ポンコツ王女の育て方〜いいかげん私の手には負えません!……いや、人のこと言えないから〜
暇つぶしに書きました。
なので、暇つぶしにお読みください。
とある王宮の一室。
一人の侍女は苦悩していた。
「……駄目だわ。あの子は私の手に負えない」
長机の上に伏しまるで力尽きたかのようにだらりと腕を垂らす。
彼女は王宮に使える侍女の一人、名をジェシカと言う。
国王陛下の勅命により、彼女は王女であるシエナに対し、王女としての教育を行うように命じられた。
しかし、結果見事に失敗続き。
シエナ王女の王女としての振る舞いはまるで完成しなかったのである。
「お疲れみたいだねジェシカ〜」
顔を伏せるジェシカに哀れむような視線を向けるのはジェシカの先輩侍女であるローラだ。
「先輩……私、もう駄目かもしれないです」
「あははっ、ジェシカも苦労してるね」
まるで自分がその苦労を知っているかのようにローラは苦笑する。
「先輩も元はシエナ様の教育係だったんですよね」
「ええ。大変だったわ……開始二時間で挫折したもの」
遠い目をするジェシカとローラ。
苦労人同士、二人は互いの味わってきた苦労をよく理解しているようであった。
「どうすればいいと思いますか。私はもう分からなくなってしまいました……」
何を教えても上手く行かない。
いったいどのような教育を施せばシエナ王女は成長するのだろう。ジェシカはそれが分からず、そして教育方針が固まらないまま、無益な時間を浪費する。
そんな永遠に続く負のスパイラルに陥っていた。
無論、ローラにも解決方法は思い浮かばない。
「私の教育が駄目だったから、ジェシカが後任としてシエナ様の教育している訳でしょ。なら、私に聞いても意味がないと思うけど」
「そうでした……」
完全に行き止まり状態である。
「シエナ様に王女様らしい作法が身につかないと、私クビになっちゃいますよぉ〜」
「まずは一つずつ問題点を解決するしかないだろうね」
「その問題点を解決できればいいのですけどね」
シエナ王女の欠点。それについてジェシカはしっかりと把握している。
壊滅的な運動センスの無さによって、社交ダンスは踊れない。
好き嫌いが多く、テーブルマナーどころではないところ。
圧倒的にお洒落が嫌いで、ドレスなどを着せようとするとすぐに逃亡する。化粧なんてした日には大泣きする始末である。
そして、これだけ把握していても、ジェシカはシエナ王女に対して有効打を打つことができない。
というのも問題があったのはシエナ王女だけではなかったのだ。
「シエナ様って、とても可愛らしいじゃないですか」
「うん。いきなりどうした?」
「あの純粋で綺麗な瞳をこっちに向けて言われるんです。『今日のレッスンはお休みにしてくれない?』って」
「え、まさか……それで時々サボらせてるっ」
「だって仕方ないじゃないですか‼︎ あの可愛さに抗えって言うんですか‼︎」
「抗いなさいよ……」
その通りである。
「いや、待って……ちょっと頭痛くなってきた」
ジェシカの思わぬ告白に理解が追いつかないローラ。
そう、ジェシカは完全にシエナ王女に籠絡されていたのだ。
教育係としては致命的、というか王女のわがままを素直に認めてしまっている時点で、教育もなにもないのである。
「ジェシカさ、あんた多分この役向いてないわ」
「うん。私も最近感じてる……シエナ様の嫌がることはしたくないって思っちゃうもの」
しかもジェシカは既に末期の症状にある。
教育を施さねば、自身の職が失われると分かってはいるものの、その癖シエナ王女にねだられたら、お願いをされるとまるで魔法にかかったかのように言うことを聞いてしまうのである。
「どうする? 転属願いでも出しとく?」
「シエナ様と離れるのは嫌です。でも教育係は無理です……」
「ジェシカは随分矛盾していること言うのね」
結局、このままでは堂々巡り。
平行線のまま何も解決せず、そのまま次の日へと繰り越されていく。
「あっ、そうだわ!」
っと、ここでローラはとあることを思い付いた。
「先輩? どうかしましたか?」
「そうよ。ああすればよかったのよ!」
「あの、一人で盛り上がられても困るんですけど……」
状況を掴めないジェシカはローラの興奮ぶりを冷めた目付きで見守ることしかできなかった。やがて、その痛烈な視線を感じたローラは「こほん」と一つ咳払いを加える。
「えっとね。私が言いたかったのは、シエナ様に恋してもらえばいいってことよ!」
……恋? ジェシカの疑問は消えない。
しかし、ジェシカはそれについて深く考える。恋、恋、恋……恋‼︎ なるほどっ‼︎
っとジェシカも顔を綻ばせた。
「流石先輩! 目の付け所が違いますね!」
「ジェシカ分かってくれた?」
「もちろん、つまりシエナ様を私が惚れさせればいいということですよね!」
「なるほど! 全然分かってないことが分かりました」
斜め上を通り過ぎていくジェシカの発想に頭を抱えるローラ。
「……なんでそういうアホな発想しますかね」
「え、アホ……えっ?」
ローラの反応は当然のものであった。
「あのね、ジェシカ。恋というのは普通異性に対してするものなの。異性に恋をして、少しでも自分磨きに興味を持ってくれたらいいんじゃないかなって、私はそういうことを言いたかったの」
ローラの諭すような説明にジェシカは口を開けたままフリーズしている。
「わ、私に惚れさせる計画が……」
「いや、そもそもそんなもの想定してないし、あとその手の震えやめなさい。薬でもやってるのかってくらいヤバいわよ」
ローラの指摘を受けようとも、ジェシカは変わらず小刻みに震える。
そして、
「駄目! シエナ様は私のものよ!」
「うん、だからその謎の独占欲はどうした?」
「ローラには渡さないわ!」
「うん、私一言もシエナ様を惚れさせたいなんて言ってないよね? 脳内変換バグってるんですかぁ?」
見当違いの反応。
もはやジェシカのそれはシエナ王女に対する過度な依存の症状が出ていた。
他のものに目が向かない。
完全にジェシカの目は節穴なのであった。
「そもそも、恋する相手が異性だけって、誰が決めたのよ‼︎ 冴えない教育係と天使のような王女様との恋があったっていいじゃないの‼︎」
「いや、私は一般論を述べただけでダメとは言ってないし……」
「じゃあ、私とシエナ様との恋……応援、して?」
「その上目遣いやめて、なんか変な気分になる……」
予想以上にこのシエナ王女教育問題は深刻なようだ。ローラは改めて認識を正す。
まず、シエナ王女以前に教育係がポンコツ。
それから教育係の性癖が壊滅。
そして、自らの身の危険さえ感じさせられ凶器に溢れた教育係の醜い姿……。
テーブルマナーもこれらのゲテモノフルコースの前では何一つ通用しない。
まさに悪夢そのものと言っても過言ではない。
「ジェシカ、分かった。貴女の気持ちはよーく分かったから」
ローラはジェシカの肩に手を置き、自分に顔を近づけてきていた彼女をそっと引き離す。
「さて、ジェシカ……」
「はい、先輩!」
「まずは心の病院にでも行こうか」
ローラのその想いは切実なものであった。
シエナ王女はポンコツ王女なのかもしれない。けれども教育係のジェシカはそれを軽く凌駕する心の闇を抱えている。
確かにシエナ王女は手には負えない問題児である。
でもそれ以上に貴女はシエナ王女の手には負えない存在。むしろ、手に負いたくない子ですらあると思うわよ……。
ローラは思う。
この教育係とポンコツ王女は組み合わせてはいけないものだと。混ぜるな危険、それは彼女達のために生み出された言葉であるのかもしれない。




