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七話:試練はいつも藪からスティック

あらすじ

 女神から近いうちに試練があると教えられる。

 ぼくらはリュックサックを背負って、未舗装の険しい山道を登っていた。

 

 地面には拳大の石がゴロゴロ転がっている、凸凹の獣道だ。その中を、みんなで息を切らしながら登っていく。


「はぁ、はぁ……。いくらなんでもキツすぎる……!」


 もう一時間は登っているのに、いまだ頂上が見えない。


 昨夜の訓練が終わると、もも先生から「明日は山登りだ!」と通達されたのだ。

 早朝からの行進。ぼくの体力は底を尽きかけていた。


「無様ね聡志……。 もうギブアップ? はぁ、はぁ……!」

「余々子も息が上がってるみたいだけど……?」

「これは違うわ……。その……。脳内で美男子たちがイチャイチャしてて、それに興奮してるだけだから……!」

「ド変態か……!」


 ド変態か。


 先を行く健次郎と来夢は、呆れたように待ってくれている。


「おしゃべりしてると、余計に体力使うぞ」

「おしゃべりでもしてないと、倒れちゃいそうだよ」

「ほら、ちょっと助けてやる」


 そう言って、健次郎が後ろに回って背中を押してくれた。


「これは……」

「どうしたの、余々子?」

「なんというか、男子の友情? やだ。美男子じゃないのに燃えてきた」


 鼻血を出す余々子。正真正銘のアホだ。


「バカ言ってんじゃないの」

「ほら、来夢も」

「なんであたしが手伝わなくちゃいけないのよ。自分で歩きな」


 このリュックサックというのが曲者で、数キロもないのにだんだんと肩に食い込んでくる。


「まったく。山登りって疲れるだけじゃない。趣味にしてる奴の気が知れないわ。ドMななのかしら」


 余々子が恨み節たたっぷりに文句を垂れる。すかさず健次郎が、「新鮮な空気と緑があっていいじゃないか」と反論した。


「新鮮な空気なら散歩すればいいし、緑が見たかったら観葉植物でも育てればいいじゃない」

「わかってないな。肌で感じることが大切なんだぞ」

「わからないわ。来夢だってギャルだから、こういう学校行事サボったでしょ?」

「参加してたけど。だって、友達とこういう体験するの楽しいじゃん。普段つるんだことない奴とも接点できるし、なんなら山の上で写真撮影とか映えるよ。余々子だって一回くらいはそういうの経験してるでしょ」

「やめるんだ来夢。その陽キャ発言が余々子の精神値をゴリゴリ削ってる」


 ぼくがとっさに止めたけど、間に合わなかったようだ。

 陰鬱な表情で、「どうせわたしは陰キャの中の陰キャよ」と自虐し始めている。あー、面倒くさいな。


 それでもぼくらはひたすらに登り続けた。

 もうだめだ。余々子と一緒にギブアップしかけた時、視界が開けた。


 そこは頂上だった。

 突き抜けるような水色の空。見上げるものはなにもない。ぼくらが一番上に立っている。

 眼下には緑一色で染められていて、あれほど大きかった学校が小さく見える。


「お前らご苦労! ひとまず休憩だ! 昼食を食べてもいいぞ!」


 引率のもも先生と、数人の先生がその場を離れていく。生徒たちは一息ついて、思い思いの場所に腰かけた。


 といっても、どこもかしこも石が転がる荒れ地だ。適当な平べったい石に座り、リュックサックを開けた。


 今日の昼食は弁当だ。事前に通達されていて、厨房を借りるもバイキングの余りを使うも自由。ぼくはあまり料理が得意でないから、バイキングの余りを詰めさせてもらった。健次郎と余々子も同じだ。


「来夢は自分で作ってきたの?」

「ああ、まあ。うん」


 煮え切れない返事だ。

 弁当を背中に隠している。


「見せてよ」

「笑わないでよ」

「笑わないよ」


 来夢は恥ずかしそうにお弁当を前に出した。

 弁当箱の中心には茶色の可愛らしいクマが置いてあり、その横には卵で作ったらしいウサギが数羽仲良く集まっている。

 全体的にファンシーなキャラ弁だ。


「久しぶりに料理できるって言われてさ、ちょっと張り切ったら本格的になっちゃって……。似合わないよね」


 そんなことないよ! って否定したかったけど、驚いてできなかった。


 だって来夢ならミルクティーと菓子パンだけで余裕でしょ、みたいなイメージしかなかったから、こんなかわいいキャラ弁を出されたらびっくりしてしまう。


「一個ちょうだい」


 余々子はひょいと手を伸ばすと、ウサギを一羽食べてしまった。


「おいしいじゃない」

「本当に?」

「凄いと思うわよ。わたしは全然料理できないし」


 余々子は大きく息を吐くと、「意外と山登りって悪くないわね。こんなきれいな景色観れるなんて」と言った。


「余々子……」

「なによ?」

「疲れすぎて頭おかしくなった?」

「人が感傷に浸ってるっていうのに!」


 余々子は来夢の肩を小突くと、そっぽを向いた。


「こういうの初めてなのよ」

「山登り?」

「みんなとするイベントよ。わたし、ずっとぼっちだったから。友達なんて一人もいなかった。クラスじゃ空気も同然だったし、それに慣れてた。群れてはしゃぐなんてガラじゃないと思ってたわ。でも、こうしてみると悪いものじゃないわ」

「余々子、もしかして照れてるの?」

「うっさい」


 余々子は頬を赤らめると、黙々とご飯を食べ始めた。

 来夢も無表情になろうと頑張っているけれど、口角が嬉しそうに上がっている。


「意外とかわいい所もあるもんだな」

「意外とね」


 健次郎と、二人に聞こえないくらいの声量でコソコソ話した。


 弁当を食べ終わって、寝っ転がりながら空を眺めていると、先生たちが戻ってきた。


「みんな食べ終わったかー? それじゃ、次のレクレーションするぞ」

「レク? 鬼ごっことかですか?」

「違う違う。下山だよ。お前たちは学校に帰らなくてはならない」

「そんなの当たり前じゃないですか」

「一味違うぞ。これから言う班ごとに集まれ」


 先生たちが四人ずつグループ分けをする。百人だから、二十五グループだ。

 ぼくの班は、いつもと変わらない面子の、ぼく、健次郎、余々子、来夢だった。


「よし、グループ分けできたな。これからお前らには各班自力で下山してもらう。この山のランダムな場所にワープさせるから、そこから学校を目指せ。わかったな」


 生徒たちの間にどよめきが走る。


「心配するな。座学でサバイバルの方法はあらかた教えてやっただろう」


 ぼくは手を挙げ、「クマとかイノシシはいないんですか?」と聞いた。


「いない。いるのはもっと凶悪な魔獣だ」

「ええっ⁉」

「安心しろ。お前らには武器と魔法がある。それを駆使して生き残れ。もちろん、死んだら学校にリスポーンできるが、大きな減点だ。では、健闘を祈る」


 もも先生が言い終わるのと同時に、先生たちが指を鳴らす。

 途端にぼくらの足元に穴が空き、そこへ吸い込まれていった。


 一秒もしなううちに、深い森にワープしていた。

 辺りには目印になる者はなにもない。一面緑と緑と緑だ。


「こ、これって」

「ああ。本当に森の中だ。――うおわぁ!」


 横に武器と食料と水筒が降ってくる。

 もも先生がワープホールの淵から顔を出し、「頑張れよ」と一言残して去っていった。


「「「「……」」」」


 お互いに顔を見合せる。


「ちょっと待って。ここから下山? というか、ここどこなの?」

「さあ、わたしも知らないわよ。とにかく下へ行けばいいんでしょ」


「おい」

「やみくもに行ったら逆効果だよ。とにかく作戦を立てよう」


「今日中には帰れるかしら?」

「努力するしかないっしょ」


「おいってば」

「さっきからなによ、健次郎」


 健次郎が指差す先には、牙が異常に発達して、血走った目でこちらを凝視している巨大なイノシシだった。


「「「「……」」」」

「ぶもぉぉぉおおおおおお!」

「「「「ぎゃぁぁぁあああ!」」」」

 山って本当に怖いです。限界に臨む武道の修行者以外は登山ルートから外れないようにしましょう。

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