四話:魔法と才能と浴場と
あらすじ
ついに始まった異世界転生への訓練。しかし、基礎体力の鍛錬の連続だった。
午前の訓練が終わり、昼食をとると、次は座学が始まった。
制服に着替えて、大きな教室に行く。
扇状に広がった木造の椅子に座って、先生の授業を聞く。座学の先生は眼鏡をかけた白髪の老人で、疲れているのか覇気がない。
「みなさん、どうも始めまして」
「なんだか、幼女の先生が出てきたから変な人が来るのかと思ったけど、案外普通だな」
「私が座学を担当するバルボド・エバ・レコンタ・レッドブルードラゴン・チュパチュパ・マスタソード・ヴァンヒルデ・アサギ十二世です。アサギ先生と呼んでください」
「全然普通じゃなかった……」
というか、途中なんか吸ってなかった?
「では、さっそく授業を始めましょう。まずは異世界というものはなにか。それは、みなさんが元いた世界とは違う時間軸で存在している世界です。物理法則はだいたい同じですが、大方の異世界には魔法があります」
先生が黒板に人体図を書き、その中にコイルのような線を引いて、「魔力」と横に説明文を書いた。
「魔法を使うには主に二つの方法があります。一つは体内の魔力を精製する。一般的ですね。もう一つは龍脈や土地の力を使う方法です。前者の場合、魔力以外では気やチャクラとか言われたりします」
ここまでは異世界好きにとっては常識だ。
横に座る余々子も理解できているようだ。こら。こっそりノートの端に、やたらリアルなちん〇んラクガキするの止めなさい。
「魔法を発動する過程には様々な手順があります。魔法陣が必要だったり、高度な数学が必要だったり。しかし、平均的な異世界なら言葉にすることで使えます。ひとまず、体験してみた方がいいでしょう。まずは初級魔法から」
先生は人差し指を天井へ向け、「出でよ、火」と言った。
指先にロウソクくらいの丸い火が出て、ゆらゆらと揺れた。
「みなさんもやってみますか。難しいですけどね。どうぞ」
今度こそ才能開花だ。絶対に成功させてみんなを驚かせてやる。
「出でよ火」
なにもおこらない。
「出でよ火!」
なにもおこらない。
「出でよ火! 出でよ火! ほら! 出でよ火! イデヨヒィィィィイイイイ!」
「落ち着け聡志。お前ソプラノ歌手みたいになってるぞ」
なんで⁉ なんでこんなに集中しているのにできないの⁉
「無様ね聡志。火も起こせないの?」
「じゃあやってみなよ」
「見てなさい。出でよ火!」
なにもおこらない。
「出でよ火!」
なにもおこらない。
「出でよ火! 出でよ火! 地獄の底より業火を散らせ! 終末の轟! ヘルバーニング!」
「黒島さん、そんな禍々しい魔法を作らないでください。というか、ありませんから」
アサギ先生が堪らずツッコむ。
すると横で、「あ、できた」と来夢が言った。
指先には確かに赤くて小さな炎が灯っていた。
「おや、成功者がいましたか。いやはや、最初からできる人は稀ですよ。素晴らしい」
「そうなの? へへっ。なんだか照れるな」
「ええ、あなたは良い魔術師になるでしょう」
「イデヨヒィィィィイイイイ!」
「諸角さん、うるさいですよ」
「「イデヨヒィィィィイイイイ!」」
「黒島さんもうるさいですよ。二人で汚い合唱をしないでください」
それから必死に念じ続けたけれど、ぼくと余々子の指から炎が出ることはなかった。
・・・
「ねぇ健次郎。ぼくってダメなのかな」
広い浴場の片隅で肩まで湯に浸かりながら愚痴る。
午前中の疲れが溶けていくように気持ちいけれど、心は晴れない。
「心配するなよ。まだ始まったばかりだろ。それに、おれもできなかったし」
「でも、なんでなにも知らない来夢にできて、異世界好きなぼくができないんだろう」
「始めは多少はセンスだ。根気強くやっていけばできるって。なんでも一緒さ。なにもできない状態から、練習を重ねて慣れていく。赤ちゃんの時は誰も歩けなかったし、喋れなかったんだぜ」
「……ありがと。元気出てきたよ」
「体力の方も同時に鍛えなくちゃいけないけどな」
「憂鬱だなぁ」
逞しい健次郎の体に目が行く。
対してぼくはひょろひょろでもやしみたいだ。一年間トレーニングすれば、少しは良くなるんだろうか。
体の芯まで温まったところで、浴槽から上がって更衣室へ行った。
「明日も訓練かぁ。多分、筋肉痛で動けないよ」
「よくマッサージすると結構楽だぞ。後でやり方教えてやろうか?」
「ありがとう」
「具体的にはどこを揉むの? 股間?」
「そんなわけないだろ。……なあ聡志、今なにか喋ったか?」
「いや、ぼくじゃない」
あれ? ぼくと健次郎じゃない声が挟まったような気がしたんだけど。
「股間がなんとか言ってたよね?」
「ああ」
「それ、わたし」
「「なんだ、余々子か。……って、余々子⁉」」
そこには、カメラを持った余々子が立っていた。
ぼくらは慌ててタオルで股間を隠した。
「な、なななななにしてるの⁉ ここ男子更衣室だよ!」
「知ってるけど?」
「知ってるなら入らないでよ!」
「男の裸体を撮るならなんのその!」
「撮らないで!」
「減るもんじゃないでしょ。ケチケチしないでよ」
「恥ずかしいんだよ! 余々子は見られたいの⁉」
「そんなわけないじゃないでしょ。スケベ」
「倫理観バグってんの?」
おかしいな。同じ日本語を話しているつもりなのに、全然話が通じない。
すると、更衣室の外から「おーい! 余々子どこだー⁉」と来夢の声が聞こえてきた。
「ちょうどよかった! 来夢! この変態を引き取って!」
「え⁉ 中にいるの⁉」
「そうなんだよ! お願いだから!」
「そ、そんなことしたら見えちゃうでしょ!」
「いいから! そうじゃないとぼくらの裸がフィルムに収められることになる!」
ぼくはシャッターを切ろうとする手を掴み、健次郎はその隙にパンツを履いて、余々子を羽交い締めにした。
「こっちだ来夢! 声がする方へ来い!」
「放せー!」
「なんて馬鹿力だよ! 性欲に関わるとこんなに強くなるのか!」
健次郎がこめかみに青筋を立てながら余々子を留める。
来夢は目を瞑りながら、ふらふらと男子更衣室に入ってきた。
「こっちこっち!」
「急かさないでよ!」
来夢がなんとかぼくらの前に来る。
そして余々子の手を掴む直前、余々子が来夢の手を誘導し、ぼくの股間に触れさせた。
「へぁ?」
「え? これ余々子の手? なんか変な感じするんだけど……」
来夢がぼくの股間を鷲掴みにする。
直後、竿と球に激痛が走った。
「ほら、帰るよ」
「あああああ! 引っ張らないでいだだだだ!」
「なに?」
来夢が薄目を開ける。
掴んでいるのがぼくのあそこだと気づくと、一瞬で顔を真っ赤にして、唇を震わせた、
「わ、わたわたわた……! このド変態!」
「違うから! 勘違いしないでごふぅ!」
来夢のボディーブローがお腹に炸裂する。
ぼくは耐え切れなくて、KOされたボクサーのように崩れ落ちた。
なんだこの学校生活……。
体にある魔力を使って放つタイプも好きですが、土地の力--例えば龍脈から力を借りるタイプも好きです。龍脈の概念自体風水から来たものなので(そうだったっけ?)中華か和風ファンタジーになるでしょうね。