六話:残された人たち
あらすじ
ついにジョブを決めた四人。聡志は剣士、健次郎は武術家、余々子は魔法使い、来夢は召喚士になった。
剣って想像以上に重い。
適当に振れば体が泳いじゃうし、腰にかけるだけで重心が偏ってその方向へ体が傾いてしまう。なにより、姿勢がよくないともっと辛いから、背筋を伸ばさなくちゃならない。なかなか大変だ。
今まで見てきた漫画やアニメのキャラクターはひょいひょい振り回していたけれど、あれはたくさん鍛錬を積んできた成果なんだろう。ぼくみたいな初心者は、一から練習しなくちゃならない。
ぼくは先生たちに許可をもらって、深夜の運動場で剣の素振りをしていた。筋力も運動神経もないなら、沢山練習しなくちゃいけない。
努力は好きじゃない。だけど、後の異世界生活のことを考えたら、頑張った方がいい。そう思えば、逆に楽しいくらいだ。
「百九十九! 二百!」
二百回やり終えて一息つく。こまめに休憩しているけれど、手のマメが破けて、ヒリヒリと痛んだ。
「熱心だね」
突然背後から声をかけれられて、ぼくは飛び上がった。女神さまだった。
「感心感心。チートに頼り過ぎるのもよくないからね。転生後の生活も、基礎ができているのとできていないのでは、大違いだよ」
「ありがとうございます。やっぱり、転生したいですし。それに、今までロクに体動かしてこなかったので」
「うんうん。努力家は好きだよ。ここでの暮らしは楽しいかい?」
「大変ですけど、楽しいです」
「それはよかった」
「でも、気になることがあって」
「なんだい?」
「お父さんとお母さんがどうしているか、知りたくて」
女神さまは困ったように眉尻を下げると、「原則、現世の情報を教えられないからなぁ」と言った。
「ですよね。すみません」
「うぅむ。まあ、一回くらいいいか。内緒だよ」
女神さまは大きな水晶をどこからか取り出した。
中には少し頬がこけた父さんと母さんの姿が映し出されていた。
「連日彼らは悲しみに暮れているよ」
「父さん、母さん……。迷惑かけてばっかりだったのに……」
「そうかな? 二人は少なくとも迷惑だとは思っていなかったみたいだ。心の底から君を愛していた」
目頭が熱くなった。
涙があふれてしまいそうで、ジャージの袖で拭った。
「生きることは素晴らしく、死ぬこともまた素晴らしい。命の営みは常に循環していて、万物は流転し続ける。心配ないさ。君という存在はあの世界からは消えてしまったが、価値のある生と死を送った。女神の名に懸けて保証しよう」
「ありがとうございます。わざわざぼくために」
「わたしの能力なら簡単なことさ。お礼を言われるほどのことでもない。そうだ。礼儀正しい子には良いことを教えてあげよう。もうすぐ試練がある。頑張るんだよ」
「なんですか?」
「詳しいことは秘密さ。楽しみにしていて」
女神さまは微笑むと、すっと溶けるように消えてしまった。
涼しい風が火照った体を撫でる。ぼくは大きく息を吐いてやる気を出すと、もう一度剣を握った。
異世界ものの主人公って、家族兄弟友達のことが気にならないんでしょうか? わたしなら、チートもらってハーレム作ってウハウハだぜ! とはならないような。人にもよりますけど、元の世界残した家族のことが気になりますし、ペット飼ってたらめちゃくちゃ不安になりますよね。