそうになり、思わず抱きとめて支えた時に、ほらやっぱり、と思ったのだ。
(?やっぱり?)
僕は、この子に会うのは初めてのはずなんだけれど、何となく、ずっと昔から知ってる気がするのだ。しかも、いつもこうやってこの子がつまづいたりするのをフォローしてた気がする…。
「ユージン様?あ、あの、離してくださいまし…」
「あ、ごめんね。大丈夫?」
ケイナ嬢を離しても、手に残る懐かしい感覚
「ユージン様?どうかしました?」
「いや、その、不思議な感覚だが、これが初めてではないような気がして…」
そういうと、ケイナ嬢は少し目を開き、嬉しそうに笑って
「じゃあ、いつも手を繋いでてくださいまし!」
と言って僕の手を取った。
「うん、これなら安心だ」
手を繋いだ時、確信した。
この子は俺が守る、と。
お茶会で出たのは、甘い甘いショコラケーキにぬるいコーヒー。
…僕の好きな物。
ケイナ嬢はこの前の顔合わせの時に見抜いていたらしい。…そんなに分かりやすかったか…?
男たるもの甘いものが好きだとはなかなか言い出せず、両親以外は言ってなかったはず。なのに、この子はたった1回会っただけで見抜いたというのか?すごい…。
そして
ケイナと出会って、早数年
俺たちは順調に親交を深めている。
そのせいか、不思議な体験が頻繁にあるようになった。
この子が持ってくる食べ物はどれも、懐かしく感じるのだ。
卵とほうれん草のキッシュ
アップルパイ
ベーコンエッグバーガー
お菓子以外の差し入れが多いのは、鍛錬中の俺に効率よく栄養を取らせるためらしい。
「ユージン様!またご飯も食べずに鍛錬してるんでしょう?差し入れですわ!」
何故かこんな風に狙ったように鍛錬場にやってくるケイナ。きっと家の誰かが告げ口してるんだと思う。
「ご飯食べないと筋肉は大きくなりませんのよ?まぁ分かってはいらっしゃるでしょうけど。…ここにお気に入りの、プロテインはないからなぁ…」
「ん?プロ…」
「あ、なんでもないですわ」
たまにケイナの呟きに混ざる意味不明な言葉。意味不明…なはずなのに妙に気になる。
ケイナは数年の間にどんどん成長して、女の子から女性へと変化していく。
喋り方も、立ち振る舞いも。
それに伴って、周りの目も変化して来てることに、ケイナは気づいていない。
ほら今だって。
鍛錬場には俺以外にも、父の部下の騎士団員達が鍛錬に来ていて、俺の鍛錬も付き合ってくれている。
昔は年配の人もいて、ケイナは子供扱いだったし、微笑ましい雰囲気しか無かったのに。
最近は若い団員も増えてきて、ケイナが来る度にそわそわとしてるもんだからめんどくさい。
「ケイナ、ここに来る時誰と来たの?」
「マーサとですわ。ユージン様とのお約束ですもの。1人で来ては行けない、と。」
「うん、そうだな。」
「それに、本当はユージン様が帰ってくるまで待とうとも思ったんですが…」
「腹がすいてるだろうから届けてあげてくれ、と」
「その通りですわ。そして、食べてから一緒に帰っておいで、と言われましたの。」
十中八九言ったのは母上だろう。お節介だなぁ…。
「いいなぁ、可愛い婚約者とか…」
「な。今日の差し入れなんだろうな。俺も食べたい」
団員たちの声が聞こえる。誰がやるか。
「分かった。今日はもう終わりだから、馬車の中で食べようか」
「はい!」
「あっちの椅子がある所で待ってて…あ、日陰がある所でだぞ。」
「はーい。マーサ、行きましょう」
「お嬢様、そちらは逆ですよ」
「…あれ?」
「なんでケイナはいつも逆方向に向かうかな…」
「うーん、まぁそこは生まれる前からなので仕方ありませんわ!」
生まれる前からの方向音痴…まぁそれなら仕方ないのかもしれない。うん。
全く…手がかかるなぁと思いつつも、一見しっかりしてそうに見えて、こう抜けてるケイナを見ると安心してしまうのも確かだった。
ちなみにこの日の差し入れは卵とベーコンサンドイッチだった。めちゃ美味かったけど、卵の量は半端なかったから食べるのに少し苦労した。よくこれだけ挟めたな…。
そして、俺が学園に入ると、まぁ当たり前のことだがケイナとの時間は激減した。
全寮制だし、長期休暇にしか会えないから当然だけど。
仕方ないのでたまの休日は騎士コースの奴らと遠乗りに行ったり、身体を鍛えたり、騎士団の訓練にまぜてもらったりしている。平日は主に生徒会の仕事と殿下の護衛。
「ユージン、お前、今何食べたい?」
生徒会室で、仕事をしていると突然殿下が話しかけてきた。
「…ケイナのケーキ」
「またそれか。そんなに美味いのか?マドレーヌより?」
学園での友人であり、鍛錬仲間でもあり、また将来の上司にもなるであろう第一王子、マクシミリアン殿下。
「将来の騎士団長殿か。俺の近衛騎士には興味無いか?」
と誘われているうちに、仲良くなった。何故だ。興味はないと言っているのに。
「あの人、断られると燃えるタイプなの。残念ね」
というのは、婚約者のエリザベス嬢談。
「俺には美味い。だが、マクシミリアン様には無理かもしれないな」
「という事は甘いんだな」
「あぁ。コーヒーとの相性は抜群だ。」
「へぇ…」
殿下には1度、ケイナがわざわざ休日に焼いて持ってきてくれたマドレーヌを渡した事がある。そのマドレーヌも美味かった。余計な雑味や嫌な甘さがないアーモンドとレモンのマドレーヌは鍛錬後のいい栄養補給にもなる。殿下にもとても気にいられた。渡すつもりは無かったが、1人見せびらかして食べるのか、と言われ仕方なく分けることにした。
ケイナに、友人に渡したら気に入ってたぞ、と言うと、帰る度にお土産としてパウンドケーキやレモンケーキなんかを沢山持たせてくれるようになった。
結局、騎士コースの友人達にもやっている。ケイナのケーキは友人達にも人気が高い。甘すぎないお菓子だからだろうと思う。
「ガッツリ甘いのはユージン様だけの特別仕様なんですよ」
という事だった。
「マドレーヌは美味かったなー。素朴な感じで」
「ケイナが作ってるので。」
「はいはい。入学後が楽しみだな」
「もちろんです。…そのためには下準備をしなければいけませんが。」
「下準備って…あれだろ?ケイナ嬢包囲網の事だろ」
「なんの事ですか?俺はただ、ケイナが安心して過ごせるように準備するだけですよ。
変なところに近づかないように
変なものを視界に入れないように。
そのために生徒会にも入ることに同意したでしょう?」
この学園では1年次から生徒会に入ることが出来る。マクシミリアン殿下はもちろん、婚約者のエリザベス嬢も入学と同時に生徒会入りをした。まぁ王族とその婚約者だもんな…。王太子は別にいるが、王族たるものこの学園くらいは纏められないと、ということらしい。そこで護衛担当として生徒会に入れと任命されたのが俺。護衛の他にも手が空いている時は学園内の風紀維持を行うことになっている。
あまり生徒会自体に乗り気でなかった俺が、「ケイナ嬢が変なことに巻き込まれてもいいのか?」という一言で、生徒会入りを決めてしまった。
そこからは腹を括って、学園内の風紀維持…むしろ風紀向上を行い、今ではどこを通っても安全で、風通しがいい学園となっている。
「それを囲い込みっていうんだよ…まぁこの1年で学園内の風紀はものすごく良くなったけどな。」
「ユージンって過保護なのね。そんなに婚約者が大事?」
くすくすと笑いながらエリザベスが尋ねてくる。
「そう…だな。もちろん大事というのもあるが…純粋に心配というか、ケイナは抜けてるから…」
「どんな風に?」
「まず、意気揚々と出かけていって、必ず目的地と反対方向に歩き出したり」
「あら」
「日傘と帽子の組み合わせが…とか言ってるそばから日傘を忘れてたり」
「お、おう…」
「何も無いところで自分の足に躓くし」
「ランチの時はハンカチを置いた直後に見失うし」
「猫を見れば絶対立ち止まって居なくなるまで動かないし」
「噂なんかを話半分に聞いて暴走したり勘違いで怒ったり」
挙げていけば本当にキリがない。
「勘違いで怒ったり…って喧嘩したの?」
「喧嘩ってほどでも無いですよ。ケイナと出かけている時にたまたま従姉妹のメイアンと会っただけなんです。本当に偶然。なのに浮気?!なんて言うもんだから。従姉妹だって伝えたらすぐに機嫌も直りましたけどね。」
「そう…確かにちょっとおっちょこちょいみたいね。その子」
「ポンコツなんですよ。本人は無自覚だし。目が離せなくて…。だから入学するまでにやれることはやっとかないと。」
「お守りも大変だなー。でも入学までまだ時間あるだろう?少しは遊ばないのか?ケイナ嬢は見てないぞ?」
そう言いながら俺の肩に腕を回してきたのは、2年から生徒会書記になる予定のコクスト侯爵子息であるオニキスだ。
オニキスは婚約者がありながら数々の女生徒と浮名を流しているが、将来の側近候補でもある。
「オニキス…ユージンはお前とは違うんだ」
「んー、でも勿体なくない?婚約者の目がない今がチャンスだよ?」
「遊ぶと言ってもな…騎士コースの奴らと遠乗りにいってるぞ」
「いや、そうじゃなくて…あぁもう!ほら行くよ!」
「どこに…」
「いいからいいから」
オニキスに引き摺られて向かったのは交流サロンだ。
日々色んなテーマで交流がなされている。
人脈作りのために参加したことはあるが…
「キャー!オニキス様!」
「や、子猫ちゃん達」
「あら、そちらはユージン・インマウント様では?!」
「そうそう。連れてきてみたんだ。会ってみたいって言ってたろ?」
「ありがとうございますぅ!あの、インマウント様、私、ずっとインマウント様とお話したいと思っておりましたの」
「あ、あぁ…どうも。えーっと、それは、何故?」
「遠くで拝見して…」
「淑女コースと騎士コースでは交流がない限り見かけることは無いはずだが」
「殿下と一緒におられた所を…」
「あぁ、なるほど、殿下への取次なら俺に言っても無理だぞ。エリザベス嬢からも言われているし」
女生徒の扱いが分からない俺は、女生徒関係の取次は全てエリザベス嬢に任せている。
「いえ、そうではなくて」
「インマウント様!最近の風紀について少し相談したいことがありますの!」
「インマウント様!私も!」
「私もですわ!」
あっという間に女生徒から取り囲まれてしまった。
「こんなに相談があるなんて…もっと取り締まりを強化するべきか?」
「いやそうじゃないだろ?!お前誘われてるんだよ!」
「何に?」
「何に…って…はぁ。」
もういいよ…と言ってオニキスは俺の肩を叩く。結局、よく分からないうちに交流会が終わった。
それからも何度か女生徒から声をかけられることがあった。
「学園の中庭で不審なものを見つけた」
「風紀について相談したいことがある」
「不安だから一緒にいて欲しい」
…流石に俺一人で全てを捌ききれることは難しくなって、風紀顧問に相談し、学園側から専用の職員を各所に配備してもらうこととなった。これで安心して学園生活をおくれるだろう。
「いや、皆お前と話したかっただけだと思う…」
マクシミリアン殿下が呆れたように言っていたが、それならそうと言ってくれないと分からない。まぁ話すことはあまりないから別にいいが。
「ユージン、知ってるか?お前、優良物件として人気だぞ」
「優良物件?」
「騎士コーストップの成績を誇り、お父上は騎士団長。それにマクシミリアン殿下の護衛をしてるとなれば将来は安泰ですもの。それに、お顔も整っているし。おまけに面倒見もよく、顔も広いとなれば…ね?」
「俺には婚約者がいるんだが…」
「まだ婚約者は入学前だろ。だから今のうちに、ってことだ」
「へー…うーん、まぁ…ないな。入学前にしっかり釘さされてるし…」
「刺されてるし?」
「俺は折れそうな腰や手足に興味はない」
「あ、そう…」
ケイナも少し目を離すとダイエットしようとするので困る。
あ、その対策もしておかなければな。ケイナは今のまま少しふっくらしている方がいい。
そして、2年に上がる直前のこと
「ユージン、紹介する。新しく生徒会に加入するニコラウスだ」
「会計を担当します。父が財務大臣で、私も将来財務大臣を目指しています」
「会計担当…ニコラウス…ニコラウス・ハーメット?」
「おや、私のことをご存知で?…ユージン・インマウント君、でしたね。よろしくお願いします。」
切れ長の瞳に、黒縁メガネのポーカーフェイス。すらっとした長身。
ーこのね、切れ長の瞳がね、ふとした瞬間に大きく開いたり、柔らかく下がったりした時の笑顔がたまらないの!
こいつ…元妻の推しキャラじゃねーか!!
俺の頭の中に生まれる前?の記憶が怒涛のように流れた。
ー…さんはそんな細い目がいいの?
ー細いって…切れ長っていって!現実にいたらちょっと怖いかもけど、二次元だからいいの!それにこの目が柔らかくなった時がもう…カッコよくって。
ーへー、こっちは?
ーユージン?ちょーっと色々めんどくさいけど攻略しやすかったかな。…さんはこっちタイプだよね。筋肉とか(笑)うーん、悪くはないけど、婚約破棄してまでこっちに来るってのが私はちょっとなぁ…。その点、ニコラは婚約者もいないし!
え、待て。じゃあ俺は元妻がやってたゲームに生まれ変わったのか?!
頭の中を前の世界の会話と、今の世界での記憶がグルグル回る。
「ユージン?どうした?ユージン」
心配そうにマクシミリアン殿下に声をかけられる。ハッとした俺は、慌てて意識を今に向けた。
「あ、あぁ、すまん。俺はユージン・インマウント。ユージンと呼んでくれ」
「では私のこともニコラと。よろしくお願いします」
「よろしくニコラ」
その日の終わり、俺は部屋で頭の中を整理していた。
ここは生まれる前の日本で妻がやっていた乙女ゲームの中だ。その中でも初期メンバーと言われる攻略対象の中にいたユージン・インマウント…。
確か妻はなんて言ってたっけ。
ーユージンには妹みたいに思う婚約者がいてね、大事にしてるんだけどあくまで妹だからさー。恋愛対象じゃないわけ。だからかな?ヒロインと恋に落ちると、親密度MAXになって婚約破棄を決めるまでキスも何もなし!良くてデートしたり、何かの拍子に転けて抱きとめられてラッキー、くらいのほんと初心者向けというか、お子様向け攻略対象みたいな?
…婚約破棄された後の婚約者?…さぁ、そこまでは書かれてないな。どっかの誰かとまた婚約するとか?
もしかしてケイナが…婚約破棄される妹みたいに思う婚約者ということか。だから、あんなに必死だったのか?
『ちゃんと、結婚してくださいまし!』
顔を赤くしながら必死に言うケイナが可愛かったなぁ…としみじみ思い返していると
「…ていうか、そもそもケイナって…元妻じゃないか?」
ふとそこに考えが行き着いた。
ケイナが最初に出してくれたショコラケーキとぬるいコーヒー
どっしりとした甘いパウンドケーキに、タンパク質多めのキッシュ
俺が好きだったものばっかりじゃないか
「生まれ変わっても好みは変わってないってことか…」
苦笑いすると同時に今まで以上に湧き上がってくる愛しさ。
今までも、婚約者として大切にしてきたが、どちらかと言うと世話がやける妹としての感情もあった。それに愛しさが追加された気持ちだった。
「生まれ変わってもポンコツ具合は変わらないなぁ…」
まったく、ほんとに世話がやける。けれど、嫌じゃないどころか、これまでの違和感が解消されて、スッキリした感じがある。
さて、ケイナが入学してくるまであと少し。ケイナの事だ、ヒロインのこととか色々考えてそうだから、もう少し黙っておこう。その方が…面白くなる気がするし。
そしてケイナが入学。
「ユージン様!」
「お、入学おめでとう!ケイナ」
「ありがとうございます。これ、マドレーヌとクッキーです。」
いつものように朝から作ってきたのだろう。何時に起きたんだか分からないが、昔のように簡単ではなさそうだ。
「お、ありがとな!」
そういうと素直に笑顔をうかべる。うん、感情が素直に顔に出るところは変わってないな。
それから、殿下たちにお菓子を分けていたことをしったケイナが慌てていたりしたけど、それは些細なことだ。
「ケイナ、よく迷わず来れたな」
「寮から出てくる人達に着いてきたら大丈夫でしたわ!」
えへん!と胸を張るケイナ。
「全然迷わなかった?」
「ま、迷いませんでしたわ。…校門までは」
「校門から迷ったわけだ」
「…他の人に着いて行ったら…先輩方を追ってたみたいで。新入生は別の入口でしたの。お父様たちとは入口で合流しましたわ。…終わったらさっさと帰ってしまって…」
「まぁ、俺と合流できたから良かったな」
ぽんぽんと頭を撫でれば、そうですわね!と直ぐに切り替えた。
「で、今から教室?」
「はい!」
「何処の??」
「えーっと、私は淑女コースなので…なので…」
「……はぁ」
「あっちですわ!」
「じゃあこっちだな。」
俺はケイナの手を取り、さっきの逆方向に歩き出す
「なんでですの?!」
「ケイナの目的地はほぼ確実に最初に選んだ方の逆方向にあるから」
自覚があるのか、大人しく着いてくるケイナ。
「あの、、手を…」
「離したらどっかフラフラ行きそうだからダメ」
「う…」
「それにいつも繋いでようって約束だろ」
「それはそうですけど…注目されると恥ずかしいというか…まぁ嫌じゃないんだけど…」
「とりあえず慣れるまでは一人で行動するなよ。朝も迎えに行くから」
「はぁい。」
それから毎日の送迎は定着させた。ケイナの友人達にも挨拶して、移動教室の時はよろしく、と言うと「お任せ下さい!」といい返事が返ってきた。
あとは…と
「あれの対処か」
そこには、ピンク髪の女生徒に引っ付かれて、抵抗しつつも満更では無さそうなニコラがいる。
「ニコラって…ツンデレキャラで最初は冷たい目でヒロインを遠ざけようとするけど、図書館とかで必死に勉強するヒロインを見て態度を軟化させる…んじゃなかったか?」
そのために図書館に通いつめるの!ってケイナが言ってた気がする。
けれど、あの態度を見る限り、その段階はとっくに過ぎてる気がする。
おいおい、まだ入学式終わって1週間かそこらだぞ。大丈夫かニコラ。
ちなみに、俺は中庭の見回り中、子猫と戯れるヒロインらしきピンク髪の女生徒を見かけたが、そのまま声をかけず構内整備職員に猫の保護を頼んでおいた。チラッチラッとピンク髪が見てた気がするが、話しかけられていないので知らない。
ニコラとピンク髪から距離を取ろうとしたとき、ピンク髪が俺の事に気づき、ぱあっと顔を輝かせた。あーー…見つかった
「あ!ユージンだ!」
いやいや、名前教えてないから。しかもケイナさえ呼び捨てにしないのにお前が呼ぶなよ。
「校内の見回り?いつもお疲れ様!あ、これ、クッキー!私が作ったの!お腹すいてるでしょ?食べて?」
「…いや、大丈夫だ。ちゃんと持っている」
「持ってる?」
「あぁ。婚約者が作ってくれたやつがな。…じゃあ、そういうことで」
こいつとはさっさと距離をとるに限る。何となく、ケイナから聞いていたヒロインとは違う気がするし…嫌な予感もする。
「どういうこと?ここで断られるとか…そんなん攻略サイトにもなかったんだけど!…どうにかして食べさせないと…」
それからしばらくして、ニコラとオニキスがおかしなことを言い出した。
「生徒会に新しく入れたい子がいる?」
「そう!ユリア・ハーヴェイ男爵令嬢なんだけど」
「…成績優秀者でもなかったようだけど、なぜ入れる必要があるのかしら?」
エリザベス嬢が不審げな表情になる。
「ほら、エリザベス嬢だって、一人で女子ってのも寂しいでしょ?」
「それにユリアは最近貴族入りしたばっかなんだけどさ、早く慣れるためには生徒会に入って、色んな人と交流した方がいいって!」
「それに、ユリアなら平民と貴族の架け橋にもなり、今まで以上に皆をまとめやすくなるかと思います。」
それを聞いてちょっと乗り気になっているマクシミリアン殿下
「そうか…どう思う?ユージン」
「俺は反対だな。そもそも平民と貴族では常識も礼儀作法も何もかも違う。その違いも分からず、やみくもにやっても無駄だ。そもそもここの学園内に平民はどのくらい居る?別に平民を馬鹿にするとか、見下すという訳じゃないが、住む世界ってもんがある。平民と貴族は同列ではないんだ。それぞれの役割ってもんがあるんだよ。」
大体、貴族やらなんやらがなかった前の世界でさえ、庶民やセレブだと住む世界が全く違ったんだ。
まぁその他にもヤーさんの世界とかはまた90度違った世界だったけどな…。なんで俺は一般庶民なのにあんなのに関わってたんだろう…謎だ。
とにかく、下手に違う世界に飛び込んだらただでさえ苦労するのに、わざわざ面倒くさいことさせるなよってことだ。
平民は平民で大変だろうけど、貴族は貴族で大変なんだからな。
まぁ、あのピンク髪はそこまで考えてないだろうけどな。
脳内までピンクみたいだし。
「私もユージンと同じよ。別に今のところ困っていることは無いし、……赤ちゃんに仕事を頼む人は居ないでしょう?」
「…そうか」
エリザベス嬢が怖い。まぁ、とりあえず賛成と反対が同数ということで、このことは保留となった。
「さ、ユージンが持ってるケイナ嬢のお菓子でも食べて休憩にしよう」
「なんで分けること前提ですかね…俺が食べてからですよ」
「ケチ」
「毒味も兼ねてますから。」
そこからは何事もなく仕事がすすんでいった。
そしてある日のこと。
「なぜいる」
「あ、やっほーユージン!」
生徒会室の扉を開けるとピンク髪とニコラとオニキス。
殿下とエリザベス嬢は不在のようだが。
「ユリアが1度生徒会室を見てみたいってさ!見学くらいいいだろ?」
「重要な書類もあるのに?」
「大丈夫。そこら辺はきちんとしまってありますから」
「生徒会室でお茶会か?そこまで暇なのか?」
「そんな言い方ないじゃない!ちょっとした休憩よ。ほらクッキー!美味しいよ?」
またクッキーか。
「要らない」
「一口だけ!一口だけでいいから、ね?」
「ユージーンー。女の子のお願いは聞くもんだぜ?」
「何が入ってるか分からないものは食べない。…殿下には食べさせてないだろうな?」
「殿下なぁ…エリザベスが横から口出しするからなかなか食べないんだよ。な、ユリア」
「そう…寂しいの。私はエリザベスさんとも仲良くしたいのに…」
「エリザベスさん、じゃない。エリザベス様、だろ。男爵令嬢なんだから」
「でも、学園内では平等だって聞いたわ!」
「平等を履き違えるな。身分が無くなったわけじゃない
」
「ユージン…どうしたの?貴方まで身分にこだわるの?あっ!もしかして婚約者の影響?!めっちゃ差別主義者とか?!可哀想ユージン…」
「お前に何がわかるんだ!」
ケイナを侮辱され、つい大きな声を出してしまった。
…だめだな。冷静になれ。
「今日は仕事にならないようだから帰る」
「え、さっき来たばっかじゃん」
オニキスの言葉を無視して、生徒会室を出て隣の図書室に入る。
「ケイナ」
「あれ、ユージン、早いね。まだ本を選んでたよ?」
ふんわりと笑うケイナにさっきカッとなった心が落ち着いてくる。
「ちょっとな、今日は中止だ。」
「殿下の護衛はいいの?」
「殿下はエリザベス嬢と出かけているらしい」
「そっか。じゃあ帰ろっか」
本を戻して、手を繋げば、そこには安心感しかない。
「なぁケイナ」
「ん?」
「クッキー食べたい」
「また?うーん、今度はイチゴ練りこんで見ようかな」
「美味しいのを期待してる」
「はーい」
俺たちが帰っていると、視界の端にチラチラとピンクが映る。
「ケイナ、今日はこっち行こう」
「ん、わかったー。」
最近はピンクのせいで進路変更を余儀なくされることが多い。
しかも、なんか知らないが泣き真似をしてる事もあるのだ。
めんどくさい予感しかしないから近づかないけど。
「どうかしたの?」
「なんでもない。どぎつい色した虫がいただけ」
「え、どんな虫?」
「ゴ…「やだそれ嫌い。早く行こ行こ!」
「あぁ」
とりあえずピンクは不審者として職員に通報だけしておこう。うん。
しばらくして、ニコラ、オニキスはもちろん殿下までもがおかしくなってきた。
エリザベスがいない時を見計らってピンクがやって来てクッキーを食べさせたらしい。
マジかー…
「てかクッキーしか持ってこない、そのクッキーを食べてからおかしくなるって…そのクッキー怪しすぎるだろ。」
「そうでしょ?最近じゃ私が1枚くださいな、って言っても警戒して渡さなくなったのよ。まぁ食べるわけないんだけどね」
エリザベス嬢がはぁ、とため息をつく。生徒会室にはもう俺とエリザベス嬢しか来なくなってしまった。俺も分からないなりに何とかしたくて、最近は風紀は管理職員に任せて事務作業ばかりしている。それでもエリザベス嬢の仕事量は半端ない。だがそれをあっという間に片付けていくのだから、エリザベス嬢の能力の高さが窺えるというものだ。
「礼儀指導をしても変なふうに解釈されたり、反発されたり…どうしようもないわね」
「安全管理職員たちはなんて?」
「上の方には報告しておいてくれるそうよ。変なウワサが立っても困るもの」
安全管理職員とは、その名の通り校内の安全を監視している職員達のことだ。風紀を徹底する時に配備され、校内いじめや、強要、過度な淫行などが激減した。その職員が誰かというのは俺しか知らないが、そういう職員がいるということは生徒に通達されている。もちろん、健全な男女交遊くらいは見逃されてはいるが、あまりにも度を越した場合は学園長はじめ、親にも連絡が行き、最悪退学処分にもなる。
貴族学園を退学になったりしたら、貴族失格の烙印を押され、そこから先はお先真っ暗。親の事業にも多大なる影響が出るため、滅多にそんな生徒は出ない。
だが今回は分からないな。
「マクシミリアン殿下も…あんまりオイタが過ぎたら…どうしようかしら」
「怖っ!まさか捨てる…とか」
「まさかー!あんなでも王族だもの。王太子じゃないとはいえ第1王子。黙ってても公爵にはなれるくらいの方よ。ただ…その地位に見合った能力なしとなれば、ね?色々考えるでしょう?」
「…そうか。」
「ふふっ今からは女性も活躍する時代だもの。頑張るわ」
「まぁ頑張るのはいいが、少し休憩しないか?」
「いいわね。あら?また婚約者の差し入れ?美味しい?」
「あぁ。フィナンシェというそうだ。食べるか?オススメはアーモンドだ。プレーンも美味かったがな」
「あら、ありがとう。いただくわ。お茶入れるわね。」
「いや、俺が入れよう。美味いかは別として、少し休むべきだ」
「ふふ、助かるわ。ケイナさんに嫉妬されそうね」
「愛がこもってるわけじゃないから大丈夫だろ」
「ふふふっ!そう言う問題?」
とりあえずケイナには今度心を込めてお茶を入れてやることにしよう。
「美味しい…!」
「疲れてるからな。こういう素朴なのがいいよな」
「安心する味だわ…ほっとする。また頑張れそう」
「そりゃ良かった」
ケイナのお菓子はどれも「素朴」だ。豪華ではなく、華やかでもない。でも、安心する味で飽きがこない。
俺はフィナンシェの最後の一口を口に入れるとまた仕事に戻った。
それからはケイナと過ごしつつ、ピンクを警戒する日々が続いた。
生徒会は辞めた。
あまりにもピンクが何処でても殿下やオニキス達とイチャつくので、注意したら、風紀担当を変えられたと言った方が正しいだろうか。最近、安全管理職員もあまりの殿下の変わりように困惑している。国王に報告すると言うので、クッキーの事と、薬物の可能性についても報告をお願いしておく。
俺自体は悪いことをして辞めた訳では無いので進路に影響が出る訳では無いのだが、ケイナが心配して市井に下るための勉強をするとか言い出した。
やっぱりケイナだ。俺が市井に下る時は迷わず着いてきてくれるつもりらしい。まぁ、そんなことにはならないけど。
乙女ゲームなのに、裏側はこんなもんなのか…薬の力で無理に手に入れても面白くないんじゃないか?と思うが、俺には関係ないな。
「ユージン!」
…だが、何故か性懲りも無く俺に声をかけてくるピンク
無視をしようとしたが、ケイナが「呼ばれてますわよ?」と言うので仕方なく相手することにした。
「何か用でも?」
「ほら、最近生徒会に来ないじゃない?心配して…」
お前に心配されたくはないがな。
「俺は生徒会を辞めたから関係ない。それに他人に対していきなり呼び捨てにしたり、敬語も使えないような人と知り合いではないし、なりたくも無い。」
「え、で、でもそれは…」
「ユージン、それはないんじゃないか?言い方ってもんがあるだろう?ユリアはまだ貴族になって日が浅いんだ。大目に見てあげてもいいだろう?」
後からゆったり来た殿下の後ろにサッと隠れるピンク。その様子にもイラッとする。
「お言葉ですが殿下、庶民から貴族になったなら尚更、まずは礼儀や貴族の常識を身につけるべきでは?生徒会に入るからにはそれ相応の実績も必要になってくるのに、そんな様子では殿下の評判にまで関わってくるというもの。それを認識した上での発言でしょうか。」
「ここは学園だぞ?その礼儀や常識はこれから身につけていくものだ。そのために学園で学ぶのだろう?」
ダメだな…殿下はこの学園の意義や趣旨を取り違えている。前はきっちり分かっていたはずなのに。…理解力が落ち、記憶が抜けてるのか?これも報告しておこう。
「それでも最低限、学んでおくべき礼儀がありますよ。…行こう、ケイナ。これ以上は無駄だろう」
「あ、はい…御前失礼致します、殿下」
ケイナは大人しく俺についてくる。何か考えながらボソッと
「キラキラが減ってたもの…」
とつぶやいた。
「殿下の?」
「ええ。前はあんなにキラキラしてたのに。でも目に優しくなったというより…」
「輝きが失われた?」
「ユージン様!不敬ですわ!…そんな感じですけれども!…何があったのでしょうか」
やはりケイナの目から見ても殿下達はおかしくなっているみたいだ。
やはり、あのピンクのせい…だろうな。
そこから、エリザベス嬢に会って話したりしたが、ケイナは終始エリザベス嬢に対して緊張していた。
ただ、エリザベス嬢はケイナに対してはすごくフランクに接していたから、やはりお菓子の効果もあるのだろう。
後から「いい子じゃない。ちゃんと守ってあげなさいね」と言われた。
結局、そこからはほぼ毎日の鍛錬やケイナの送迎、一緒に過したりして、たまに友人と過ごしていたりすると、あっという間に卒業を迎えることになった。
卒業パーティには婚約者が居ればパートナーとして連れて行けるようになってるというので、ケイナに翠色のドレスをプレゼントした。ポケットチーフには碧。お互いの瞳の色だ。
これで婚約しているということを示すらしい。
日本だったら真っ黒だったろうな…。
そして卒業パーティの最中、いきなり始まったのはエリザベス嬢への断罪だった。
「ユージン様…エリザベス様が……」
「大丈夫大丈夫」
ケイナの手をぎゅっと握る。どうせ管理職員が上に報告してるんだけど。
「そしてケイナ・トゥアロー!」
「は、はい!」
「貴様にも同じ容疑がかかっている!」
同じ容疑ってなんだよ。ピンクへの嫌がらせか?馬鹿か?バカなのかこいつら。
「え?あの…その方と話した事もないのですが、なんの容疑でしょう…?」
俺がピンクを近づけなかったからな。
「しらばっくれるな!」
「いやあの…しらばっくれるも何も…そもそも、もし嫌がらせするとして、何故嫌がらせをしなきゃいけないんですしょうか?」
「何故、とは?」
「先程のエリザベス様の場合は、マクシミリアン殿下との仲を嫉妬して、でしたが、私の婚約者であるユージン様はこの通り私のそばにいますし、朝夕はほぼ一緒に行動してました。昼のお食事も。だから私はもとよりユージン様もその…ユリア…様…に会いに行く暇も無かったというか…」
「会いに行く気も必要性も全くなかったからな」
むしろ全力で避けてたが何か?
「そんな…!あたしは所詮平民だからって見下して…!…っそうやってユージンの事も自分から離れないように縛り付けてるんでしょう?ユージンが可哀想よ!もう解放してあげて!」
「…縛り付けてる?縛り…縛ってる?ん?」
私、縛ってますか?って言う目で見てくるので、無言で首を横に振る。むしろ縛ってるのは俺の方かもな。
「別にケイナに縛り付けられている訳では無い。むしろ俺が縛り付けている」
「ユージン様…」
「俺の婚約者はしっかりしてるように見えてポンコツ…んんっ…ぼんやりしているからな。しっかり俺が見とかないと、どこで転けるか分からない。」
ちょっと目を離すと迷うし。変なもんに引っかかるし、余計なもの欲しがるし、訳分からん所で落ち込むし……ってまあここら辺は置いといて。
「で、でもそれは婚約者としてというより妹みたいな感覚でしょう?そんないつも見ていなくても…」
「妹としてなど、見たことは無い」
「「え?」」
ケイナとピンクの声が重なる。なんでケイナまで驚くんだよ。
「会った時から今まで、ずっとそばで守りたい、たった1人の婚約者で、俺の大切な人だ」
それこそ、生まれる前からな。
「な、な、なんなのよ!なんなのよなんなのよ!ここではあたしがヒロインなのよ!チュートリアルライバル如きがしゃしゃり出て来てんじゃないわよ!」
ヒロインならヒロインらしくしろよピンク……
「ユージン様1人居なくても、ユリア様にはマクシミリアン
殿下も、他の方も居らっしゃるではないですか」
「それじゃダメなのよ!全員揃えないと隠しキャラが出てこないのよ!」
「隠しキャラ?」
「そうよ!王太子、エドワード王子よ!」
その言葉にざわっと会場がざわめく。
そうか、真の狙いはエドワード王太子だったということか……。マクシミリアン殿下達はたんなる踏み台、と。
「なんで全員集めたらエドワード王子が出てくるんだ?」
あの方は王宮から基本出てこないはずだが。
「全員の親密度がマックスの逆ハーレム状態で王宮に上がるのが出会いイベントの条件だからよ!だからユージンが居ないとダメなの!」
「でも今の段階でユージンの親密度は多分ゼロですけど、どうするんですか?」
「そんなの、このクッキーでどうにでもなるわよ!この課金アイテムの「魅惑のクッキー」でね!」
課金アイテム、か。このピンクも転生者だったようだな。だが、頭は良くない。
わざわざ金をかけて犯罪者になるんだからな。
「よく、分かりました」
音の発信源はエリザベス嬢だった。
「皆様もお聞きになられましたわね?そこにいる女生徒、ユリア男爵令嬢は違法な薬を練りこんだクッキーをマクシミリアン殿下達に食べさせて、意のままに操っていた…そして今度は王太子であるエドワード王子にまで害をなそうと策略しておりました。これは立派な国家反逆罪ですわ!衛兵!」
エリザベス嬢の号令に合わせて衛兵が動き出す。
当たり前だろう?違法な薬物を使って王族を操るなんて……典型的な国家反逆罪。処刑ものだ。しかも、今回は平民が貴族になってすぐの出来事……むしろ国を害すために貴族になったとさえ言えるだろう。ということはピンクだけじゃなく、迎え入れた男爵家及び協力者全てが同罪ということ。運命を共にすることになるだろうな。そこに平民も貴族もない。
良かったな。お前が好きな『平等』だぞ。
結局、ピンクを含め、殿下やニコラ、オニキスや俺の代わりに風紀担当になった奴も衛兵に連れられて行った。
卒業パーティは微妙な空気になったものの、エリザベス嬢が仕切り直し、何とか無事に幕を下ろした。
俺はそのまま騎士団へ入団し、がむしゃらに働いた甲斐があり、大隊長まで昇進した。
コネの力も多分にあるだろうことは分かっているが、これで堂々と迎えに行けるのは確かだ。
ケイナの白いドレス姿は綺麗としか言いようがなかった。
俺たちが結婚するのは2度目だな。
「結婚して最初は何を作りましょうか?」
ケイナが聞いてくる。
そこはやっぱりアレだろう。
「ショコラケーキ。誕生日とかに必ず作ってくれたやつがいい」
「本当にお好きですよね」
「この世界に来る前からな」
そういうと、ケイナが少し目を見開き、
「餌付け成功ですね?」
とイタズラ気味に笑った。
「これからもよろしく」
というと、こちらこそ、と返された。
後日談
「そう言えば、お前の推しはニコラだったろう?俺じゃなくてニコラが良かったんじゃないのか?」
「いやいや、ニコラ様は遠くで見たら満足なの。それに前世でも私の最推しは息子と貴方だったでしょ?最推しが目の前にいるのに、他所にまで行けるほど器用だと思う?」
「うん。無理だな。全く逆方向行きそう」
「そうでしょ。いいのよ。私は最推しが居てくれれば全て幸せなんだから」
そうやって俺に身を寄せるケイナ。
「それに……」
「ん?」
「ポンコツな私の面倒を見れるのは貴方くらいでしょ?」
「違いない」
俺は生まれ変わってもポンコツな妻から、目が離せないようだ。
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