招待
半年ぶりです。明けましておめでとう!(全てが遅すぎる)
「皆さんお疲れ様でした〜」
全ての試合が終了し、ロベルトが最後までやる気のない声で労いの言葉をかける。
「とりあえず今日のところはこれで解散になります〜。入学式で疲れていると思いますのでゆっくり休んで、また明日から元気に学校に来てください〜」
いい終わるやいなや扉が出現し、その向こうには教室がみえている。
一度見たからか疲労からか、もう驚く生徒はおらず、近くにいたものから扉に入っていく。
そんな中、グレンはアリサに声をかける。
「今日は疲れたと思うからゆっくり休めよ。特訓は明日から始めるから、しっかり寝るんだぞ」
「はい。あの、何か今日のうちにやっておいた方がいいことってありますか?」
「だからゆっくり休めって。しっかりご飯を食べて、しっかり寝る。それだけ」
「はい」
アリサは待ちきれないとばかりにソワソワしている。次の日から正真正銘地獄の特訓が待っているとは知らずに…。
***
翌日、グレンが教室に入ると、もうすでに仲良くなったのであろういくつかのグループがおしゃべりをしていた。
といっても、その内容はとても楽しいおしゃべりとは言い難いものだった。簡単に言えば、上のクラスにバカにされたという内容だ。
"色無し"という言葉はこの学園における最も屈辱的な差別用語だ。特にAクラスやBクラスには貴族のみが在籍しており、下のクラスを蔑むことで、Sクラスという自分達より上の存在から目を背け、自尊心を保っている。そのため、底辺クラスのGクラスはそういった輩のストレスの捌け口にされる。そしてそのGクラスの制服には、クラスの識別のためにつけられる線に色がない。そのため"色無しと"呼ばれるようになった。
話しをしているクラスメイトは早速他クラスから侮蔑を受けたらしく、暗い顔をしながら愚痴をこぼしていた。
『朝から嫌な話聞いちまったぜ』
そんなことを思いながら教室を見渡していると、アリサの姿を発見した。
そしてその隣の席に腰を下ろす。
「おはよう」
「おはようございます」
この学園の教室は一番前に黒板と教卓があり、それを囲むように半円状に、後ろにいくにつれて高くなるように席が並んでいる。そのため、席順は指定されておらず、ある程度自由に座ることができる。
アリサは全部で六列ある席のうち前から二番目の列の真ん中あたりに座っていた。そこに授業を真面目に受けようという、アリサの真面目な性分が表れている。
グレンは、すでに最初の授業の準備を済ませているアリサに真面目だなぁと少し苦笑しながら問いかけた。
「昨日はしっかり休んだか?」
「はい、おかげ様であたまスッキリです!」
ニッコリと笑いながら明るく答えるアリサに少しドキッとしながら言葉を続ける。
「よし、じゃあ約束通り今日の放課後から特訓だ」
「はい!よろしくお願いします、グレン君!」
どこまでも元気そうに答えるアリサに和みながら、早く放課後にならないかな、と少し思いながらそれに応えるグレン。
彼は知らなかった。この先に地獄の授業が待っているということを…。
***
放課後。すでにグレンは力尽きていた。真っ白に燃え尽きていた。
授業が難しかったのだ。この学園は王都立というだけあって教師のレベルも高い。そのためグレンでも理解はできた。しかし、理解できるといっても簡単というわけではない。
今まで、筋肉ばかり鍛えて脳をあまり鍛えてこなかったグレンにとって、"魔法理論〜入門編〜"という、初心者にとても優しくわかりやすいと評判のテキストですら、真っ白に燃え尽きるに値する難しさだった。
隣に座ったアリサが遠慮がちに声をかける。
「あの、大丈夫ですか?その…真っ白ですけど、それって大丈夫な状態なのですか?」
優しい子である。
「ああ、大丈夫だ。ちょっと一回真っ白になってみたかっただけだから」
「ちょっとよくわかりませんけど、ならよかったです」
そう言ってふんわりと微笑むアリサをグレンは直視出来なかった。
わけのわからないことを言った数秒前の自分を殴ってやりたかった。それと同時に、この女神のごとき微笑みを引き出した数秒前の自分を抱きしめてやりたかった。頭を撫でて握手を交わし、永遠の友情を誓いたかった。
そんな感情の比重が偏った葛藤を押し退けつつ応える。
「よし、じゃあ特訓を始める。と言いたいとこなんだけど場所どうしようか」
「確かにどうしましょうか。どこか候補はありませんか?」
「いや、パッと思い浮かばないな…。ごめん、特訓の内容ばっか考えてて場所とかすっかり忘れてた」
「気になさらないでください。特訓していただけるだけでも十分ありがたいですよ。そうですねぇ…なら、我が家はどうですか?」
「…え?」
「その、これでも一応貴族ですし、かろうじてお庭と呼べるだけの敷地もありますし、あの、嫌ならそう言っていただいていいのですが…」
「行きます」
食い気味に答えたグレンに目をパチクリとさせるアリサ。
「あの、無理なさっているなら別に…」
「行きます行かせてください」
なおも食い気味に答えるグレン。アリサは少し驚きながらも微笑んで言う。
「わかりました。我が家にご招待しますね」
グレンの冒険が、今始まるーー!
始まりません。グレンの冒険は始まりません。
でも、もしかしたら…?




