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三話:チートは遠い……

学校に入れられた聡志。そこで健次郎、余々子、来夢と出会う。

 翌日の朝、ぼくらは学校内の運動場に呼ばれて集合していた。

 なんでも、訓練が始まるらしい。みんな、支給されたジャージを着てそわそわしている。


 しばらくすると、竹刀を持った小さな幼女がとことこ歩いてきた。見た目から推測すると、五、六歳くらいだろうか?

 

 そしてみんなの前に立つと、「整列!」と甲高い声で命令してきた。


 ぼくらが困惑していると、「整列だ整列! 貴様ら、現世の学校でそんなことも学んでこなかったのか!」と一喝した。


 ぼくらは言われるがまま、もぞもぞと縦横の列を作ると、幼女は満足げに鼻を鳴らした。


「わたしはもも! 体育教師として貴様らへ魔法及び戦闘のやり方を体で教えてやる! 感謝しろ!」


 この小さな幼女が先生……いや、漫画でも強い幼女はいるけど。

 それにしても、普通の幼女だ。


「おい! 誰かこんなちっさい幼女なんかで大丈夫かって思っただろ! わたしだって天界の住人、これくらい朝飯前なんだぞ!」


 もも先生は「ハッ!」と拳を握り締めると、地面が揺れた。

 立って入れられないくらいの揺れになり、運動が真っ二つに割れた。

 地割れは徐々に大きくなり、人一人分くらいの大きさまで広がって……って、あれ?


「ふふん。どうだ。これがわたしの力だぞ」

 

 もも先生は誇らしげに言うと、もう一度拳を握りしめた。地割れが一瞬で閉じ、地面が揺れて生徒全員が転げた。


「これからは尊敬と畏怖の気持ちをもってわたしに接するのだな。わかったか!」

「先生。健次郎が地割れに飲み込まれました」

「……」

「……」

「よし、訓練を始めるぞ!」

「無視しないでください!」

「大丈夫だリスポーンされるから。もうすぐしたら戻ってくる」


 そういう問題なのかなぁ?


 でも、健次郎がリスポーン送りにされていても、ぼくの胸は興奮に高まっていた。


「なにニヤニヤしてんの?」


 来夢が聞いてくる。


「決まってるじゃないか。自分の才能が開花するイベントだよ! 初めての魔法。恐る恐るやってみたら、なんと強力な魔法が発動しちゃうんだよ。周りはびっくりして、『こんな才能見たことがない!』って驚くのがテンプレなのさ。カーッ! 困っちゃうな!」


 異世界転生といったらこのイベントは欠かせない。

 どのネット小説でも、見下される主人公が周りから認められる重要な通過地点だ。


「都合がいい妄想じゃん。オタクってこういうこと考えてるの?」

「オタクのロマンだよ! 異世界なんだから夢見たっていいじゃない!」



 来夢が余々子に視線を置くる。余々子は首を横に振って、「わたしの守備範囲は二次元でもBLだけだから。異世界とかは知らないわよ」と言った。


 とにかく、ここからぼくの伝説は始まるんだ。

 いざ、覚醒!


・・・


「まだまだ終わりじゃないぞ。腕振って走れ」

「ひぃぃいいい!」


 現実はぜんぜん甘くなかった。それどころか、予想とまったく違う。

 突然始まったグラウンドグルグル十キロ走。もちろん、体力のないぼくは一キロの地点でバテバテだ。

 みんなも、元運動部だった人はまだ大丈夫そうだけれど、文化部風や太った子はヒイヒイいいながら走っている。


「あと、あと、何キロ⁉」

「あと七キロくらいじゃないか?」

「な、なんで健次郎は平気なの⁉」

「野球部だったからな。これくらいなら散歩と同じだ」


 リスポーン地点から戻ってきた健次郎が、涼しい顔で言う。並走している来夢もまだまだ余裕の表情だ。


「部屋の中に引きこもってるからダメなんじゃない?」

「陽キャめ! 陽キャと運動部は足に鉄球つけて走れー!」

「なんでよ……」


 オタクの精神値をゴリゴリ削ってきやがる。


 もちろん余々子も遅い組だ。ぼくと一緒にゼイゼイいいながら走っている。


「聡志、まだまだね。わたしなんて、まだまだ走れるわよ。おぷっ」

「その今にも吐きそうな顔じゃ説得力ないよ!」


 実はぼくもそろそろヤバイ。胃がひっくり返りそうだ。


「おらおら。まだ始まったばかりだぞ。チートもらえるからって、基礎体力がなくてもいいわけじゃない。ちゃんと鍛えないと剣を振ったり魔法を使ったりなんてできないんだからな」

「そんなぁ!」

「この後も筋力トレーニングがあるからな。覚悟しろよ」

「ごぱぁっ!」

「ダメだ! 余々子が耐え切れずに吐いた!」

「それでも走れ!」

「鬼だ!」


 それでもぼくらは走り切った。肺の底まで絞り出してなんとか走り切った。


 続く地獄の腕立て伏せとスクワット、腹筋背筋はぼくらを死ぬ寸前まで追い込んだ。体が焼けるとはああいうのを言うんだろう。


 今まで生きてきて、こんなに疲れたことはない。

 ぼくらは持てる力を出し切って、なんとか訓練を終えた。


「初日はこんなもんか。また明日もやるから、しっかり休むように。解散」


 もも先生が去っていく。


「ふう。いい運動になったな。おれもさすがに疲れたぜ。聡志は大丈夫か? 生まれたての小鹿みたいになってるけど」

「平気だよ。うん、平気。いや、やっぱりおんぶして」


「わたしも足がバイブみたいだわ。おんぶして来夢」

「バイブとか言うな! 恥ずかしいでしょ」

「清楚ぶっちゃって、ビッチのくせに」

「ビッチじゃないわ!」

「どこを見たってビッチビチのビッチじゃない」

「魚みたいに言うな!」

「じゃあなに? ビッチビチの一年生?」

「ピッカピカみたいに言うな!」


 まったく、と愚痴りながら来夢は余々子をおんぶする。来夢も見た目はギャルだけど、結構優しいんだな。


 初日から散々だ。魔法も教えてもらってないし。本当に転生できるんだろうか。

 基礎鍛錬って大事です。剣って見た目より重いですから。鉄の塊振り回すわけですから、簡単ではありません。日本刀も片手で振るのは難しいです。修練が必要ですね。

 そういえば、ウチの祖母は居合道を習っていました。今ではおばあさんですが、刀持たしたら普通に強いかもしれません。皆さんもおばあさんに喧嘩を売る時は、居合道家じゃないか気をつけましょう。

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