八話:焚火の前ではみな素直
あらすじ
山登りに連れてこられた生徒たちは、突然ワープ魔法で山のどこかに飛ばされる。
「……」
「……」
「……」
「……」
「あの、いいかしら……」
「……どうしたの?」
「ぷりぷりお尻大バーゲン」
「なにそれ?」
「わかんないわ。頭に浮かんだのを、直接言っただけだから」
「そっか」
「ごめんなさい」
「ううん」
「……」
「……」
「……」
「……」
深夜。ぼくらは薪を囲んで体育座りをしていた。
心身ともに疲弊しきって、呆然と火を眺めている。
下山しようと頑張った。
でも、魔獣と出くわしたり、切り立った崖に出てしまったり、山道で数メートル転んでしまったり、散々な目だ。学校に近づいている様子はまったくない。
「おれ、トイレ」
健次郎はそう言って、飲み干した水筒を持った。
「なにするの?」
「万が一のために貯めておく」
「ええ……」
「軍隊の特殊部隊が結構やるらしいからイケるだろ……」
しばらくすると、健次郎が虚ろな目で帰ってきた。
「どうしたの?」
「マズかった」
「え?」
飲んだの?
すると、来夢がいきなり立ち上がって、「ねぇ、そろそろ休憩終了にしよ」と言った。
「無理だよ来夢。こんな暗かったら、余計に迷っちゃう」
「じゃあどこで寝るの? まさかここじゃないでしょ?」
「野宿するしかないよ」
「絶対に嫌。不潔だし、ベットもないのに耐えられない」
来夢が不満げに、魔獣を追い払う際に召喚したポチベロスを抱きかかえる。
「無茶言わないでよ」
「聡志の言う通りよ。今日は我慢すればいいじゃない」
「嫌なものは嫌。さっさと準備して」
「おい来夢。おれは反対だぞ」
「ぼくも」
「わたしもよ」
サバイバル経験はないけれど、夜に深い森で自由に動いたらダメなことくらいはわかる。もっと深い場所へ迷い込んでしまうのがオチだ。
「そう。じゃあ、わたしはポチベロスと一緒に行くから」
「ちょっと来夢」
「仲良く三人一緒にいればいいじゃない。わたしは一足先に帰ってるから」
「来夢!」
引き留めるも、来夢は聞かない。ポチべロスは困惑したように、三つの首で来夢とぼくらを交互に見やる。
「放っておきなさいよ。自分勝手な奴は自滅してればいいじゃない。どうせ、リスポーンできるんだから」
「でも……」
来夢が暗闇に消えていく。
ぼくは手を伸ばしたけれど、駆け寄って引き留める勇気はなかった。
・・・
森の中だけあって、人工の灯りはなにもない。だから、星が一つ一つはっきりと見える。
普通なら感動するのだろうけれど、森に放り込まれて文字通り製紙がかかっている今は、なにも感じない。
快適な布団はないけれど、焚火で暖は取れている。疲れ切っているからすぐに眠れると思ったけれど、目はパッチリ覚めて眠れそうにない。
「起きてる?」
「寝てる」
「寝てるわ」
「そっか。……いや、起きてるじゃん。一瞬騙されかけたよ」
こういう時にナチュラルなボケは止めてほしい。
「来夢どうしてるかな」
「学校に戻ってるんじゃない? 多分、リスポーン経由で」
「そうなのかなぁ」
「考えるだけ無駄よ。さっさと寝ましょ」
余々子は心底面倒臭そうに寝返りを打った。
「来夢のこと、心配じゃない?」
「わたしが? まさか。いなくてせいせいするわ。だってあいつ、部屋でもわたしの読書を邪魔するのよ」
「本当に読書だけ?」
「盛り上がったら音読しちゃうけど」
「絶対にそれが原因だよね」
ぼくだって部屋の中でBLの内容を音読されたら嫌だ。
「健次郎は?」
「……実はちょっとしてる」
いくら本当の意味で死なないと言っても、暗い夜道に一人いる心細さは誤魔化せない。それに、来夢も一人の女の子だ。
「放っておけばいいじゃない。わたし、ああいうギャルにいじめられたことあるから、ちょうどいい復讐だわ」
「本当に言ってる?」
「なんでよ?」
「余々子、いつも来夢と一緒にいるから。さっきだって仲良さそうだったし。心じゃ心配なんでしょ」
「わたしが? そんなわけ……」
余々子は少し黙ると、勢い良く立ち上がった。
「そうよ! 心配よ! 陽キャだし、なにも知らないくせにわたしより才能あるし! でも、なんだかんだ良くしてくれる来夢が心配よ!」
「おれも余々子に同意見だ。多少のワガママくらい許してやらないとな」
「じゃあ、行こうか」
ぼくらは火を消した。
なにも頼りのない深い森へ足を踏み入れていく。
サブタイトルに書いてある通り、夜中に焚火を囲むとみんな秘密をべらべらしゃべりますよね。プラス暖かいココアなんてあったら、半ば自白剤と同じです。あれ、なんでなんでしょう? 火を見ると邪気が払われるんですかね?
きっとキャンプファイヤーとかでぽろっと好きなこの名前を漏らしてしまい、翌日にクラス中に知れ渡っている人も多かったはず。めっちゃ恥ずかしいですよね~。